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第120話 アップデート情報



 アバター変更!!



 俺の脳内でその言葉が歓喜の花びらと共にグルグルと巡っている。

 ……ただし、とんでもない超高速で。


 ああああ!

 速すぎて目が回る!

 マッハ超えてるだろこれ!

 嬉しいのはわかるが、落ち着け俺!


 それほどに衝撃的なワードだった。


 暗く深い海の底に差し込んだ一筋の光明。

 荒れ果てた不毛の地に芽吹く一輪の花。

 狂おしいほどに切望してきた答えが、今まさに顕現したのだ。


 このバグった幼女姿から元のアバターに変更すれば、俺の肉体も男に戻れるんじゃね!?

 うおおお!

 希望が見えてきたぞ!


 俺は、せめて心の中だけでも男らしく雄叫びを上げながら、がむしゃらにお知らせページをった。

 周囲では同じようにヒナもツナの缶詰さんもキンさんも慌てて運営からのお知らせを読んでいる。


 わかるわかる。

 アップデートはなんだかんだで楽しみなんだよな。


 ……地面をのたうって『あふんあふん』と喘いでるハカセはキモいから放置で。

 興奮のしかたが相変わらず下品すぎる。

 こんな人間ヘンタイ天才ヘンタイだと言うのだから世も末だ。


 そういや、バカと天才は紙一重とも言うしな……

 いやいや、今はこんなのを構ってる暇なんてない!


 いつだ!?

 どこだ!?

 俺を救う聖域よ!


「おぉっ、ハロウィンイベントもやるみたいだよ。こいつぁ楽しみだね(女子のイベント衣装を堪能するとしよう。グヘヘヘ)」


 うるさいぞ栗毛サングラス!

 心の声がダダ漏れだぞ!

 ハロウィンなんて最近無理矢理に流行らせたニワカイベントだろ!

 あんなもんはバレンタインと一緒で菓子会社の陰謀だ!

 そもそもそんな情報は後回しでいい!


「こ、これは……!」


 ツナ姉さんが驚愕してる!

 見つけてくれたのか!?


「か、かわいいテイムアニマルが大量実装されるようです……! ど、どうしましょう!? 今のうちにテイミングアイテムを山ほど買っておくべきでしょうか!?」


 って、違うんかい!

 獣なんざニャルとニコで間に合ってます!


 でも後できちんと注意するからね?

 ツナ姉さん(この人)はほっといたら全ての動物を集めてきそうだしな。

 団が動物園になっちゃうよ。


「アキきゅん、アキきゅん! これ見てください!」


 きたぁ!

 我がブレインのヒナさま!

 いつだって俺を助けてくれるのはヒナだけさ!


「見つかったの!?」

「はい! なんと新しい職業ジョブが追加されるみたいですよ! 魔導士の更に上があるなんて……! ワクワクが止まりません!」


 そっちかーーーい! 


 俺には全然関係ない話だろそれ。

 どうせ追加されるのは基本職ばっかりで、姫騎士の上位職なんて無いんでしょ。

 仮に実装されるとしても当分先になりそう。



 それにしても見つからねぇな!

 さっきから舐め回すように読んでるってのに!


 どこにアバター変更に関する記述があるんだ?

 まさかハカセの野郎、熱望するがあまりに妄想を現実だとでも思ってんじゃねぇのか?


「おい変態……じゃなかった。ねぇ、ハカセ」

「あっふーん! あふぅん! 今いいところなのォ!」


 ダメだ、完全にイッちゃってる。

 こいつは色々な意味でダメだ。

 一応聞くだけ聞いてみようなんて思った俺が間違ってた。


 みんな思い思いにはしゃいでる以上、やはり自力で探すしかあるまい。

 うぬぬ……

 仕方ない、もう一度頭から読んでみるか。


「アキきゅん、なにをうなってるんです? あ、便秘ですか? 苦しいですよねあれ」

「違うよ!?」

「じゃあ、抱っこして欲しいんですね!?」

「ちが……もう、好きにして」

「わーい。好きにしまーす」


 否定するのにも疲れ果て、グッタリした俺をヒョイと抱き上げるヒナ。

 俺の金髪に顔をうずめて満足そうだ。

 ヒナはダラリと力の抜けた俺を不思議そうに見る。


「あれ? 元気ないです?」

「……ハカセの言ってたアバター変更に関する記述が見つからなくてさ……」

「へ? ありましたよ?」

「えぇっ!? どこに!?」


 ヒナのほっぺたを両手で挟み、詰め寄る俺。


「(ちっちゃなお手てが可愛いですー!)えーとですね、お知らせの最下段ですよ。ほら、ここです」


 俺はガバリと振り向いてヒナの開いたウィンドウを食い入るように凝視した。


 って、たった一行かよ!

 見逃すわこんなもん!

 ヒナもハカセも細かいとこまで良く見てるなぁ。

 えー、なになに……


『アバター変更用施設とNPCを実装予定!』


 これだけ!?

 おっと、その下にもう一行あるな。


『更に新たな大陸への道が!? 乞うご期待!! ※第三大陸には第二大陸からのみ移動できます。』


「えぇぇぇえええぇぇぇ……」

「どうしたんです? 面白い顔して」

「後ろから表情がわかるの!?」

「勿論ですよ。アキきゅんの後頭部の匂いを嗅げばわかります」

「わたしの頭はどうなってるの……それよりヒナ、ここをよく読んで」

「はい? ……あー、この書き方だと……」

「ね? やっぱりそう思う?」

「はい。大変なことになっちゃいましたね」

「あぁぁ……どうしよ……」

「なァにィ? どうかしたのォ?」


 溜息をつく俺に、ようやく快楽の世界から帰還したハカセが尋ねた。

 しかも横たわったまま、全身をビクンビクンと痙攣させながらである。

 根っからの変態としか言いようがない。


 この、よがり狂った変態にも厳しい現実ってもんを突きつけてやろう。

 俺一人じゃ死なんぞ。


「ハカセ。一応忠告しておくけど、気をしっかりもって聞いて」

「なによォ、改まっちゃってェ。ハッ!? まさかあたしへの告白!?」

「(するかっ!)ううん。ある意味もっとショックだと思う」

「お、脅かさないでよォ」


 俺はわざと溜めを作り、ハカセを焦らす。

 もっとも、俺自身とて信じたくもない事実を告げるわけだから受けるダメージは同等なのだが。


「これはわたしとヒナの推測なんだけど、多分間違いないよ」

「……?」

「……アバター変更施設が実装されるのは第三大陸ですっ!」

「!!??」

「しかも第三大陸には第二大陸を攻略しないと行けません!」

「!!!???!!??」

「あ、倒れた」


 今度はあまりのショックに泡を吹き、ビクンビクンと痙攣しながら白目を剥いて失神するハカセ。

 脳みそが過酷すぎる現実からの逃避を命じたのかもしれない。

 なんとも忙しいヤツだ。


 俺も出来ることなら倒れたいよ!

 だって第二大陸つったらアレだよ!?

 邪神アポピスがいるんだよ!?

 つまり倒さないと先へ行けないってことじゃないの!?



 ……運営のアホーーー!!





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