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第12話 轢かれた後には幸運が


 げふぅ。


 ……のっけから失礼。


 何者かがやらかしたモンスタートレインにて轢死による全滅を果たした俺たちは、ファトスの街の中央に位置する冒険者ギルド前にリスポーンしていた。

 どうやらこの場所がセーブポイントらしい。


 げっぷの理由は1になってしまったHPを回復するために、ポーションをガブ飲みした上での蛮行である。

 とは言っても、現実に飲んでいるわけではないが、それでも水分が腹にたまる感じがするのがなんか怖い。

 向こう(リアル)の俺は寝てるだけなのに不思議だよな。


 これはきっと『飲んだ』と言う行為のログが記憶され、隠しステータスとして蓄積されているんだろう。

 それが積み重なると満腹中枢を電気的に刺激して腹が満たされた気分になるとかならないとか。

 うん、よくわからん。


 ともあれ、安物のポーションしか買えない金欠揃いの俺たちは、ちょびっとしかHPの回復しないそれを大量に飲むしかない。

 高級なものだと一本で50パーセントも回復するんだってよ。

 貧乏性の俺はそんなもんを持ってても、勿体なくて余計に使えねぇわ。

 名付けて【ラストエリクサー症候群】!

 ……まぁ、どうでもいいか。


 それよりも今の問題は。


「それにしても【OSO】でまでトレインにうとはなぁ」

「どのゲームでも迷惑行為扱いですもんね」

「我々も横殴りとトレインPKには気を付けないとならないよ」


 キンさんの言う横殴りとは、他のプレイヤーと戦っているモンスターを同意なしに攻撃してしまうことだ。

 ゲームによってまちまちだが、ターゲットを奪ってしまったり、モンスターが持つ経験値を減らしてしまったりとトラブルの火種になる行為と言える。


 俺も別ゲーで所属していたクランのメンバーが、他のクランの獲物であるボスキャラへ誤って攻撃してしまい、とても揉めたことがあってな。

 しかも、そう言う時に限ってボスレアアイテムがドロップしやがる現象はなんなんだろうね。

 更にそのアイテムがドロップ率1パーセント以下の代物とくれば、揉めないほうが逆におかしい。


 こっちのメンバーは『横殴りは悪かったが、結果的にアイテムの所有権は俺たちにある!』と譲らないし、相手のクランも『ふざけんな! 元々俺らがタゲってたボスを横取りしたんだろうが!』と猛抗議。


 俺はその日、学校があったんで事件と直接関わってはいないが、クランリーダーは半泣きで対処してたよ。

 結局、アイテムそのものは相手クランへ返し、こちらはそこそこの金品で手打ちとなったんだけどね。


 その後、最初に横殴りしたメンバーは年長組に思い切り説教されてクビになっちゃったけど、どうしてるかなぁあの人。

 荒んだ人生を送ってなきゃいいんだが。


 だけどもっと悲惨だったのは相手方でな、クラン内部でもアイテムの所有権で揉めた挙句、リーダーが勝手にクランを解体してアイテムを持ち逃げすると言うシャレにならない結果となったわけ。

 いやぁ、あの時は掲示板もSNSも大炎上で、関係ない俺までドン引きしたわー。


 ま、横殴りはそれくらい争いのもとになるってこった。



「さて、そろそろ暗くなってきたけどどうしようか?」


 キンさんがステータス画面で時刻を確認しながら言う。

 確かに辺りは薄暗さを感じる。

 この人(キンさん)こんなに暗くてもサングラスを外さないのね……

 まぁプレイヤーは闇夜でも薄暗い程度には見えるんだけど。


「もう一度だけ様子を見に行かね?」

「そうですねー。まだ一度も戦えてないですし」

「ふむ。そうしようか」

「それに」

「?」

「?」

「さっきのトレインしてたヤツ、なにか悲鳴を上げてた気がする」




 そしてまたもや北門から森エリアへ出る俺たち。

 今度は慎重に様子を窺いながら。


 うむ。

 大丈夫そうだ。


 数名のプレイヤーがモンスターと戦闘していること以外に異変はない。

 トレインマンはログアウトしたのか、それとも死に戻ったのか。

 少なくとも近くには見当たらなかった。


「んじゃ、俺がタゲを取るからみんなで殴ろう」

「おー! 私の魔法が唸りますよー!」

「僕のLUKも火を噴くぞ!」


 キンさんがなにか言っているが華麗にスルーし、適当なモンスターを探す。

 タゲられてないヤツ、タゲられてないヤツ、と。


 その時、茂みがガサリと動いた。

 ヒッと喉を鳴らすヒナ。

 はっはっは。ヒナは意外と臆病だなぁ…………なんだこれ!?


 繁みから現れたのは、昆虫タイプのモンスター。

 人間サイズなことを度外視すれば割とポピュラーな虫。

 飛蝗バッタである。


 ただし、二足で人のように直立し、なんでかエレキギターを携えていた。

 しかも身体の色が赤と青のアメリカンなカラーリング!


「ロッカーと言うモンスターらしいね……うげ、レッドネームだ……」


 メイスを構えたキンさんがげんなりした顔になる。

 レッドネームとは、パーティーの平均レベルよりも上のモンスター名が赤く表示されるシステムだ。

 つまり、簡単に言えば強敵ってこと。


 いやそこじゃねぇよキンさん。

 なんでバッタがギター持ってんの!

 ……ちょっと待て、まさか名前がロッカーだから?

 ロックンロールにかけてんの!?

 そもそも楽器を持ってる虫ってーと、キリギリスのイメージなんですが!

 お前バッタじゃん!


「アキきゅん! タゲられてますよ!」

「うぉわっ!」


 ロッカーはいきなり攻撃してきた。

 どうやらこいつはアクティブモンスターらしい。


 それはいいが、ギターで殴りかかってきたぞ!?

 ロッカーなんだろ!?

 だったら商売道具を大事にしろよ!


 俺はギターをどうにか盾で受け止めた。

 だがやはり向こうのほうがレベルも高いらしく、ジリジリと押される。


「ヒナ! 魔法を!」

「準備してますよー! 【ファイアボルト】!」


 パン


 ヒナの手元から発生した炎が小気味いい音を立ててバッタの右肩に直撃した。


「あはは……スキルレベル1だから1ヒット……」


 笑ってる場合かヒナ!

 もっと撃てよ!


 とは言え、流石はINT極振り。

 ヒナの炎はロッカーのHPを3割ほど削っていた。


「ちゃんと詠唱すればもっと威力は上がるんですけどね」

「じゃあやれよ! なんでらくしちゃったの!?」

「えー! 結構長いんですよー! スキルを取ったばっかりなのにすぐ覚えられるはずないじゃないですか!」

「アホか! お前学年1位だろ! しかもゲーム狂のくせに!」

「ゲーム狂じゃなーい!」

「二人とも! 夫婦めおと漫才は後に!」


 キンさんの忠告が聞こえた途端。


 ギュワアアアアアアン


「ぎゃーー! うるせーーー!」

「耳が痛ーい!」

「……は、……だ!」


 もはや仲間の声すら聞き取れない。

 そう、ヤツはロッカーの名に恥じぬ大音量でエレキギターを掻き鳴らしたのだ。

 アンプもないのにどうなってんだ。

 いや、羽!

 あいつの開いた羽がスピーカーになってる!

 どんな生き物だよ!


 しかも、この音。

 何気にスリップダメージを与えて来やがる!


 それを見たキンさんがヒールを飛ばしてくれた。

 ありがたい!

 ……ん?

 待て待て。

 ヒールってこれしか回復しないの?

 さっき、たらふく飲んだ安物ポーションと変わらんぞ。

 まさか……キンさんはINT1だからか!?

 バ、バカー!


「仕方ない! 俺が隙を作る! ヒナの魔法が頼りだぞ!」

「お任せ!」

「【速度上昇】! アキくん! これできみのAGIが上がったはずだよ!」


 おおっ、キンさんがまともな仕事した!

 少し身軽になった気がする!


「いくぞ! 【雲身うんしん】!」


 ニュルンッ


「!?」


 急に目標を見失い、慌てふためくロッカー。

 はっはー!

 俺は後ろだぁ!


 ガン


 耳の痛みに我慢しながらバッタの背中に一撃を見舞う。

 ヒューッ!

 やっぱりクリティカルのエフェクトはきんもちいいー!


 ゴン


 いつの間にか接近してきたキンさんもメイスでブン殴っていた。

 ちゃっかり屋さんめ!


 クルリと振り返ったバッタの目には、明らかな怒りを感じる。

 その横っ面をヒナのファイアボルトが直撃した。

 ナイスアシスト!


 グラリと傾ぐロッカー。

 それでも孤高のギタリストは倒れない。


 それどころか魂であるはずのギターを滅多やたらと振り回す。

 乱打乱打。

 俺がなんとか盾と剣で素早くさばいている間に、キンさんもロッカーの横に回ってメイスの連打連打。


 おお!

 やるなキンさん!

 なんだか知らんが血柱みたいにクリティカルの赤いエフェクトがバンバン立ち昇っているじゃないか!

 これか、これが【OSO】は他のゲームよりもLUKの恩恵が強いってことか!

 でも『打擲ちょうちゃく! 打擲!』と叫びながら叩いてる様はなんか怖い。

 いたいけな修道士を打ち据える鬼侍祭かよ……


 ロッカーの意識が俺からキンさんへ移りかけた────


「【雲身】!」


 ニュルリ


 その時を狙っていた俺は再び【雲身】を発動し、またしてもロッカーの背後へ回り渾身の一撃!

 ズッパリと背中を袈裟に斬られたロッカーが体液の代わりに粒子を撒き散らし、悔し気に爆散していった。


「おっふぅー……」

「ふひゃぁ……」

「ぶへあ……」


 三者三様に息を吐く。

 なかなかの激戦だった。


「いやぁ、強かったなぁ。街を出て最初に出会っちゃいけないモンスターだろこれ……」

「多分、夜だからだね……夜間は強敵が増えるんだよ。だから夜専門に狩るプレイヤーもいるくらいさ。それに、夜はレアモンスターやユニークモンスターも出やすいって聞くよ」

「そういうことか、なるほどなぁ……」


 ぺぺぺぺっぺっぺー


 キンさんとの会話中も容赦なく例の安っぽい効果音がした。

 レベルアップの合図である。


「おっと、ドロップも拾わなきゃ」


 『バッタの足1個獲得』

 『バッタの羽1個獲得』

 『バッタの触角1個獲得』


 んだよ。

 ゴミっぽいのしかねーじゃん。

 あんなに強かったのに……


 んん?



 『魂のギター1個獲得』



 武器だこれ!



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