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第119話 任命



「ぼ、僕!?」


 己を指差し、まるで最後通牒でも突きつけられたように狼狽えたのは────


「うん、キンさんに任せるね」

「えぇぇ!? 僕が言うのもなんだけど本気かいアキくん!?」


 俺が指名したのは栗毛サングラスのキンさんだったのだ。


 その彼は当初、自分に白羽の矢が立つなどと思ってもみなかったらしく、ヘラヘラ笑いながらヒナとツナの缶詰さんを眺めていたのだが、俺のちっちゃな手が指し示した途端に表情を一変させたのはちょっと笑った。


 どうせ俺のことだから、ヒナかツナ姉さんを団長に指名すると思ってたんだろ?

 甘いな。

 俺だって一応、人となりはきちんと見てるんだぞ。

 ま、正直かなり悩んだけどさ。


「ククク……もちろん本気ー」

「邪悪な笑み! アキくんは小悪魔だ! い、いや、それよりどうしてそんな結論に至ったんだい!? どう考えても僕よりきみたちのほうが適任じゃないか!」


 リアルなら俺の顔が唾まみれになったであろうほどに詰め寄ってくるキンさん。

 だがそれも一瞬のこと、彼は怒気を孕んだヒナとツナの缶詰さんに引き剥がされ、割と遠くまで連行されて行った。

 ハカセがその様子を見てガクガクと震えている。

 キンさんの末路を悟ったのであろう。


 ヒナの説教とツナの缶詰さんの制裁を食らっているキンさんに俺は声をかけた。


「キンさんは前に言ってたじゃない」

「ぐふっ、がふっ、な、なんのことだね?」

「小さなクランのマスターをやってたって」

「ごはっ、うぐっ、話した記憶はある……ね」


 ちょっ、ツナ姉さん。

 もうやめてあげて。

 これじゃキンさんを拷問にかけて自白させてるみたいになっちゃってるよ。

 ほら、ハカセが真っ青で今にもチビりそうな顔してるから。

 ヒナはヒナで、いかに俺がヒナのものであるかをクドクドと説明しちゃってるし。


「その時に、小さいながらも気の合う仲間たちと楽しくプレイしてたって話だったでしょ?」

「うむ。メンツに恵まれてね。強さはさほどでもなかったが、アットホームながら結束も固くいいクランだったよ」

「うん。わたしとヒナも以前やってたけど、あんな殺伐としたゲームでそう言うクランがあったのは貴重だと思うの」


 そのゲームはボス狩り争いが熾烈なことで知られていた。

 貴重で優秀すぎるアイテムをドロップするが故に。

 例の幻魔ゲンマ率いる廃人クラン【ハンティングオブグローリー】が、あらゆる手段を使ってボスを独占していたゲームでもある。


 大手のゲーム会社が制作、運営してたんで、MMORPGの中でもかなりポピュラーなほうだろう。

 俺たちがキンさんと遭遇しなかったのはプレイヤー人口の多さとキャラ名のせいだな。

 大男のキャラだったもん、俺。

 たとえ出会ってたとしても気付かんよ。


 言っとくけどコンプレックスでガチムチの大男にしてたわけじゃないんだからねっ。


 ちなみにこの名声も悪名も高いゲームだが、実はうちの放蕩親父が開発に一部(たずさ)わっていたりする。

 こないだ一度帰国したのに『今度は出張だ! 畜生!』とか言いながら、その日のうちに母親と出掛けて行った。

 大事な長男の人生に関わる相談事すら聞かぬままに。

 こっちが『畜生!』と言いたい。



 それはともかく、これでわかってくれたかなと思ったらキンさんめ。

 情けないツラで食い下がってくる。


「し、しかし僕たちのクランは弱小だったんだけど……」

「知ってる。全然聞いたことないクランだもん。よっぽど下位だったんじゃない?」

「辛辣! されどその通り! ぐぬぬ……ガチで小悪魔だねアキくん……」

「でもね、キンさんが作り出した雰囲気は大事なことなんだと思ったんだ。あの(・・)ゲームでアットホームにやれるって相当なもんだよ?」

「ですよねぇ。常にギスギスしてましたから」


 ヒナも俺に同意し、うんうんと頷く。

 俺たちの所属してたクランもしょっちゅう内部で小競り合いがあったもんな。

 やたら攻撃的な人も多かったし。


「言われてみれば本当にいさかいが絶えなかったわねェ」


 ハカセも思い当たるフシがあったのか、頬に手を添えウンザリ顔をしていた。

 って、アンタもあのゲームやってたんかい!


 ツナ姉さんだけが話について行けずキョトンとしてる。

 そのままのツナ姉さんでいてね。


「だから、わたしもそんな空気と雰囲気の団にしたいの。みんなで楽しく遊んでこそ『ゲーム』でしょ? それが出来るのはキンさんだと思ったわけ」

「……そうまで言われちゃ断れないじゃないか……」


 ま、実際の『遊び』は英語で言うと『プレイ』なんだけどね。

 それでも俺の言いたいことは通じるだろ?


「キンさんは最年長でもあるし、包容力もあるから適任ですね!」

「ええ。私もヒナさんに同意します。キンさんが団長ならばきっと居心地の良い団となるでしょう」

「き、きみたち……うぅ……」


 感激するのはわかるけど。

 いい年して泣くのはどうなの?

 キンさんらしいと言えばらしいか。


「わかったよ! その大役引き受けた! きみたちの期待に応えられるよう、僕は精一杯頑張ろう!」


 『我が生涯に一片の悔いなし!』みたいに拳を天高く突き上げるキンさん。

 すぐに燃え尽きてしまいそうで不吉でもある。


「よっ! キン団長!」

「キンさん(にしては)男らしいです!(今や女の子のアキきゅんにも遠く及びませんが!)」

「及ばずながら私もサポートいたしましょう(アキさんの命令が最優先ですけれど)」


「そ、そんなに持ち上げないでくれたまえよぉ」


 やんやの喝采を受け、照れながらも即天狗となるキンさん。

 俺は人選を誤ったのだろうか。


 でもこれでめんどくさい団長なんて役職を押し付けることができたな!

 俺は自分のことを考えるので精一杯なんだよ。

 団員の面倒なんて見てられっかっての。

 俺たちのためにせいぜい頑張ってくれキンさん……クククク……


「では、僕から早速の議題なんだが、団名はどうしようか?」

「……あー、団名ね……チラッ」

「な、なんで私を見るんですか! 私のネーミングセンスなんてアキきゅんと大して変わりませんよ!?」

「『猫ちゃんを愛でる団』と言うのはどうでしょう」

「……それは団長として丁重に却下させていただくよ」


 ツナの缶詰さんの発言に、どこからか『ニャル!?』と言う声が聞こえた気がする。


 ニャルのことじゃないから怯えなくてもいいよ。

 最近ツナ姉さんのガチすぎる可愛がりにビビってあんまり出てこなくなっちゃったもんな。

 ツナ姉さんはユニコーンのニコですら全力で愛でるし……


あるじさま。このニコをお呼びですか?)


 独り言だよ!?

 呼んでません!



「盛り上がってるところ悪いんだけどォ。あなたたち運営からのお知らせは見たのォ?」

「なんの話?」

「大型アップデートが来るんだってェ。しかも『アバター変更』が実装されるらしいわよォ。あたし楽しみで楽しみでイッちゃいそうよォ!」



 は?


 アバター変更!?




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