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第118話 同盟



「ふゥん、すごいわねェ。いい感じにみんな仕上がって来てるじゃないのォ」


 プレイヤーたちの奮闘を見守る翰林院アカデミーの変態オカマ団長ハカセは、偉そうに腕組みをしながらウンウンと何度も頷いていた。

 いったいどこから目線なのだろうか。


 ハカセは一応、とんでもない回復スキルなどを扱うことのできる【ドクター】と言うユニークジョブ持ちなので、決して弱くはないとアカデミーの団員から聞いてはいる。

 しかし、俺たちが手塩にかけて育て上げたプレイヤー連中を『すごい』の一言で片づけられるのは少し納得がいかない。

 これまでの苦労を今から一晩中でも説明するべきか悩むほどに。

 いや、やはりちょっと話しておこう。




 ともあれ、始まりの街ファトスであぶれていた連中もどうにか首都へ到達し、白蓮の森にてレベル上げと戦闘法を学んだ末、そろそろ俺たち先行組に追いつこうと言うところまで来ているのは事実だ。


 その影響だろうが、ファトスの街はかなり過疎化が進み、NPCや流しの商人たちから『商売あがったりだ!』との愚痴が増えたらしい。

 とは言っても、プレイヤーの中には長いこと滞在したファトスの街に愛着がある者も多く、自由な時間をそこで過ごす連中で存外賑わっているとも聞いた。


 いわゆる『たまり場』だな。

 今の俺たちで言えば首都アランテルの定宿みたいなもん。


 他のゲームでもあったなぁ。

 街の路地裏とか、なんもない空き地に場所を決めてさ。

 しまいにはダンジョン内の階段近くとか、わけのわからん場所がたまり場だったりしたぞ。

 まぁ、そういうとこで気の合うヤツらとダベってたりするのも狩りにはない楽しさがあったよ。

 むしろ狩りよりも喋りがメインのプレイヤーもいたくらいだ。

 しかもそう言うヤツに限ってすっげぇ高レベルだったりして、いったいいつ狩りに行ってるのか不思議だった。




「ふむふむ、流石アキちゃんねェ。ただレベル上げを手伝うだけじゃなく、きちんと戦いかたも教え込んでるあたりが偉いわァ。これなら新大陸へ渡航しての調査も捗りそうよォ」

「……わたしとしては不本意なんだけどね」

「どうしてェ?」

「前に言ったでしょ。駆け足でゲームを進めちゃうのは性に合わないって」

「そんな悠長に構えていられないから土下座してまで頼んだのよォ」

「うん、ハカセの気持ちもわかってる。ただの愚痴だし、気にしないで」

「…………アキちゃんかわいすぎるでしょォ!!」


「うぎゃああああああ!!」


 抱き着こうとするハカセをヒラリと躱し、代わりの生贄としてキンさんを差し出す。

 つまりこの絶叫はキンさんのだ。

 尊い犠牲に敬礼。


 俺の身はヒナに預けよう。

 ツナ姉さんでもいいんだけど、頭が禿そうになるほど撫でられるからな。


「抱っこですか? 抱っこですね!? ぎゅー! それにしてもアキきゅん、すっかりハカセさんをあしらうのが上手くなりましたね」

「いい加減慣れたもん。ヒナもでしょ?」

「(女の子でいるのもすっかり慣れてきたみたいですけど! ラブ!)確かに彼……いえ、彼女がどんな人かだんだん解ってきた気がします」


 ヒナに抱き上げられ、足をブラブラさせている俺を心底羨ましそうに見ているのはツナの缶詰さんだ。


「(アキさんは最近ヒナさんにベッタリですね……私もアキさんを抱っこしたいのです! はぅん!)お互いを知らねば連携など出来ません。ですので、解り合うのは非常によろしいことかと」


 そして指を咥えるような仕草の割に、至極まともな発言をした。

 素の感情と騎士のロールプレイが同居したそのギャップがすさまじい。


「んん~! キンちゃんの肌は意外とスベスベなのねェ~! あ、そうそう。あなたたちにずっと聞きたかったんだけどォ」

「ひぎぃぃぃ! たっ、助けてくれえ!」


 キンさんを抱えたまま首を突っ込んでくるハカセ。

 見ようによっては仲睦まじく思える光景だ。

 お幸せに。


「聞きたいって、なにを?」

「あなたたち、どうして団に入ってないのかしらァ?」


「……」

「……」

「……」

「……」


 何とは無しに絶句して顔を見合わせる俺たち。

 ハカセにヘッドロックをかまされているキンさんすら同様に唖然としている。


「普通はそれだけの強さがあればどこかの団にスカウトされたり、自分たちで結成したりするもんでしょォ? この【OSO】でも団の恩恵ってかなりあるしねェ」


 ハカセの疑問はもっともだ。

 俺たちはすかさず得意の円陣を組んでボソボソと話し出す。


「そ、そういえば考えたことなかったかも……スカウトなんてされたことないし……」

「当然のように固定パーティーで遊んでましたからね……」

「僕は前にちょっと考えてたけどすっかり忘れてたよ。それにスカウトマンもきみたちには声をかけにくいと思う……(相手が美幼女と美少女だしねぇ)」

「……私は以前の団を半ば飛び出す形で抜けてしまいましたので……」


 あー。

 ツナ姉さんは廃人団の【ハンティングオブグローリー】に所属してたんだもんなぁ。

 俺が団に思い至らなかったのはそのせいもあるか。

 団長だった幻魔ゲンマのクソ野郎がイメージ悪すぎるもんな。

 幻魔以外の団員には申し訳ないが、あんな団になるくらいなら作りたくもないって無意識に思ったんだろうね。


「アキちゃんが結成して団長になるといいんじゃない?」

「あ、それは有りかもです。アキきゅんはこう見えて別のMMORPGではサーバー上位のギルドマスターをしてたんですよ!」

「へェ~! そうなのォ! だったら手腕にも期待できるわねェ!」

「はい! 見事な采配でギルド戦でも常に好成績でした!」

「なるほどねェ、実績もあるなんて素晴らしいわァ!」


 やめてヒナ!

 あれは前任者の引退に伴ってギルマスを押し付けられただけじゃん!

 しかもヒナを含む周りのメンバーが異様に優秀だったからこその成績だろ!?

 ハカセも納得してんじゃねぇよ!

 俺は【OSO】でも現実リアルでもこれ以上目立ちたくないんだ!


「実際、そうしてくれるとあたしも助かるんだけどねェ。ほら、団同士で『同盟』を組めば連携もスムーズになるわよォ?」


 くっ、変態ハカセのくせにまともな言い分を……


「僕もいい考えだと思うよ。アキくんなら相応しいだろう?」

「私も同意です。邪神戦を想定するならばどうしても必要になると思われますので」


 キンさんもツナ姉さんも賛成派か。


「それともアキちゃんたちさえ良かったら、ウチに来るゥ? 団員の空きならまだあるわよォ」


 絶対嫌だ!

 ハカセの下で働くなんて冗談じゃない!

 『今夜はあたしの夜伽をしなさいねェ』とか言い出しそうだもん!

 だったら自分たちで結成するほうがまだマシだ!


 みんなの期待に満ちた視線が痛い。

 だが俺はこう答える。


「……みんなには悪いけど、わたしは団長にならないよ」


 途端に落胆する面々。

 続きがあるんだから聞きなさいって。



「でも、団の結成には賛成。だから……団長はあなたに任せます!」



 俺のちっちゃな幼女の指がビシッと示したのは────




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