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第11話 いざ新エリアへ


「わぁ~! 可愛い衣装~!」

「おー、転職おめー!」

「ヒナさん転職おめっとさん!」

「ありがとうございますー!」


 ヒナが魔術師への転職をクリアした目出度めでたき瞬間だ。


 白いブラウスに両肩の部分が紫色の星型ワッペン。

 胸元にも魔術師らしく六芒星をかたどったエンブレム。

 膝丈のフレアスカートも紫色だ。

 そこかしこにレースやフリルがあしらわれ、なんとも可憐な衣装である。


 ……なぁ。

 女の子の衣装だけズルくねぇ?

 むちゃくちゃ凝ってるしさぁ。

 この衣装といいカフェの店内といい、デザイナーは少女趣味をこじらせてんの?


 それともあれか?

 ヒナが可愛くて金持ちだからか?

 運営は贔屓してんのか、おうコラ?


 男の衣装なんてどの職もやたらといい加減な普段着みたいなのばっかりだってのに……

 さっき男魔術師のプレイヤーがいたけど、紫色でダッボダボの布を被ってるだけにしか見えなかったぞ。

 ローブにしたって長すぎるだろ。

 裾を引きずって歩いてたもんな。


 だいたいよぉ。

 なんなんだこの魔術師用転職試験って。

 ただのおつかいじゃねーか!

 しかも、ファトスの街の中をちょこっと歩く程度で済んじゃうすっげー簡単なヤツ!

 こんなので魔術師の素養とかわかるんですかねぇ?


 ……まさか女子プレイヤーだけ簡単なクエストになるとか……?

 うぉぉ、運営許すまじ!


 ごほん。

 自分が苦労したもんだからつい嫉妬心が出てしまった。

 自重自重。


「どうです? アキきゅん、これ似合ってますか?」

「……あー」

「こういう時はちゃんと褒めてあげたまえよ。照れてどうするんだい」

「て、照れてねーし!」


 言葉に詰まった俺へ、キンさんが脇腹を小突きながら忠告をしてきた。

 うむ、強がっても仕方ないのは確かだな。


「お、おう。よく似合ってるな」

「えへへ。お世辞でも嬉しいですっ」


 いや、世辞ではないんだが……

 まぁ、喜んでるしいいか。


 って、キンさん!

 なんだよそのニヤニヤ顔は!?

 やめろ!

 生あたたかい目で見るな!

 俺とヒナはそう言う関係じゃねぇから!


「よ、よーし! じゃあ転職もぉ済んだからぁ、早速狩りに行こうかぁー!」


「キンさん。アキきゅんはなんで棒読みなんです? 声も裏返ってますし」

「さぁねぇ。青春真っただ中だからじゃないかな?」

「???」


 俺たちはまず武具店へ立ち寄り、手持ちの資金で買えそうなものをチョイスする。

 さしたる金額は持っていないので、鉄製の長剣と小さな盾、それとこれまた鉄製の胸当てを購入するので精一杯だった。

 一瞬にして所持金がパァか。

 なかなかシビアよのう。


 ヒナは魔法力をほんの少し補助してくれると言う木製の杖と羽織るタイプの皮鎧を買ったようだ。

 ちなみにキンさんは以前に購入済みで、メイスと鎖かたびらを装備している。


 いいねぇ。

 この金属感。

 さして重みを感じないのもいい。

 そうでなきゃまともに動けないからな。



 この【OSO】は、多岐にわたった武器種が実に豊富だ。

 概ね中世から近世に存在するような武器は全てあると思っていい。

 見たことはないが魔剣やユニーク系装備もあるはずだ。

 いや、それどころか下手をすれば超未来兵器なども考えられる。

 それは【OSO】の世界観に起因する。

 神々の武器がどれほどの威力を持つのかは神話を紐解けば火を見るよりも明らかであろう。

 プレイヤー諸君はそれらの武具を目指して邁進するべきだ。


 民明書房刊 『オーディンズスピア・オンラインに於ける武器の系譜』より一部抜粋。



 はい、嘘ー!

 いや、嘘なのは最後の行だけね。


 ヘルプ内の武器項目にそんなことが書いてあったわけ。

 悪いがこれで俺のゲーマー魂は完全燃焼だ。

 男子はいくつになっても、この手の中二臭い設定がなんだかんだ言って大好きなんだよね。 

 どんなにめんどくせぇ入手条件でもかかってこいや!


 とは言え、先立つものがないと探索もままならん。

 なにはなくとも強さが必要だ。

 ならばやることはひとつ。


「さて、これからのことなんだけど。ヒナのおつかいを待ってる間に色々聞き込みしたんだ。んで、それによるとだな、取り敢えずは首都に到達するのが目標らしい」

「首都、ですか」

「うん。付け加えると、この大陸の首都、だな」

「つまり、他にも大陸があるってことです?」

「ヒナヒナピヨピヨ大正解!」

「わーい!」

「まぁ、俺たちは始めたばかりだからそこまでは考えなくていいだろう。ただ、首都にはどうしても行かなきゃならない」

「なんでです?」

「…………」

「はいっ! ヒナの陰でおずおずと手を挙げたキンさん!」


 挙手しておきながら、己の顔を指差して『僕に解答権が!?』みたいな顔をするキンさん。

 なんの茶番だこれ。


「僕は攻略組のプレイヤーから聞いたことがある」

「知っているのか雷電! ……じゃなくてキンさん!」

「うむ。首都へ行けば更なる上位の職業ジョブが解放されると」

「と言うわけだヒナ」

「へぇー! そうなんですか!」


 俺とキンさんが繰り出したノリノリのロールプレイ(?)に素で返すヒナ。

 どうやらネタ元がわからないらしい。


「ま、転職するにも条件はあるだろうし、それよりもまずは俺たち自身が強くならなくちゃな」

「俄然やる気が出てきましたよー!」

「うぅ……不遇だった僕もようやくまともにレベル上げができるんだね……」


 なんでかボディビルダーみたいなポーズで気合を入れるヒナ。

 かっこよさよりも可愛さのほうが際立ってるんですが。


 対して、うっうっと感動にむせび泣くキンさん。

 サングラスの上から腕を当てても涙はぬぐえないよ?


 ちなみに【OSO】では、喜怒哀楽の感情表現に必要だからなのか、涙はちゃんと出る。

 大あくびして実証した俺が言うんだから間違いない。

 これを『ダイレクトエモーションシステム』と言うとか言わないとか。


「王都はファトスの街から北の方角らしいぞ。街の北門から先のエリアは急に強いモンスターが出るんだってよ」

「へー。それは楽しみですね」

「そうそう! 僕もそれでレベル上げを断念したんだよ。誰かパーティーに入れてもらえないかなーと期待してカフェに入り浸る毎日だったのさ」

「そんで見事俺とヒナが騙されたと」

「ひどっ!」

「ち、違う! 言いかた、言いかた!! それだと語弊がありまくるよ!」


 なんてコントをやってる場合じゃないな。

 時間もあんまりないしね。


「ほんじゃ、回復アイテムを仕入れたらしゅっぱーつ!」

「おー!」

「うおおお!」



 数十分後────



「いーーーーーーやーーーーーーー!!」



 森の中に絶叫が響き渡る。



「きゃーーー! なんですかあれーーー!?」


「ト、トレインだぁぁぁぁ!! 大量に連れ回してんのはどこのバカだぁぁぁぁ!!」


「みんな逃げよう! さぁ、こっちぎゃああああああああああ!!」



 どこぞのアホなプレイヤーが引っ張ってきたとんでもない数のモンスタートレインにて、俺たちはあっけなく轢き殺されたのである。




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