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第100話 あぶれたプレイヤーにも愛の手を



「うわ~、なんだか久しぶりな気がするなー」

「剣士と魔術師に転職して以来ですもんねぇ~」

「僕ときみたちが初めて出会ったのもここだったよ(その時のアキくんはまだ男だったがね)」

「私もここへ来るのは久方ぶりです」


 俺たちは今、始まりの街ファトスを訪れていた。

 その名の通り、チュートリアル直後に放り出される街がここだ。

 右も左もわからない新規プレイヤーは、この地で転職試験や簡単なクエストなどに揉まれ、これからの冒険に必要な基本を身に付けた後、首都アランテルを目指して旅立つこととなる。


 大抵のプレイヤーにとって、ここでの滞在時間はそれほど長くない。

 せいぜい数日から一週間といったところか。


 俺とヒナに至っては、実時間にしてわずか一日。

 ほぼ素通りと言ってもいいくらいだ。

 これはファトスの街手前の森でレベル上げをしていた俺たちに原因があるのだが、キンさんのように数週間も滞在しているほうが稀であろう。


 まぁ、キンさんはステが特殊だからなぁ。

 LUK偏重になんてするから……

 大人しくINT-VITあたりの無難なステータスにしておけばもっと早く成長できただろうに……


 ……いや、それはそれでつまんない冒険になっちゃうのかもしれないな。

 いやいや! この【OSO】で作れるマイキャラは一体だけなんだぞ。

 ならやっぱり慎重にステは考慮すべきだろ。

 冒険に出発する前にキャラ作成で冒険してどうする。

 うむ、やはりキンさんは変人だ。


「? 僕の顔になにかついてるかい?」

「んにゃ。なんでもない」

「???」


 いかんいかん。

 無意識にサングラスをかけた変態……じゃなくて、変人(キンさん)の顔を眺めていたようだ。


 ともあれ、転職試験だけ受けてスルーしたこの賑やかな街を、それでも結構懐かしく感じながらまたもや通過しようとしている我々なのである。


 目的地はファトスの街よりも南。

 モードレッドちゃんの手紙に記されていたことが正しければ、である。


 湖の乙女ヴィヴィアンさんと、魔術師マーリンさん、それにモードレッドちゃんの3名は、なにやら邪神復活を目論む一団を追っているらしい。

 強き英雄捜索の旅を中断してまでそちらを優先したと言うことは、それなりに逼迫した状況にあるのかもしれなかった。


 そこで俺たちは手紙を運んできた鷹に『我々も向かう』との返信を持たせて送り返したのだ。


 しかし鷹がどのくらいで彼女たちの元へ帰るのかわからない故に、こちらもすぐさま白蓮の森を出立。

 プレイヤーの一人がファトスの街へ飛べる転移魔法を持っていたのは幸いだった。


 NPCとはメール出来ないのがこんなところでネックになるなんてなぁ。

 でも【OSO】がゲームである以上、一度フラグを立てたのなら消えることはないと思う。

 ならそんなに慌てて追わなくてもいいんじゃね? と考えるのは早計だ。

 だって、そのイベントが時限式って可能性もあるんだからな。

 『はい、今日はこれで終わりー。次に挑戦できるのは数日後でーす』とか言われたらムカつくだろ?

 しかもそれがユニークシナリオだったりしたら超悔しいぞ。


 っつーわけで、街を懐かしむのも早々に南を目指しているわけだ。


「思ってたより人が多いですねー」


 キョロキョロと辺りを眺めていたヒナが、誰にともなくそう呟く。

 ヒナが注目しているのはどうやらプレイヤーのようだ。


 確かにヒナの言う通り、大通りを闊歩しているのはNPCの数よりもプレイヤー数が勝っている。

 これは全部新規の連中なのだろうか。

 いや、それは考えにくい。

 前にキンさんも言っていたが、この【OSO】は希望すれば誰もがプレイ出来るゲームではないのだ。


 俺も薄々そんな気はしていた。

 憶測だが、運営チームのほうでプレイヤーを選んでいるのではないかと。

 そうでなければ、ある日突然俺のもとに【OSO】のスターターキットが送りつけられて来たことへの説明がつかない。

 ちなみにそれとなく聞いてみたところ、『【OSO】University』や『翰林院アカデミー』の見解も似たようなものだった。


 つまるところ、このファトスの街にいる明らかに暇そうなプレイヤーたちは────


「……まさかキンさんと同じく、ステ振りをミスって先に進めなくなった連中……?」

「僕のはミスじゃないよ!? 今はもう立派に戦ってるじゃないか! ほら、僕の軽快な動きを見ておくれ!」


 だばだばと両手を振り回して必死に弁明するキンさん。


 なにを今更……あんた、ずっとこの街で狩りにも出られずあぶれてたろ……


「……なるほど、そうかもしれません。MMORPG初心者ならばステータスなど、どのように振っていいのかわからないでしょう」

「あっ、それはありそうな話ですね! 私やアキきゅんみたいに他のゲームで経験があるならともかく」

「かと思えばキンさんみたいにわざと妙なステにするヤツもいるし」


 ツナの缶詰さんとヒナと俺は、あはははと笑い声をたてる。

 オチに使われたキンさんだけが物寂し気に乾いた笑みを浮かべていた。


「だけどこれはこれで看過できないよね」

「ですね。こんなに行き詰ったプレイヤーがいるなんてビックリですもん」

「アキさん、彼らも『プレイヤー育成計画』に組み込んではいかがでしょう?」

「あっ、ツナ姉さんそれナイスアイデア!」


 こっそりと同意を示すように小さく手を挙げるキンさんを尻目に、俺は白蓮の森で絶賛育成中のマーカーくんにメールを送ることにした。


 ヒナやツナの缶詰さん、キンさんも各氏宛てにウィンドウを開く。

 取り敢えずリーダー格のみんなにこの現状を伝えておくためだ。


 後は進みながら煮詰めていくことにしようっと。

 勿体ないから出来れば全員戦力化したい。

 だってプレイヤー数は有限なんだもの。



 それは一旦置いておいて、今の問題はヴィヴィアンさんやモーちゃんたちの行方だよね。

 無茶してなきゃいいけど、期待は出来ないよなぁ。

 モーちゃんはいかにもな猪武者っぽかったし……

 ヴィヴィアンさんも向こう見ずなところがあるから……

 上手いことマーリンさんがブレーキをかけてくれるといいんだが……彼は彼で抜けてるもんね……



 俺は我が娘(?)たちの行く末を案じながらファトスの街を後にするのであった。




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