第10話 特殊スキルはぶっ壊れ性能?
「見事だクソムシよ……いや、冒険者『アキ』よ! 貴様は見事試練に打ち勝った! 今日より剣士を名乗るがよい!」
試験官が言うと同時にボワンと煙が俺を包み込む。
その白い煙が晴れた時、俺の姿は剣士へと────
ん?
なんだか足元がスースーする。
「あっはははは! なんですかアキきゅんそれ! そんな趣味があったんですかー! あはははは!」
「はーっははははは! いやいや、よく似合ってるよアキくん!」
「なんじゃこりゃあああああああ!!」
────俺はふわりとした褐色のロングスカート、しかもふんだんにレースがあしらわれてる! を穿かされていた。
完全に女子用だこれ!!
ってか、女剣士の衣装じゃねぇか!!
ふざけんな!
「おお、すまん。間違えた。貴様はそんなツラと名でも一応男だったな」
失敬なことを言いながらパチンと指を鳴らす試験官。
美人の癖に頭は弱いようだ。
きっと脳みそまで筋肉が詰まってんだな。
再び煙に包まれた俺は、今度こそ男剣士の衣装へ変わった。
柔らかな素材の上着、丈夫な素材でできた褐色のズボン。
どうやらこの服の上から防具を装備するようだ。
上着は金属鎧を着けても痛くないように柔らかく厚みがあるのだろう。
うーん、無駄に凝ってる。
「それにしてもさっきのアキきゅんはすごかったですね!」
「ああ、驚いたよ! まるで瞬間移動したみたいに背後を取るなんてね!」
やんややんやと絶賛してくれるヒナとキンさん。
これだけ褒められるとなんだか面映ゆい。
「いやぁ、正直俺もよくわからないんだよね。ただ、夢中で攻撃を受けている時に爺ちゃんの言葉を思い出しちゃってさ」
「きみのお爺ちゃんかい?」
「あっ! アキきゅんのお爺さんって、あの拳法を教えてくれたって言う?」
「そうかヒナには話したっけ。うん、その爺ちゃんが小さい俺に教えてくれたんだ。『実戦とは相手の隙間に全力で入り込むことだ』ってね。そしたらニュルッと身体が動いてた」
「隙間……ですか?」
「ああ、その時は俺も小さくて理解できなかったんだけどな。でもなんでそんなことを急に思い出したんだろ?」
「ふむ。それはきみの中でお爺ちゃんの教えが今も息づいてるってことなんじゃないかなぁ。そう言う想いは大切にしたほうがいいと思うよ。亡きお爺ちゃんも喜ぶんじゃないかな」
なんだかキンさんに上手くまとめられてしまった気がする。
さすがは年の功だろうか。
それより爺ちゃん、死んだことにされててごめん。
メッチャ元気なのにな。
「ところでさっきの戦闘中に『特殊スキル 雲身』ってのを覚えたん……」
「なんだってぇぇぇぇ!? 特殊スキルゥ!?」
グラサン越しにすら白目を剥いているのがわかるほど驚愕するキンさん。
もしかして、また俺なにかやっちゃいました?^^;
じゃなくて。
「あれ? これってヤベーやつ?」
「なにをのん気なこと言ってるんだい! アキくん、【OSO】の特殊スキルってのはだよ? 他のゲームで言えば『ユニークスキル』のことだ! 生半可なことじゃ入手すらできない貴重なものなの!」
「へー…………えぇぇぇ!? マジで!?」
「あー! いいなぁー! アキきゅんそれ私にくださいよー!」
「やれるかっ! スキルをどうやって譲渡しろってんだ! 自分で見つけなさい!」
「うみゅぅぅ!」
詰め寄るヒナのほっぺたを両手で挟んで押し返す。
潰れた口からは珍妙な奇声が漏れていた。
うむ、とても良い変顔になったな。
美少女が台無しだぞ。
「えーと、なになに……『特殊スキル:【雲身】 スキル説明:相手の攻撃を武器、盾、もしくは素手で受けた際に使用可能となる。使用者の身体は雲の如く霞み、瞬く間に相手の背後を取ることができる。 スキル種別:アクティブ』だってさ」
「あーん! いいないいなーー! すっごく便利そうー!」
「うーむ、これはすごい! 一対一の状況ならこれほど心強いスキルはないね」
ヒナとキンさんの言う通りだ。
この【オーディンズスピア・オンライン】において背後を取る、それも任意で、と言うのがどれほどのアドバンテージとなることだろうか。
モンスターの攻撃をプレイヤーが背中から食らったとしてもダメージ倍率は等倍だ。
しかし、プレイヤーがモンスターの背後から攻撃した場合、【バックアタック】が発動し、倍率は驚異の2.0倍となる。
そしてもうひとつ。
むしろこちらのほうが恐ろしい効果なのだが。
【バックアタック】が発動した際、その攻撃は強制的に【クリティカル】となるのだ。
その倍率も、なんと2倍。
つまり、【雲身】からの攻撃は、全て4倍のダメージを与えられるってことだ!
こんなスキルを序盤から取っちまっていいのかねぇ……
素人目にもやべーだろこれ。
とは言っても、そこは【OSO】だ。
そんなに甘いものでもない。
先程キンさんが言った通り、一対一ならともかく、多対一では使用が極端に難しくなる。
囲まれた状態で一匹のモンスターの背後に回っても他の怪物からボッコボコにされるだけだからな。
それに、モンスターのAIもバカではない。
そう易々と背中を取られないような行動をルーチンとして行う。
はっきり言って、素の攻撃でバックアタックを狙うのが無謀で危険なほどに。
それでもこの【雲身】は、ぶっ壊れスキルの部類だろう。
なんせユニークスキル相当らしいからな。
効果も限定的とは言え、名に恥じぬすさまじいものだ。
ユニークの名を冠するものは大抵がとんでも性能だよなぁ。
他のゲームには、発動即確殺なんていう頭のおかしいスキルもあったくらいだし。
だけど使いどころが難しいねぇ。
ま、そこは腕の見せ所ってやつだな。
うぅ、ゲーマー魂に火が点くぜ。
「狩りに行きてぇ……! 思い切り試してぇ……! 全力で自慢してぇ……!」
「ダメですよアキきゅん! 次は私が転職する番なんですから!」
「いや、アキくん。そのスキルの存在は隠しておいたほうがいい」
「へ?」
口を尖らせるヒナは取り敢えず置いておいて、意外なことを言い出すキンさんはいったいどうしたことだろう。
特殊スキルに嫉妬してトチ狂ったわけでもないようだが。
「今、【OSO】の最前線では攻略組と考察組が血眼でユニーク関連を探し求めているんだ。特殊スキル、ユニークシナリオ、ユニーククエスト、そして幻のユニークジョブをね」
まるで都市伝説を語るように言うキンさん。
そのうち『信じるか信じないかはあなた次第です!』とか言い出しそうだ。
「あー、やっぱりそう言う連中いるんだ」
「どこのゲームにでもいますよね」
「前に別ゲーでレアアイテムを手に入れた時、すっげぇしつこいヤツらがいたんだよなぁ」
「ああ、いましたね! アキきゅんが四六時中粘着されてて」
「やめろぉ! 忌まわしい記憶すぎるぅ!」
「あははは! 最後には『たすけてヒナさま~!』って夜中に……」
「それ以上言うなぁ!」
「なにをイチャイチャしょーるんじゃああああ! ちくしょおおおお! ワシも彼女ぐらいすぐこさえたるけえのおおおおお!」
「しっ、してねーし! あ、後半部分は応援しとく」
高らかに絶叫するキンさん。
ヒナは既に順応したのか、サッと自分の両耳を塞いで完全防御だ。
くっ、俺も見習わねば。
ってか、この人は激昂すると広島弁になるのか?
愉快すぎるだろ。
「ぜぃぜぃ……いいかい? そう言った貴重なスキルやクエストに関するものは、その情報ですらなかなか開示されないんだよ。なぜなら、いい取引材料になるからなんだ。この【OSO】が他のゲームと決定的に違うのは、ネットによる情報交換ができない以上、内部のプレイヤーたちで見つけるしかないってところだよ」
「あぁー、なるほど。キンさん賢いな!」
「そ、そうかな?」
ポリポリと鼻の頭をかくキンさん。
照れ屋か。
ま、おっしゃることはごもっともだし、ぶっちゃけ【雲身】習得の達成条件もよくわからん。
説明しようにも『ニュルンッと背後に回れ』としか言えないしな。
「じゃあ取り敢えず、聞かれても明かさない方向で。せっかくのスキルだし、使うことは使うけどね」
「うむ。そうしたまえ」
「話がまとまったところで魔術師転職場へレッツゴーですよ!」
うずうずしてたヒナが元気に拳を突き上げる。
すまんすまん。
待たせたなヒナ。
ほんじゃ、行きますか!




