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プロローグ  魔王死す

 賑やかなパーティー会場。

 男は女を口説き、女は自分の着飾っている宝石やドレスを自慢している。

 そんな煌びやかな舞台の壁際で、皿に無駄に高価な食材をふんだんに使用して作られた料理を盛り、俺は1人静かに食べていた。

 ここは神界。数多の神々が住まう世界。

 古馴染みである神王に招待されてやって来たが、大絶賛後悔中だ。

 魔王(俺の場合は魔道を極めた王の略称)の俺にとって神界は、居心地がかなり悪い。

 神界は聖なる力に満ち溢れている場所。相反する魔力を持つ俺にとってどれぐらい居心地が悪いかというと、女性専用車両に間違って乗った男性を想像して欲しい。それと同じぐらいだ。

 神王の事だ。研究ばかりで引き籠もりの俺を気晴らしにでも誘ったんだろう。

 冗談でも『魔道も極めてやることがない。生きるのに飽きてきた』と言わなければ良かったか……。

 後悔しても後の祭り。

 せっかくなので高価な食材で作られた料理を堪能するとしよう。


「魔王」

「ん?」

 居心地の悪さを紛らわせるため、料理を堪能していると、神の一柱に話しかけられてきた。

 見た事もない神だ。

 まあ、見知った神なんて時空間創世期を共に過ごした神王と、神王が生み出した一世代目の神数柱だけ。後は引き籠もっていた為、二世代以降の神々とは面識はない。

 ……あ、いたな。二世代目の神に。ただアレとは知り合いとは言いたくない以上、できれば除外したい。

 さて意識を戻して喋りかけてきた神を見てみる。感じからして五世代以降の神だろう。

 金色の短髪。女受けの良さそうな顔。

 あ、これは嫌みをいうつもりだな。

 どうせ『魔王のくせに神王様主催のパーティーに来るなど恥を知れ』とか、『魔に魅入られた堕王』とか、言うつもりだろう。

 ハイハイ、分かってます。適当に料理食べたら帰りますよ。


「俺の恋人、エヴァーリンに対する度重なる嫌がらせと、欲望のままに襲った報いを受けろ!!」


 は?

 同時に腹部に激痛が奔る。

 男神から出てきた女神の名前に呆気にとられ防御がとれなかった。

 俺が、あの性悪女神に嫌がらせ? しかも欲望に駆られて襲った?

 腹部に刺さった神剣よりも、その誤解の方が驚きだ。


「何を、言っているか、分からないな。……あの性悪女に、何か、吹き込まれたか」

「性悪女だと! 貴様、エヴァーリンに対してまだ言うか!」


 ――ああ。もう、こいつは、ダメだ。

 性悪女に目が眩んで、何も見えていない。仮にも神王主催のパーティーで殺傷事件など起こせばどうなるか、普通に考えれば誰にもでも分かることだ。が、この男神は、それが理解できてない。つまり完全に性悪女のシモベと化した哀れな神。

 男神は、腹部に刺した神剣を思いっ切り引き抜く。

 男が血の付いた剣を持っているのを見て、談笑をしていた一部の神々が悲鳴を上げる。

 悲鳴を上げる神。様子を伺う神。俺が腹部を貫かれた事を喜ぶ神。

 数多居る神の中で、蠱惑的な笑みを浮かべる女神がいた。

 銀色の髪は腰の所まで伸び、容姿はあまりに可愛く、護ってやりたいと思わせる雰囲気を持つ。この想像の黒幕、女神エヴァーリン。

 ここで性悪女を殺すのはそれほど難しくない。周りに居る男神が遮ったとしても、1分も掛からずに殺せる自信はある。

 ……ただアレの思い通りになるのは業腹だ。

 どうせ反撃するとでも思っているんだろが。

 ちょうど魔道も極めて生き飽きた所だ。神王との約束もあって自殺はできないから、ちょうど良い。せっかくの転生秘術を試すのにもってこいだ。

 ただ、あの程度の神剣レベルだと心臓を貫かれたとしても、全く問題ないが困る。ここは魔法を用いて、自己回復・自己再生を無効化。あ、周りからの回復手段を防ぐ必要もある。

 周りに悟られないように1秒で複数の魔法を発動。

 そして膝を床について身体が床へと倒れた。

 性悪女が僅かに驚きの表情をしたのが目に入る。


「魔王!!」

「ああ、神、王」


 こいつともお別れか。

 なんだかんだで一番付き合いが長かった。

 もし友達を挙げろと言われたら、間違いなくコイツを挙げる。


「俺、死ぬわ」

「ふざけるな! お前ほどの実力者が、この程度で死ぬはずがないっ」

「お前は、相変わらず、俺を、過大、――評価、し過ぎる。生きている存在は、いつかは、……・死、ぬ。遅いか、早いか、だ。多少……、実力云々は含まれる、かも……しれない、が」

「――ぬ。余の回復術が弾かれるだとッ。お前は、そこまでして……」


 ああ、神王は悟ったか。

 神王の回復術を拒絶するほどの魔法を使えるのは、ほんの一握りの相手のみ。五世代以降の神が持つ程度の神剣では、喩えどんな付加した所で阻めるものではない。


「……俺の、遺体は、従者のレイに、――頼む」

「――」

「どんな、形でも、遺言だ。……・聞いてくれ、よ」

「――分かった。ただ、お前も約束しろ。いつかは再び余の元に会いに来ると」


 面倒だからイヤだよ。神界は神以外は居心地が悪いところだ。

 転生先は人間に指定してある。人間の身で、神界には来たくないが。

 ま、神王の言葉だ。転生して落ち着いたら、会いに行こうか。


「分かった。友よ」

「まさか、死の間際でお前から「友」と言われるとはな」


 怒っているような、悲しんでいるいるような、よく分からない表情で神王は言った。

 さて遺体はレイに任せておけば悪用される事はないだろう。

 ……ん。

 意識が朧気になってきた。

 ――転生先は人間。指定したのは神がほぼ居なくなった星。とある次元にある地球。

 あとはランダム。どんな所に転生するかは運次第。その方が面白い。

 できる事なら、退屈しない人生を送りたいものだ

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