プロローグ:執事からの招待状
プロローグなので連日投稿しました。
黒瀬 蓮が目指しているのは、完全自律式のAIプログラムである。きっかけといえば単純なものだ。小さい頃に見たアニメのキャラクターにAIがいて主人公と宇宙を駆け巡る。そんな話だった。小さな男の子だった彼は、いつかは自分も同じように冒険に出るんだ!と決意したものだ。
しかし、現実はそんな想いを粉々に打ち砕いた。自分で考えて行動するAIは夢の話で、大人たちにいくら話をしても笑いながら相手にもされず、同年代の子供に話をしても『○●ごっこ』で終わりになってしまう。最初のうちは楽しんでいたが、友達が本気で目指しておらず遊びだけだと思っていることに気づいてケンカした。
なぜ本気で目指さないのかと問い詰めた。それで返ってきた言葉に答えられない自分が嫌だった。
「そんな空想なものを誰が作るのか?」
いろんな場所に移動できる宇宙船、人工知能システム。当時のそれはまだ開発初期段階で、宇宙船といえば1つの惑星を目指してロケット型で往復が限度であった。人工知能は調べてみたがチェスなどのボードゲームで少しずつ学習するというもの。人のように振る舞うAIロボット開発は、まだ誰もできていなかった。
ダメなのだ。いくら聞いても調べてもその方法が分からない。これが普通の子供であれば『自分が作ってやる』と息巻くのだろうが、蓮は他の子供よりも成熟が早く現実的であった。
だからこそ、実現が不可能と思われるその言葉を簡単に言うことができなかった。だけど、いつも考えていた。『どうしたらできるのか…』ということを。
そんな感じで方法を試しながら手探りでしていたら、この研究所にたどり着いた。この研究所の面接時にどうしてここを選んだのかと聞かれて、
『必要な資材や器具があり便利そうだったから。給料は飯が食えれば十分で、仮眠ができる部屋があればなおさら可。求める仕事をする代わりに自分の研究もここでさせてくれ』
というなんとも自分勝手な要求をしたときの面接官の唖然とした顔は覚えている。後から聞いた話で、この研究所の所長なんだそうだ。
さて、現実逃避をしていたようなので時を少し戻ろうか…
作業に詰まったときや気分転換したいときに『コーヒーブレイクしながら研究所を散歩する』ということをするのだが、いつもと違う光景を発見した。
「申し訳ございません、少しお時間よろしいですかな?」
空耳かと思ったら通り過ぎのパソコンモニターにそれはいた。執事服をきた白髪頭のナイスガイ。これぞ執事というようなイメージの3Dで立体的なそれは、まるで人のようであった。
「夜分にお引止めして申し訳ございません。私、セバスと申します。主の指示でこちらの世界の有能な人材と交渉させていただきに参りました。」
「誰かの作ったAIか…よくできているな、まるで本物のようだ。いったいどのように作っているのだろう分解したい」
「ほっほっほ、話を進めさせていただきますぞ。主は別の世界で管理者としているのですが、邪神の愚か者が外部から負因子を世界にばらまいたようでしてね。さらに用意周到に主の活動がしにくいように世界とのリンクに結界を張り巡らせ、戦争をしかける始末。」
「どうやら他の権限者と結託したようで数で圧倒的に不利なのです。主の力が強力なため、じきに収まると思いますが、管理していた世界を守る術を欲しています。」
「ふむ、それで俺にどうしろと?というか、そんなになるまで放っておいた管理者が悪いのではないか」
「そうですね、そのように言われても仕方がありませんが我が主が悪いのではなく、前管理者が堕天を起こし邪神側に寝返っておりいました。前管理者と対峙しているあいだに状況は悪くなり、勝利し権限を剥奪したときにはこのような状態に陥っておりました。」
「それはまた面倒なやつがいるもんだ」
「さてここからが本題でございます。ここに2枚の招待状がございます。こちらの黄色いほうは短い間のみの通行証が入っており通常の特典がついております。こちらの赤いほうは永久証が入っており強力な特典がついております」
「じゃあ、赤いほうで」
「赤いほうを受け取ったら、二度とこちらの世界にかえってこれませんがよろしいですかな?」
よくできた設定だ。
「そちらのほうが強力な特典をくれるのだろう?かまわないさ」
「では、こちらをお受け取り下さい」
そう言われてモニターから赤い招待状と腕が出てきた。
「うぉ!!びっくりした」
予想外のできごとに大きな声をだしてしまった。だって普通ありえないだろ!?パソコンのモニターから腕が出てくるなんて…まるで○○子、ホラービデオだ。
「その招待状を開封して永久証を手にしていただければ主の元へと続くゲートが現れます。最後にお聞きしますが、本当によろしいですかな?それは片道の切符となります」
普通に考えれば受け取らない。SFの世界に憧れがあっても黄色を選べば行って帰ってこれる。こちらを選ぶだろう。でも…
目の前の不思議なできごとに俺はワクワクが止まらなかった。さっきまでおもしろ半分でいたのに、この非日常は夢か幻か?とも考えたが頬をつねると痛い。このチャンスを逃せば次はきっとないだろう。だから…
「問題ないさ」
赤い招待状の封を開け『永久証』を手に取る。
次の瞬間、光り輝く魔法陣が足元に展開され、研究所だったところが何もない空間へと変化していく。そして視界が一瞬真っ暗になったと思ったら…
「ようこそ、お茶でよいかね」
ちゃぶ台と小さな坊主頭のじいさんがいた。