仲間を探して
安藤有莉栖、本田満、楠木絵理奈の三人は、小型の魔物の群れ、十七体をなんとか撃退し、ドラッグストア『古谷』の駐車場で腰を下ろして休んでいた。
絵理奈は勇者の証の地図を眺め、ここから一番近い所にいる勇者の仲間を探していた。
「あっ! 有莉栖ちゃん、本田さん、これ見て」
有莉栖と本田は絵理奈の勇者の証を覗きこんだ。絵理奈の勇者の証には、仲間を示す白い小さな丸がここから南西の辺りに一つあるのを発見した。
「よっこらせっと~! 誰だかわからないけど、行ってみよっかね」
有莉栖は立ち上がってその大きな尻を二度叩いた。
「あっ、でも、この仲間の近くに魔物が三体近づいて来てるみたいですよ」
七三分けの本田が指差している所を見ると、魔物を示す赤い小さな丸が三つ白い小さな丸のもとへ北上してきていた。
「私達が今から急いで仲間のもとへ向かえば魔物より先に仲間に合流できそうよ」
「なら決まりですね、俺達はすぐに仲間の元に行かないと」
「アンタ、頼もしくなったじゃないのさ~!!」
有莉栖が本田の背中を二回叩いた。
「そりゃあ、頼もしくもなりますって~、だって俺、ここに送られてきた時、魔物の群れのドまん中に居たんですからね、修羅場でしたよ、修羅場」
三人は仲間の元に走り出した。絵理奈の長いポニーテールが風に揺られるたびにシャンプーのいい香りがしてくる。本田は初めて絵理奈を勇者の酒場で見たときから気になっていた。少し厚化粧だがバッチリ決まったメイクの絵理奈は少し気が強そうな顔立ちをした美人だった。おそらく絵理奈の顔のパーツを見る限り、スッピンの顔も美人なのだろう。そんなことを考えながら本田は走る絵理奈の横顔を見つめていた。
「ん? どうした? 私の顔に何かついてる?」
本田の視線に気づいたのか、絵理奈が本田の方を見た。
ヤッバ! つい楠木さんの横顔に見とれてしまった~~!!
「あっ! いや、何でもないです。すんません」
二人のやり取りを見ていた有莉栖がニヤニヤしながら本田の隣から絵理奈の隣へと行った。
「モテる女は辛いね~」
有莉栖が言っていることが理解できない絵理奈は不思議そうに首をかしげた。
「え? 何のこと?」
「だ~か~ら~、本田はあんたに惚れ……」
「ああああああ!!! ちょっ!」
本田は有莉栖の後ろに来て、有莉栖の口を両手で塞いだ。有莉栖が本田の両手からバタバタと逃れようとしている。
「もう~! 二人共~、ふざけてないで早く行くよ!」
絵理奈に怒られ二人は反省したのか、黙って再び走り出し、それから真っ直ぐに目的地まで到着した。
「確かこの辺だったよね~? 」
三人は自分の勇者の証の地図をそれぞれ確認してみた。白い小さな丸が西へと移動していく。そして、三人がいる場所に三体の魔物も到着した。
白い甲冑で全身を覆い、右手に巨大な鉈のような武器、左手には巨大な盾を持った二メートルは身長がありそうな騎士のような魔物。
馬のような顔をしているが、体は蛇のように太く綱のような体で、とぐろを巻いている巨大な魔物。
小柄だが、右腕だけが筋肉でパンパンに膨れ上がっている棒人間のような細い体と、顔のパーツが無いのっぺらぼうの魔物。
「なんかヤバそうじゃないっすか?」
本田は嫌な汗が全身から流れてくるのを感じた。この三体の魔物はこれまで相手にしてきた魔物とは少し違う感じがした。
「私達だけじゃ勝てないかもしれない」
絵理奈も三体の魔物の雰囲気を感じ取った。
「ヤバイ? 勝てないかもしれない?
ハッ 笑わせるね。魔物がアタシら人間よりも強いなんてことはとっくに分かりきってることじゃないか。どうせあいつらがアタシらよりも強かったら逃げ切ることなんて到底不可能だよ。勝つしかない! 負けることなんか考えちゃダメさね! 違うかい?」
「ごめん、ちょっと弱気になってた」
「わかったら武器を構えな! 来るよ」
頭が馬で体が蛇の魔物がコンクリートの地面をまるで魚が水の中を泳いでるように、優雅でスピーディーに這いずり回る。
体を丸めていないと馬蛇の全長は十メートルくらいはあるだろう。
有莉栖は馬蛇の綱のような太い体に向け飛ぶ斬撃を放った。
「シギイイイイイイ」
綱のような太い体は馬蛇の体から綺麗に離れた。しかし、その直後、切れた場所から綱のような体が生えてきて、再生してしまった。
「ほう、あんた再生すんのかい」
馬蛇は体を立たせながら有莉栖と向き合う。絵理奈と本田には目もくれない。
馬蛇はその長い体を有莉栖の背後に回した。後ろを確認して有莉栖は笑みを浮かべた。
「絵理奈、本田、こいつはアタシがやるよ。あんたらはそっち頼むよ!」
絵理奈は白い甲冑の魔物、本田はのっぺらぼうの魔物と向き合っている。
「わかった! 有莉栖ちゃん! 死なないでね!」
「もっちろんっ!!」
有莉栖は剣を真っ直ぐに馬蛇に向けて構えて走り出した。
「楠木ちゃん! ヤバくなったら逃げろよ!!」
「本田さんもね!」
二人は同時に相対する魔物に向けて走り出した。
紫色の短い髪、無精髭を生やした五十代くらいの男と、銀髪の髪の長い美少年が新潟駅南口を眺めていた。
二人の共通点は、全身白のスーツと白い靴を履き、白い上着の下に水色のストライプのシャツ、手には白い手袋、腰には長い刀を差している。
「この世界はいい所だな。空気は不味いがみたこともないような不思議な建物ばかりだ」
「意外と科学技術は発達している世界ですね。まあ、この世界の人間はゴミのような弱さでしたがね。おそらく彼らは戦うことに慣れていない」
銀髪の美少年は長い髪をクルクルと指で巻いたり、毛先の匂いを嗅いだりしている。
「ジャミルはどうしてる?」
「散歩に行きました。予定数の魂を狩れたから少し観光を楽しんでくるそうですよ」
「あいつらしい。私達も少しこの世界を歩いてみるか?」
紫色の髪の男が美少年に尋ねた。
「いえ。私は興味ありません」
めんどくさそうに美少年は答えた。美少年はまだ自分の髪をいじっている。
「そうか。では、私は行ってくるとしよう。留守を頼むぞ、ヘル」
「承りました。行ってらっしゃいませ、ベルトゥ様」
ヘルはお辞儀をしながら散歩に向かうベルトゥを見送った。