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リアル勇者  作者: パパス
第一章 立ち上がれ十人の勇者達
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嬉しい再会、最悪の再会

 

 耳が完全に隠れるくらいの長さの黒髪で、奥二重の目をした中肉中背の青年、佐々木勇気は気がつくと、蜘蛛のような魔物に襲われた場所辺りにいた。時刻は外の薄暗さから推察すると夕方の五時くらいだろう。あれからまだ一時間くらいしか経っていないのかもしれない。

 ここに来る直前まで勇気の他に、優、本田、照子が一緒にいたはずだが、この場所には生きている人間は誰もいなかった。魔物以外は。

 全身が骨の剣を持った骸骨が五体に、イノシシに似た魔物で、像のような長い鼻を持った魔物が一体、ビルの脇の路地から出てきた。


 まずい!


 魔物を発見した勇気はエリッサから先程聞いた戦うための武器のことを思い出すよりも先に蜘蛛のような魔物に襲われて殺されかけた恐怖が先に思い出され、勇気の頭の中は逃げる一択だ。

 普段この辺りの交通量はかなり多いはずだが、車が一台も通っていない。勇気は道路を全力疾走で横断して高層マンションや、一戸建ての住宅が密集している住宅街に逃げてきた。

 勇気は走っている最中に自分の体、というより、勇者の服の効力を身をもって体感した。勇気はあの交差点の場所からこの住宅街まで七~八百メートルくらいの距離を二~三十秒くらいの時間で走り抜けて来た。しかも、全力疾走したにもかかわらず、息が全くあがっていなかった。前の勇気ならこの距離を全力疾走したならばおそらく魔物と戦う前に心臓が破裂して死んでいたはずだ。持久力も、スピードも、以前の勇気とは比べ物にならないくらいだ。

これは勇気を勇気づけるいいきっかけとなった。

 勇気は右手首についている勇者の証のディスプレイ画面を眺めた。


「これは、この辺りの地図かな?この二重丸が僕だとすると、この近くにある赤い小さな丸は魔物?」


 勇気は勇者の証から目を離して、勇者の剣を引っ張り出してボタンを押した。勇気は刀身をしばらく眺め、左側のトリガーをギュッと奥まで引いて戦闘準備を整えた。心臓がバクバクしている。やがて、右側のトリガーがうっすらと光だした。

 赤い小さな丸が集まっていた場所は、どうやらコンビニの中のようだ。勇気は覚悟を決めた。もう一度勇者の証の地図を確かめた。地図はコンビニの中に赤い小さな丸が六つと白い小さな丸が一つ表示されていた。

 

 赤い小さな丸が一つ減って代わりに白い小さな丸が増えた?


 ギヂャアアアア!! 


 魔物の叫び声!? 


 コンビニの中から魔物の断末魔の叫びと、物が破壊される音が聞こえ、その二~三秒後にコンビニの壁が勢いよく吹き飛んだ。

 勇気は慌てて勇者の証のディスプレイ画面を確かめた。

 どんどん赤い丸が消えていき、ついには白い丸だけになった。


「まさか魔物じゃあないよな~?」


 勇気は恐る恐るコンビニのドアを開けて中に入った。コンビニの中は魔物の真っ二つになった死骸と、そこら中に散乱したコンビニ商品と、棚が倒れたりしていて、奥がよく見えない。

勇気は棚をどかしながら従業員の控え室のバックヤードを目指して進んだ。ディスプレイの地図は白い小さな丸が奥のバックヤードを示している。勇気は落ちていた塩おむすびの袋を開けて、一口かじりながらバックヤードの扉を押し開いた。


 キャアアアアアアア!!

 

 ドアを開けると、小柄な女の子が水色のフリルがついた純白の下着姿で勇気の目の前に突如現れた。小ぶりな胸をまじまじと見つめながら勇気の思考は停止し、代わりに鼻血が出た。

 下着姿の小柄な黒髪ボブの女の子が凄まじいグーパンチを勇気の鼻に勢いよく叩きつけた。


 「グハ~~~~!!」


 勇気の手から塩おむすびと勇者の剣がひらりと落ちて、勇気は倒れこんだ。もちろんダメージは0だ。


「はあ、はあ…… あれ? 勇気さん!?」


 黒いスーツで下着姿の体を隠しながら顔を真っ赤にした小柄な女の子が、小さな丸顔から覗く二重のクリクリした大きな目で倒れている勇気を見下ろしている。


「三奈木ちゃん!!」


 勇気は勢いよく起き上がって鼻血を左手の袖で拭いながら優に近づく。


「ちょっと、離れて」


 優ははずかしそうに顔を真っ赤にしながら言った。


「ごめん! 後ろ向いてるから着替えてよ」


 勇気はくるりと後ろを向き、優が着替え終わるのを待った。


「まだ見ちゃダメだからね」


 酒場で会ったときはまだ混乱してて、あまり意識してなかったけど、三奈木ちゃんって顔だけじゃなくて意外と声もかわいいんだな。 


 勇気は声フェチで、かわいらしい声がたまらなく好きだったから感動した。しかし、そのことを今口に出して優に言うと、また殴られそうだから止めた。


「もういいよ。こっち向いても」


 優は黒いスーツに身を包み、不機嫌そうに頬を膨らませていた。


「さっきはごめん! 勇者の証の地図を見て、赤い小さな丸と白い小さな丸がこのコンビニを示していたから確認のために来たんだ。

 でもまさか三奈木ちゃんがフリルのついた下着姿で立ってるとは思わなくてさ」


 勇気はそこまで言ってからハッと気付いた。さっきまでのかわいらしい顔の優とはうってかわり、鬼のような形相で勇気を睨んでいる優がいた。


「……私の下着姿、じっくり見たんだ」


「いや、違うよ! よくは見てないんだ!一瞬フリルっぽいのが見えたからさ」


 勇気は慌てて弁解した。


「色は?」


「色?」


「私の下着の色、何色だった?」


「……白」


「どんな感じの下着だった?」


「……水色のフリルと、ピンクのリボンがついた……ハッ!」


「しっかり見てたんじゃん!! 勇気さんの変態!!」


 優は顔を真っ赤にしながらバックヤードを出ていく。


「ごめん! ごめん! 誰にも言わないからさ!」


 両手を合わせて勇気は申し訳なさそうに許しをこいながら、勇者の剣を拾って優に続いた。


「絶対だからね!! まぁ私も悪いんだけどさ……

 あ~、もう、Yシャツについた返り血なんか落とそうとするんじゃなかった」


 その時だった。コンビニの入口のドアが巨大な魔物の鋭い爪によって切断というよりは、吹き飛ばされたと言った方がいいかもしれない。コンビニの入口のドアがあった場所からゆっくりと、勇気を襲った巨大な蜘蛛のような魔物が気味の悪い複眼でこちらをしっかりと見据えながら入ってきた。 






 

 

 

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