勇者達の帰還
ジャミルの触手での攻撃を受けた辰美が吹き飛ばされていく光景を優と麗斗は目の当たりにした。辰美が吹き飛ばされた場所の近くに辰美のものであろう勇者の剣が転がっているのを発見した。ジャミルがものすごいスピードで辰美を追撃する。
まずい、このままでは山田が殺られる。この距離じゃあ走っても間に合わない。どうする? どうする?
麗斗は何気なく抱き抱えている瀕死の繁沢の右手を見た。繁沢は飛ぶ斬撃の発射準備が完了している勇者の剣を握りしめていた。繁沢はまるでこれを使えと言わんばかりに握りしめていた勇者の剣を小刻みに震わせていた。
「優ちゃん! おっちゃんを頼む!!」
優は麗斗の表情を見て頷いた。
「任せて」
麗斗は繁沢の勇者の剣を掴んだ。おっちゃん、借りるぜ。
すると、繁沢がまるでこれを待っていたかのように力を緩めた。麗斗は繁沢から勇者の剣を受けとると、丸腰の辰美に向けて勇者の剣を投げた。
「受けとれ~~!!」
辰美は麗斗の発した声に反応し、自分のもとへと投げられた勇者の剣を見据えていた。
おそらく、投げた勇者の剣の方が一瞬早く山田のもとへ行くはずだ。あとは、山田が剣をちゃんとキャッチできることを祈るしかなかった。
勇者の剣は、手を伸ばせば届く位置に、ジャミルも辰美の首を飛ばすべく、刀を首目掛けて振るった。
一瞬早く辰美が勇者の剣の右トリガーを引いた。
終わった。山田があいつにとどめを刺したんだ。麗斗は安堵した。
ジャミルは辰美の飛ぶ斬撃を体に受けて、上半身と下半身が分離し、そのまま絶命した。辰美は地面に伏しているジャミルを見下ろしていた。
「『武士道とは死ぬことと見つけたり』って言葉があるけどさ、きっとあんたら魔人の戦士の信条もそうなんだろ?
名誉の死か不名誉の死か……
あんたの死は名誉の戦死なのか?」
辰美は悲しそうな表情を浮かべ、ジャミルの上半身だけの遺体に語りかけ、ジャミルの見開いた瞼を閉じてやった。
ジャミルに吹き飛ばされた勇気は、再びジャミルと戦うべく起き上がると、上半身と下半身が二つに分離して地面に伏しているジャミルの姿と、それを見下ろす辰美の姿が目に入った。
ーピピピピ
突如、勇気の勇者の証からアラーム音のような連続しが鳴り出した。勇者の証を覗いてみると画面には
『殲滅完了』
と、表示されている。
「殲滅……完了? ということは終わった……のか?」
勇気がそう思った瞬間、空から金色の光が降り注ぎ、勇気の体を包んだ。
勇気は気がつくと、勇者の酒場にいた。
「あれ? また戻って来たのか?」
辺りをキョロキョロと見渡しているとき、戦闘でボロボロになった勇者の服が、新品同様になっていることに気がついた。
「服が新しくなってる……いや、というよりは治ったのかな?」
「佐々木勇気樣、お帰りなさい」
エリッサが勇気のもとへと歩いてきた。
「あの、他のみんなは?」
「今他のみなさんもここへ転送している最中です。ほら! さっそく誰か転送されて来ましたよ」
エリッサが指差す方を見てみると、金色の光の柱が出来ていた。その中から、長身で無駄のない引き締まった体つきをしているモデルのような青年。山田辰美が現れた。辰美は、転送されて来ると、自分の体を、正確には勇者の服が治っていることに気がついて、不思議そうに眺めた。
「山田君!!」
勇気の声に辰美は気づいて振り向いた。辰美は苦笑いをしていた。
「山田君、って呼び方さ、どっかの座布団運びを呼ぶときみたいでなんか嫌だから、辰美って呼んでくれ」
「えっ? あっ、そっか、ごめん。じゃあ辰美君。
無事で良かったよ。君がジャミルってやつを倒してくれたおかげで無事にここへ帰ってこれた」
辰美は首を横にふった。
「俺があいつを殺れたのはまぁ、なんだ……その……みんなのおかげってやつだ。
全員の行動が勝利への道筋を作り出した。俺だけの勝利じゃあね~から、俺のおかげっていうのは違う。それより、また誰か来たみたいだぞ」
辰美が指差す方に金色の光の柱が出来ており、徐々に光が消えていき、中から三奈木優が姿を現した。