VS ジャミル・リゴール④
「ハハッ……戦争だぁ? 笑わせてくれるじゃね~か」
勇気は、鍔迫り合いを止めて、バックステップしてジャミルと距離を置いた。何か嫌な予感を感じたからだ。
「今から始まんのは、戦争じゃあね~よ。一方的な殺戮だ!!
俺の決闘を邪魔した罪は重いぞ」こ
ジャミルの体をドス黒い妖力が繭のようにジャミルを包み込んでいく。ジャミルが纏った妖力は、四本の黒い二~三メートルくらいの長さの触手のような形に変わり、ジャミルの肩甲骨から腰のあたりに現れていた。触手はうねうねと蠢いている。
「あれがあいつの妖力か」
勇気は、冷静にジャミルを観察していた。
なるほど……これはヤバイな
勇気は、ジャミルとの実力差を痛いほどに感じていた。このまま戦えば、おそらく自分達は、負けるだろう。RPGゲームで例えるならば、ジャミルはLv.五十で、自分達はLv.一くらいの力の差があるだろう。
「山田辰美は最後に殺る。まずは、俺の邪魔をしやがった、お前が先だ!!」
勇気とジャミルとの距離は、十メートルは離れていた。
勇気は、瞬きを一回した。
「死ね!!!」
瞬きをしたほんの一瞬の間に、ジャミルが勇気の眼前で刀を勇気の脳天めがけて降り下ろし、肩甲骨と腰から出ているジャミルの変化した四本の触手のような妖力が、勇気の左右から、ものすごいスピードで迫っていた。
「まったく世話がやけるな」
辰美は勇気の襟を掴み、後ろへ放り投げ、ジャミルの振るった刀を受け止め、左右から来る触手はそれぞれ、優と繁沢が剣で受け止めた。
「佐々木! 大丈夫かよ?」
「大丈夫です。助かりました」
麗斗は勇気を受け止めて、ジャミルと辰美達との攻防の様子をみていた。
「すっげえ」
ジャミルの振るってくる刀と触手はおよそ肉眼で捉えられるような速さではなかった。しかし、三人はジャミルの攻撃をなんとか受け止めていた。
「あんたらもっ……魔力……使えたのかよ」
「ぐっ……さっ……き勇気に教えてもらった」
「オラオラオラッ!! 油断すっと死んじまうぞ!!」
ジャミルはなおも攻撃の手を緩めない。繁沢と優は、まるで鞭のようにしなり、不規則な動きをする触手を各自二本ずつ対処していたが、だんだんと攻撃をスーツに掠り始めた。
「ちょっとまずいよ! 逃げたいけど逃げる隙もない」
優はスーツの、上着部分と白いシャツの三割くらいが、ジャミルの触手が掠り、私服が見え始めた。
「麗斗さん! また戻ります。麗斗さんは飛ぶ斬撃の準備をお願いします」
「わかった! 合図してくれ」
勇気は麗斗に親指を立てて了解のポーズをとり、駆けていく。ジャミルの後ろ側へ回り込み、剣をがら空きの背中に向けて振り下ろした。
「そこを攻めるは愚の骨頂~!!」
「……!?」
優と繁沢を攻撃している触手が各自一本ずつ勇気の方へとすごいスピードで飛んできた。右の触手は、螺旋を描くように、勇気の額に向かってきて、左の触手は、勇気の腰辺りに向かって飛んできた。
「おっさん!! JK!! 下がれ!!」
辰美の声を合図に、繁沢と優は、正面から飛んでくる触手をしゃがんで避けて、そのまま地面を転がりながら後退し、触手の射程から何とか離れることに成功した。繁沢も優も、スーツがボロボロ剥げてきており、ついには、ズボンまで剥げてきていた。剥げてきた箇所からは、私服が覗いている。このスーツは、勇者のヒットポイントに等しい。これが機能しなくなれば、一撃であの世行きだ。
辰美は、ジャミルの刀と、触手の計三本の武器を捌かなくてはならなくなった。
「あの触手を全部受けるのはさすがに無理みたい」
繁沢も、自分のスーツの状態を確かめてから頷いて、優の見解の正しさを認めた。
「そうだな~。とりあえず遠距離から攻撃してみるか」
優と繁沢は、勇者の剣の左トリガーを引いた。
勇気は二本の触手を剣でガードしようとしたが、自由自在に動く触手を、戦闘の初心者である勇気にはとても受け止めきれない。しかも、一発一発の触手の攻撃力はすさまじく、勇気に触手が当たるたびに、勇気の着ていた私服が露になっていき、今は、へそから上が私服で着ていた灰色のパーカーになっていた。
このままじゃあ勇者の服を完全に破壊されてしまう……なんとかしてあの触手をあいつから斬り離さなきゃ……
勇気は麗斗に合図を送ることにした。
「八十吉さ~~~~~ん!!! 今だ~~!!」
麗斗は勇気の呼び掛けに答えるために、ジャミルのもとへと駆け出した。
その名前で……
ジャミルの刀と触手を紙一重で防いで避けている辰美は、麗斗の体から発せられてる魔力を感じとり、麗斗の攻撃の意図を察して横っ飛びでジャミルから離れた。
呼ぶんじゃね~~~~!!
麗斗は勇者の剣を魔力で包み込み、その状態のまま右トリガーを引くことにより、強化された飛ぶ斬撃をジャミルめがけてななめに放った。
ジャミルは余裕のある表情を浮かべて、刀の先端に手を添えて受け止める構えをみせた。
一方で、ジャミルの二本の触手に苦戦している勇気は、退くことも攻めることも出来ず、触手をガードすることに全神経を集中させていた。
まだだ…… 必ずチャンスは来る!
優は、離れた場所から、この攻防の成り行きを見守っている。
「ドリャアアアアア!!!」
ちょうど麗斗が放った飛ぶ斬撃をジャミルが受け止めるのと同時に、繁沢がタックルの姿勢でジャミルに向かっていった。冷静に観察していたジャミルは、繁沢に気づき、一本の触手を繁沢の迎撃に向かわせた。
麗斗が放った飛ぶ斬撃は、通常時の、およそ二倍くらいの巨大な斬撃に成長しており、受け止めているジャミルの顔から、余裕のある表情が消えていた。
麗斗の斬撃はなんとか受け止めることができたが、捨て身の繁沢のタックルを一本の触手では止めることができない。ジャミルは、仕方なく二本の触手で対応するしかない。
「ナイスだおっさん!!」
千載一遇のチャンスの到来だった。辰美は体制を立て直し、再びジャミルに向けて剣を振るった。
勇気も左側の触手一本に狙いを定めて、剣を振るった。
「グッ……クソッ!! てめえら!!」
辰美はジャミルの刀を魔力で普段よりも多く纏った左手で受け止めて、左側の触手に会心の一刀を振り下ろした。
勇気と辰美の一刀は、触手を一刀両断していた。
それだけではない。繁沢はついにジャミルの懐に入ると、万力の力を込めて、ジャミルの腰を押さえつけていた。ジャミルの触手は繁沢の背中を叩き続ける。それと同時に、繁沢の勇者の服は、脛から下だけになっていた。
「まだ勇者の服は壊れてない! おいらはどうなっても、お前を倒せればそれでいい!!」
繁沢の決意を秘めた強い目に、ジャミルは身震いした。