表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/14

幕間一 家出魔王と悩めるエルフ

 ここは魔王様の私室。私は、いつもの様に部屋に呼ばれていました。

 暇なほど時間があるわけではないのですが、無視して放って置く訳にもいきません。


「暇だなぁ~、何か面白い事ないかなぁ~」


 また始まりました。前回は1週間程前だったでしょうか?

 これは定期的に発祥する魔王様の悪い癖のようなものです。

 確かに、事務的な事は我々が全てこなしているし、魔王様にしてもらう事などそうそう起きないのですが、それだけにこういう事が良く起こります。

 何かを任せれば、ある程度は何でもこなすだけの能力は贔屓目に見ても確かにあると思います。

 ただ、慣れというものがあるように、私達がいつも通り仕事をした方が効率、情報伝達の面から見ても早いのは確かな事でした。

 それに、ヒマオーラ全開の魔王様に何かを任せると、絶対に横道にそれて戻ってこなくなるに違いないという考えもあります。

 事務的な仕事のみならず、魔王という名は伊達ではありません。

 魔王としての力、魔力は私達の中で一番の能力を持っているのは確かです。

 それだけにこのまま放置しておくのは非常にまずいと言えるでしょう。

 何しろ、その強大な魔力に任せてどんな面倒を起こすのかわかったものではないのですから。


「暇と言われましても、それならば兵達に魔法の使い方を教えては…」

「それはこの前やったじゃないか。同じ事を何度も教えなければいけない程、質が悪い兵しかここにはいないのかなぁ?」


 少しイラっとしましたが、私にとっては何時もの事。

 何度か方向を逸らし、暇を変わりの手段で潰して貰うという方法を取ってはいましたが、前回の時に兵の訓練はして貰っていたのでした。

 当たり前ですが、魔王様も私がこういう手段を取るであろう事は既に理解していると思います。

 何しろ、今まで何度も繰り返してきた事なのですから。

 魔王様にとっては、この一連の流れそのものが暇潰しの一環なのでしょう。

 私がどういう手段を提案してくるのか、それ込みで。

 ですが、それにも飽きてしまっているいる様子。

 私の苦労も知らないで…、いえ、知っていてわざとでしょうか?

 なんとも性格が悪いと思いますが、それはもう周知の事実なので今更といえば今更の事です。

 他に何か気を逸らす方法を考えるべきでしょうか?


「それでは、転移魔法で国を見てまわったらどうです?今日はもう離れても大丈夫ですので」

「実はもう行ってきたんだよね。事件も何も無いから面白くも無い」


 事件がないという事は、私達の治世が上手く行っている証だと思うのですが、魔王様にとってはそれがあまり面白くないらしいです。

 それなりに苦労しているのですが…。


「そうですね、それでは思い切って魔王をやめるというのは?」


 不意に思いつき、口にしてしまったその言葉を聞いた瞬間、もう決めてしまっていたのだと思います。

 思い返して見ても、我ながら軽率すぎる発言でした…。


「それはイイネ!何にも縛られないでブラブラするのもいいかもしれない」

「冗談ですので本気にしないで下さい…。お忍びで人間達の国に行く位なら目を瞑りますので…」


 本来なら魔王が人間の国に行く、それ自体が大きな問題であるのですが、この際仕方ないです、譲歩しましょう。

 分かってると手を振る魔王様の表情は満足したようなものである事に非常に嫌な予感を覚えましたが、もう後の祭りです。


「わかってるって、それよりもこれから急ぎの案件があるんだろう?僕は、そうだね。今日はこの辺で勘弁してあげよう。何もしないよりはマシだから、兵の所にでも行こうかな」

「…わかりました。それでは、私はこれで失礼いたします」


 優雅に腰を深く折り、部屋を出る。

 部屋の外にいるメイドに一応の注意をしておく事にしましょう。


「魔王様の事をできるだけでいいですので監視していて下さい」


 内心、本気で魔王様がどうこうする気なら誰が監視していようと無駄だと思いながらも。

 監視という言葉を使った理由は、察して頂けると有り難いですね。


「畏まりました」


 頼まれたメイドの表情を見ると、彼女も無駄だと思うけどなぁといったもので、案に期待しないで下さいね?というものでしたが、それは仕方ない事です。

 そうして、私は嫌な予感を覚えつつも自らの業務をこなす為にその場を去るのでした。



 嫌な予感と言うものは、得てしてよく当たるもので、自らの発言の軽率さに眩暈がしそうになりました。

 というよりも、魔王様の行動力を見誤っていたようです。

 まさか言ったその日に実行に移すなんて思いもしませんでした。


 太陽が落ちて暫く経ち、城の殆どの者が寝静まった頃でしょうか。

 城門の前にあからさまに強大な魔力を感じ、兵を伴い急いで向かいます。

 魔力の質自体は良く知る魔王様の物で間違いなかったのですが、ここまで強大な魔力を発現する機会などこれまで数えるほどしかなかった為です。

 何か事件でも起こったのだろうかと現場に着くと、まさかという気持ちで頭が真っ白になりました。

 何も知らない兵達にすれば余計に訳が分からなかった事でしょう。

 ただ、その場で私だけが状況を理解していました。

 理解できてしまったのが、余計に頭を痛くさせます。


「ルイーナ様、この人間は…?」


 魔王様の魔力を放つ城門の前に転がされていたのは、確かに人間の青年でした。

 気持ち良さそうに寝ているのが非常にイライラします。

 兵の質問を意図的に無視して、胸辺りに魔力で張り付けられている手紙を取り目を通します。

 そこには、


「ルイーナのアドバイス通り魔王やめる事にしたぜ!コイツは魔王になりたいとか思ってたみたいだから他の世界から連れて来た!魔力の譲渡も問題なく済ませたし、アフターケアも一応大丈夫だと思うからそこは心配しなくていいよ。それじゃ、後はヨロシク!」


 私達のアフターケアは全然なのですが………。

 無言で手紙を握りつぶす私の姿に、兵達は引いていたと思います。

 それよりも、どうしましょうか。

 頭痛が酷くなってきましたが、私は自分の役割を果たさなければなりません。

 魔王様は行方不明で、実質的に私がトップになってしまったのですから。

 無責任に私も全てを放りだしてどこかに行ってしまいたい気持ちになりましたが、そうもいかないでしょう。


「…勝手にも魔王様は魔王を止めて、この人間を新たな魔王として後継に選んだようです」


 兵達は、まさか!?というのと、あの魔王ならなぁというのが半々の微妙な表情をしています。

 私もこんな間抜けな顔をしていたのでしょうか?


「魔力の譲渡は既に済んでいるようですし、実務は我々がこなす事を考えれば、特に差し支えないように思うのですが…」


 一番の問題はこの青年が人間だという事でしょうか?

 私達の国に人間はいない。いないのですが、考えるだけ無駄でしょう。

 何より、私達が幾ら頭を捻ろうとも、この青年が魔王を継承してしまったという事実は変える事ができないのだから。


「既に済んでしまった事です。私達は今後の事を考えるべきです。家出魔王の事はこの際忘れましょう。探すだけ時間の無駄です」


 気が済んだらその内戻ってくるはず。

 そうでもなければ、転移魔法を自由に使える魔王様を捕まえる事などできない。

 違う世界から連れて来たという事は、今この世界にいない可能性が高い。


「この青年についての処理は済んでいると手紙に書いてありましたので、必要な事だけ伝えて自由にさせましょうか」


 ザックリ言ってしまえば、魔王継承の儀を済ませたら自由に放って起きましょうという割と酷い判断を下す事にしました。

 魔王になりたかったらしいですし、この青年の適正が分からない以上何かをしろと言っても無駄でしょう。

 訓練を受けたようにも思えないので魔力を使えるとも思いませんしね。


「玉座に運んでいて下さい。目が覚めたら私が対応します」


 明日からの事を考えると、私もどこかに行ってしまいたい、そんな風に強く思うのですが、私までいなくなればそれこそこの国がどうなるか分かりません。

 弱音を吐ける相手も特にいない私は、そんな気持ちを胸に仕舞い、どう説明したものかと考えるのでした。

七話は書き終わってますが、話のタイミング的にこういうの挟むならこの辺かなぁと思いまして。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ