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第五話 暇を持て余した魔王の魔王ごっこは虚しい

 空は青く澄み渡り、暖かな日差しが降り注いでいる。

 風の精霊の機嫌も良い様で、流れる風も穏やかだ。

 だが…


「クックック………」


 モンスターひしめく魔族達の大陸クラヴニース、その中心である魔都オルディオンにある魔王城オルディニウム。


 その玉座の間には、不気味な笑い声が木霊していた。

 魔力を伴ったその声は次第に大きくなり、空間を振るわせながらどこまでも響いていくかのようであった。


 ゆったりとした漆黒のローブを身に纏い、黄金の装飾品で彩られたその身を深く玉座に沈めている。


「フフフ、フハァーハッハッハッ!!」


 その声の主は勿論、城主たる魔王の声に他ならない。

 響く声は次第に大きく勢いを増し、聞くものを震え上がらせるに足る物へと変化していく………ような気がした。


「良くぞここまでたどり着いたな勇者よ…。我が配下の四天王さえも退け、よもや我が元まで来るとは夢にも思わなかったぞ!」


 魔王の声に他ならないのだが、問題は玉座の間には魔王以外誰もいないという事であった。

 何故なら、


「勇者が来たら魔王ってこんな感じだろうか?」


 何となく雰囲気で言ってみたものの、四天王とか居るのかも俺には知らんのだけどな!


 何故こんな事をしているかと言えば、魔力を操る方法を覚えて、ある程度自由に行使できるようになった俺は、ありていに言えば暇であった。

 今までであれば訓練場の片隅で日課になった魔法の鍛錬をするのだが、今日は少し事情が違った。

 少し強めに攻撃魔法を撃った時誤って地面に炸裂させてしまったのだ。

 そうして地面に着弾した俺の魔法は、思った通りの効果を発揮して、地面をめちゃくちゃにした。

 言ってしまえば、使い物にならなくしてしてしまったのだ。

 音に気がついて駆けつけて来た、あの時の兵士の余計な仕事を増やすなと言う視線は今思い出しても申し訳なさ過ぎる。

 本来ならば、魔法で地面を均す事も出来ると言う話であったが、無駄に俺の魔力が地面に浸透してしまい、暫く俺以外の魔法の影響を受け付けなくなってしまっているらしい。

 残念ながら俺は地面をどうにかするような魔法をまだ使えないので、やったとしても余計な仕事を更に増やす事になるだけだろう。

 俺の魔力なら、直ぐに都市に吸収されるんじゃないかと思ったけど、緊急に足りない訳でもなく本人が居る以上それはないだろうという話であった。

 そんな訳で兵士達が獲物を武器からスコップに持ち替え、地道に均し作業中なのである。

 俺も手伝おうとしたけど、体はただの人間である俺と、様々な種族が入り混じる兵士達の身体能力に差がありすぎていることもあり、いるだけ邪魔だという事で追い出されてしまった。


(あの場所もう使わない方がいいかなぁ…凄く行き辛い…)


 そうして申し訳なく思いながらも、暇になってしまった俺は誰もいない玉座の間に来たのである。


 改めて見回すと、様々な大きさのモンスターなどが謁見に集まる場所だけあって広さも高さも相当ある。

 装飾などもおどろおどろしい物ではなく、清潔で上品な輝きを放ち、初めて来た者などは、まさかここが魔王城だと連想できる者は居ないであろう。


「俺、ここから始まったんだよなぁ…」


 寝起きだというのがあの時は助かった。

 何しろ、状況を判断できるほど頭が回っていなかったのだから。

 起き抜けにルイーナという美女が目の前に飛び込んできたのもそれに拍車をかけたのだと思う。

 玉座の間に、見渡す限りの跪くモンスター達の存在が殆ど気にならなかった程なのだから。

 それに、普通ならば元の世界に帰せだとか帰還する為の方法を必死になって探すのだろうけど、不思議と元の世界の事は気にならなかった。

 前魔王にこちらの世界に召喚された時、何かそういう精神に作用するような魔法をかけられたのだろうか?

 まぁ今更、


「実はそうなんだよね!テヘッ!」


 なんてされても困るんだけど。

 更に言うなら、自分の今の扱いも、まぁなるようになるかぁ…程度にしか思わない。

 現状、1日の半分をここで過ごすという制限はあってないような物だし、自由に動けるというのはガチガチに予定を組まれるよりは個人的に嬉しい。


「そのせいで暇とも言えるんだけど、贅沢な悩みなんだろうなぁ…」


 独り言は虚しい…

 勇者対魔王みたいなシチュエーションを想像して笑い方の練習なんかもしてみたけれど、魔王は勇者と戦う事が業務に含まれていないと言われたから無駄と言えば無駄である。


 どうしようかなぁ…。

 そんな風に虚空を見つめていると、声がかかる。

 話し相手来た!これで勝てる!


「なんかアホみたいな笑い声が聞こえたから見に来たんだけど、まぁやっぱりパジャ魔よね。それと、無駄に魔力を撒き散らすのも辞めなさい。迷惑だわ」


 そう言いながら謁見の間に入ってきたのは妖精のリリアであった。

 それにしても、呼ばれ方が適当すぎる…。

 パジャ魔とか呼ばれたけど、今は一応俺基準で正装しているつもりだし。


「変な名前で呼ばないでくれ。そして出来れば普通に名前で呼んで下さい!」


 かなり真面目にお願いする。様とかいらないから普通に名前で呼んで欲しい。


「あんたの事をなんて呼ぼうがアタシの勝手でしょう?」

「確かにそうなんだけど、いい加減普通に呼んで欲しい…」

「まぁいいわ、特別に名前で呼んであげるわ。」


 若干面倒臭いという空気を感じた。

 もしかすると、リリアなりのコミュニケーション手段だったのだろうか?

 でも、毎回変な名前で呼ばれるのはちょっと嫌だ。

 ここは我慢してもらおう。


「それにしても、ソーマのそのセンスの欠片もない格好何?名前だけでなく格好でも笑いを取りにきた訳?」


 名前だけとは、パジャ魔王の事だろうか?それは俺が名乗った訳ではないのだけど。

 それに、俺の魔王様ファッションがダサい…だと…!?

 一生懸命考えた末の格好だと言うのに…。


「どこからどう見ても魔王の格好だろう!」

「ないわー…」


 ばっさり切って捨てられた!


「どこの魔王よ?そんなの御伽噺の魔王でもしないわ」

「俺の世界の魔王のイメージは大体こんなもんだ!」

「ソーマの世界はなんだか残念だわね…」


 哀れむような視線を向けるのは辞めて下さい。

 そういえば、こんな服や装飾品はないだろうかとメイドに聞いたとき、なんだか困ったような、可哀想な物を見るような視線だった気がする。


「メイドにも仕事があるんだから、余計な仕事を増やすような事をするんじゃないわよ…」

「いや、ダメなら断られるかと…」

「ソーマは魔王なんだから、不服でも一応従わなきゃいけないの。本当にダメだと思われればダメだと言われるだろうけど、この位の事は逆に断り辛かったのでしょうね」


 それはメイドに悪い事をしてしまった。

 普段が普段だけに権力を持っている事を忘れてしまう。


「そうだ、アタシがコーディネートしてあげるわ!」


 名案だとばかりにリリアの顔が輝く。


「え!?」

「そのダッサイ格好のままウロウロされるのは、兵の志気にかかわるわ」


 そんなにダッサイのだろうか?

 リリアの言う事だから大げさに言ってるだけだと思うけど思いたいけど、実際にそれで兵の志気に影響があるのなら問題だ。

 これ以上下がる評価なんかないけど、マイナスは御免被りたい。

 それならば任せてみようか。


「そういう事ならお手並み拝見だ、俺を存分に着飾るがいい!」


 既に思いついた時点で決定事項なのか、偉そうに宣言する俺を無視して、リリアはさっさとメイドを呼びドレスルームの場所に案内させる。


「さぁ、行くわよ!」

「………はい」


 悲しいかな、もう慣れたものだ。


 立ち上がる時、ジャラジャラと揺れる装飾品が奏でる金属音を下品に感じてしまったのは、きっとダサいと断じられてしまったからだと思いたい。

 俺、これが格好いいと思っていたのか…。

 しっとりと漆黒に濡れるローブはどこか煤けたように見え、黄金の装飾品もまるで真鍮にメッキを重ねた様に見えてしまう。

 物だけで見れば相当な代物で間違いない筈の物が、僅かな会話だけで、そんな風に見えてしまう流されやすい俺であった。


誤字脱字は見つけ次第修正しますので許して下さい!

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