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第四話 食事の時間は猫耳と共に

 リリアが引きずられて連れ去られて行く姿を見送った俺は若干の寂しさを覚えていた。

 基本的に一人で城内をブラブラしているだけが殆どの俺にとって、リリアとの魔法の練習は、久しぶりに長く他人と関わった出来事だったからである。

 非常に一言多くやかましい、よく言えば賑やかなリリアであったが、俺の相手をちゃんとしてくれるのは嬉しかった。

 ルイーナなんて必要な事だけ言って直ぐにいなくなってしまうし。


「いやいや、寂しさがなんだというんだ、折角魔法が使えたんだ」


 感覚を忘れないうちにもう少し練習しようか。

 地道な努力が実を結ぶと俺は信じてそんなに疑わないからな!

 次は同じくさっき失敗したこれを試してみよう。

 以前試した動きはそのままに、指をピンと張り、手を上に向ける。

 そして勢いよく振り下ろしながら確信をもって唱える。


「サンダー!」


 ズバヂィ!と激しい音と光を発生させながら指の軌跡に沿って電撃が発生し、空気を振動させ消えていった。

 確かに電撃が発生して結果だけ見れば成功と言えなくもないのだが、


「違う!コレジャナイ!」


 思い描いたサンダーの魔法は、空高くから雷が落ちてくる類のものであったのだが、実際に発生した魔法は、指の軌跡に沿って電撃の帯を発生させるようなものであった。


「もしかしてサンダーの魔法って思ったよりも難しいのか?」


 ゲームなんかに出てくる雷の魔法は、初期のものでも雷が空から降ってくるが、良く考えると魔力を使い始めたばかりの俺では、まだ空まで魔力を伸ばす事なんてできない。

 イメージ次第だという魔法といえど、能力以上の事が出来ないという事に変わりはなかったのであった。


(魔力の土台がしっかりしているだけに凄く悔しい!)

「これも課題だな~、魔王といえども流石になんでも魔法が使えるようにはならんか~」


 当面の目標が定まった。

 一度に魔力を大量に放出できるように穴を広げるのだ!

 何もわからずに手探り状態だった時に比べれば大きな進歩だと言える。

 これを足がかりに、いるだけ魔王から脱却してやろう。

 魔法を使いすぎると維持機能に支障をきたしてそれはそれで怒られそうだけど。

 ここにリリアがいれば、


「そんなに一度に魔力を消費できないのに何を言っているんですか」


 と煽られそうだけどな!


 ひと段落して気が抜けたのか、ぐぐ~っと腹の虫が鳴り響いた。


「そういえば、もう昼過ぎか…」


 朝食は起きたときには既に用意が済んでおり、自室に運ばれてくるが、昼食は基本的に自分で食べに行くのが最近であった。

 本来なら、昼食も部屋に運ばれてくるはずなのであったが、現状だらだらしているだけの自分の為だけに運ばせるのは一々悪いかなぁと思った為である。

 魔王なのだからそれ位気にせず部屋でお待ち下さいだとか、これがメイドの仕事なのでと言った反対意見が一切なかったのが悲しいと言えば悲しい出来事であったが。

 そういった理由で、昼食は自分で厨房に調達しにいくのが日課になっていた。


「今日の昼飯はなんだろうな~」


 魔王城だからと言って、毎日が豪華な食事と言うわけではない。

 そういった豪華な食事は、来客があった時、戦に勝った時など、特別な、必要があると判断された時だけである。

 基本的に、簡単に手早く腹に溜まるような食事が多かった。

 みんな忙しいからな!俺以外………。

 いつもよりもテンション高めにウキウキと厨房へ入ると、声がかかる。


「そろそろ来る頃だと思ったぜ!」


 そう声をかけてきたのは一人の獣人であった。

 頭にはピョコピョコと猫耳が動き、尻尾も忙しさに合わせてなのかしきりに揺れている姿は本来ならば凄く可愛いのだが…。


「バウルさん、今日のご飯は何ですかな?」


 残念なのは、そのバウルという人物が、筋肉質な男の獣人だという事だろう。

 俺だってガッカリしたさ!普通猫耳っていったら女性が定番だもの…。

 料理の邪魔にならないように髪を短く切りそろえ、男臭い笑みを浮かべているこの残念な猫耳男は、この厨房を取り仕切る料理長であった。


「今日の昼飯はこの前あんちゃんに聞いた肉丼ってやつを作ってみたぜ」


 ここでも俺は魔王様とは呼ばれていないのである。

 畏まられるよりはいいし、既にそっちの方が慣れてるからこちらとしても過ごしやすい。


「おぉ!それは楽しみだ!」


 肉丼、言ってしまえば牛丼なのだが、過去にこちらの世界に俺と同じように連れて来られた人が居てその時に伝わったのか、それとも文化として発展して作られたのか分からないが、醤油と同じ物が既にあったのが嬉しい誤算であった。


 食べられないかもしれないと思っていた元の世界の料理が食べられると言うのは、なんにせよ嬉しい事である。


 肉については食用のモンスターの肉らしいけど、怒られるかもしれないが、正直配下のモンスターと区別が付かないので考えない事にしている。

 例えば、ドラゴンの肉と言われて、配下のドラゴンが頭をよぎっても仕方ないよね!


 彼らが言うには、食用の動物的なモンスターとそうでない物は明確に区別できるらしいが、俺にはまだ分からないのであった。


「それにしても、こいつはいいな。簡単に量が作れて美味いときてやがる!」

「材料もあるんだから、こういう簡単な料理は普通にあると思ってたんだけどなぁ」

「知ってる奴が言うのは簡単だけどな、こういうのは中々思いつかないもんなんだぜ」


 そういうものなんだろうか?

 あの手この手で様々な料理を作り出しているのだから、こういった物は既に作って通り過ぎた後だと思っていたけど、凝るからこそこういう物が思いつかないのだろうか?

 まぁ、俺の拙い説明だけで完成まで漕ぎ着けたバウルさんの腕を素直に褒めておこう。

 俺は食えればそれでいいのだから!


「うん、美味い!」


 熱さもなんのその、匂いだけで辛抱たまらんとばかりに肉丼を口いっぱいに掻き込む。

 そして5分とかからず完食するのであった。


「そんな急いで食わねぇでも誰もとらねぇよ、まだ沢山あるしな」

「久しぶりの故郷の味だった…」

「おう、それだ!あんちゃんの世界の料理ってのをもっと教えてくれねぇか?」


 教えてくれと言われても俺もそんな凝ったものは知らない。

 簡単に作れるようなジャンクフードとか、麺類位である。

 そもそも麺ってこっちにあるのだろうか?


「料理が得意だとかそんなんじゃないから教えろって言われてもなんとなくしか分からないんだけど…」

「それでもいいから教えな!それから俺が形にしてやるぜ」


 それでいいなら、まぁいいか。苦労するのは俺じゃないし…。


「じゃぁ、麺料理を…」

「麺ってのはなんだ?」

「麺ってのは小麦粉を…」

「混ぜて練ればいいのか?」

「それを伸ばして畳んで均等に…」

「なるほど………」


 ………………


 ………


 …


「よし、なんとなくわかったぜ!」


 なんと凄い、俺の拙い説明で一応理解できたらしい。

 説明してて自分でもこれでいいのだろうか?と不安だったのに、これが料理人としての経験か。


「教えておいてなんだけど、あってるか物凄く不安だ…」

「なぁ~に、俺様も料理人よ。そこらへんは腕と経験で調整してそれらしくしてやるさ」


 なんとも心強いお言葉だ。

 尻尾がブンブンとやる気に満ちて揺れている。

 これが女性なら、いや、これで近い内にまた一つ元の世界の料理が食べられそうなのだから多くを望むのは罰当たりというものだ。


「それじゃ、ご馳走様でした!今日も美味かった!」

「おう!またな、あんちゃん!」


 こうして腹を満たした俺は、魔法の練習を再開する為に訓練場に戻るのであった。

 後に、その様子を見ていたメイドに聞いた所、その時の俺はスキップでもしそうな程、妙に満足気であったと言う。


皆さん、体調には気をつけましょう…

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