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第九話 歩き始めた少女の出会いの記憶

 ベッドでただ安静に寝ているだけというのは、体が訛ってしまいそうで怖かった。

 それでも、心配をかけたくないという気持ちと秤にかけて、素直に寝ていようという気持ちの方が重かった。


 二日目位までは。


 一日二日は訓練をしたい、体を動かしたいという気持ちを抑えて安静にしていたけど、いざ体の痛みが取れてくると気持ちに押さえが利かなくなってくる。

 安静と言っても、魔法書を読む事は続けていたけれど、それにも限界はある。

 体が動くようになった今、幾らなんでも一日中寝ている事なんて私には出来ない。

 屁理屈に聞こえるだろうけど、私にとっての安静とは、激しい運動をしない事だ。

 ベッドに横たわりながら、もう少しだけ安静にしていよう、私は怪我をしているんだという明らかに間違った方向に努力していた私は、三日目にもなると気持ちを抑える事を諦めていた。

 お義父さんとはちゃんと治ってからという約束だったけど、もういいよね?


 私は、もうなんの問題もなく体が治っているという事にして、着慣れた訓練用の服に着替える。

 清潔な寝巻きよりも、薄汚れた訓練着の方が着ていて落ち着くと言うのは女性としていかがなものだろうか?

 着替え終わるり、剣を手に取る。

 剣を持ち上げようとすると、若干いつもよりも重く感じた。

 三日でこんなに違ってくるのは正直驚きだったけど、剣を振っている内に元に戻るだろう。

 気持ちを新たに外にでると、お義父さんと鉢合わせた。

 私はなんとなく言い訳しなきゃいけないような気持ちになって言葉を探すが、お義父さんの言葉がそれを遮った。


「そろそろ我慢できなくなる頃だろうと思っていたよ」


 苦笑しながら告げるお義父さんには、私の行動なんてお見通しだったみたいだ。

 私は、恥ずかしがりながら剣を軽く持ち上げて問いかける。


「いいでしょ?体も、もうなんともないし」

「ダメと言っても無駄だろうからね。訓練を再開するのはいいとして、アリシアに紹介したい人がいるんだ」


 誰だろうと考えると、今更ながらお義父さんの後ろに二人いる事に気がついた。

 男性と女性、二人とも知らない人だ。

 男性の方は、見た感じ二十歳程であろうか。

 いかにも魔法使いですよというようなローブを身に纏い、気難しそうな雰囲気を放っている。

 失礼かもしれないけど、女性の方は、男性よりも少し年齢が上に見えた。

 動きやすいように必要な部分だけを守るように分割された金属の鎧と、腰に剣をぶら下げている。

 こっちは剣士だろう。


「アリシアが怪我した時に、今のままだと何れもっと大きな怪我をしてしまうと思ってね。剣術と魔法の先生を探してきたんだ」

「そんな事しなくていいのに…。それにお金が…」

「子供がそんな事心配しなくていいんだよ。アリシアが無事ならそっちの方が大切だからね」


 剣術の方はともかく、魔法に関しては人間の中で使える人が中々少ない事を考えると、払った報酬は中々の額なのだろう。

 それでも、お義父さんは私が大事だと言ってお金を簡単に払ってしまった。

 正直に言うと、私はお義父さんが連れて来た二人を凄く警戒していた。

 他人を信じる事が出来る程私の心は癒えていない。

 それでも、私の為にというお義父さんの行為は嬉しかった。


「ありがとう…」


 お義父さんはいいんだよと頷くと、後ろから声がかかった。


「あ~、そろそろいいかしら?私達の紹介をしたいのだけれど」


 女性の剣士は少し困ったような声で告げてくる。


「いいじゃないか、血の繋がりがあっても仲違いする世の中で、他人同士でここまで思い合えるってのは中々ないと思うけどね?」


 男性の魔法使いの方は、見た目通りの気難しさは感じなかったけど、それでもなんだか面倒そうな気配を感じさせた。

 確かにお義父さんと血の繋がりはないけれど、胸を張って家族だと言う自信がある。

 あまりいい気はしないなぁ…。


「お待たせしてすみません。この二人が今日からアリシアの先生だよ」

「私の名前はローナ・ルーシェ。見ての通りコイツで生計を立ててるわ。冒険者という訳ではないけどね」


 ローナと名乗った女性は、腰に下げた剣を拳で鳴らし軽く頭を下げる。


「次は俺の番だな。俺の名はロス・ラウスという。さっき言った事は謝るから、そう睨まないでくれ、性格なんだ」


 ロスと名乗った男性は、苦笑いしながら頭を下げる。

 顔には出していなかったはずだけど、どうやらばれていたらしい。


「いえ、気にしていませんので」


 気にしていないというのは、半分嘘で半分本当だ。

 私が気になった言葉は、冒険者という言葉に対してだ。

 冒険者というものに、今でもいい印象を持っていない私は、この二人が冒険者だと言うのならどうにか断ろうかと考えていた。

 自称だろうと、そうでないというのならお義父さんに免じて信じてみようと思う。

 強くなりたいし、お金も掛かってるしね。

 調子がいいとか思わないでね?


「見た目でもう分かると思うが、俺は魔法使いだ。どの程度の実力かは分からんがね。まぁ、今のお嬢ちゃん程度なら問題なく教えられるから、そこは心配しなくていい」


 ………若干というか、なんというか、一言余計に言わなければ話せないのだろうか?


「御免なさいね。コイツに悪気はないのよ。まぁ、それが余計にタチが悪いんだけど」

「自分でも分かってるんだがな。こればかりは直らん…」


 自分で言うからには、直そうとした時期があったのかな?

 気にするだけ無駄なようなので、諦めたほうがいいのかもしれないなぁ。

 慣れるまで違う意味で疲れそうだ…。


「アリシアが倒れてから、冒険者ギルドに剣術と魔法の指南の依頼を出しにいこうと思ったんだけどね、アリシアは冒険者の事があまり好きじゃないみたいだからどうしようかと途方に暮れていたら声をかけられてね」


 流石は、父親。隠していたつもりだったけどばれていたようだ。


「私としては無視したかったんだけど、ロスの奴がね~」

「この御仁の様子があまりにもだったのでな。気になった事を残して行くのは面白くない。まさか、こんな面倒に巻き込まれるとは思わなかったが」


 言葉では面倒だと言いながらも、表情を見るにそんなに面倒そうではない気がする。

 なんとなくだけど、このロスという人の事が分かって来たかもしれない。


「私達は冒険者じゃないわよ。少し遠くから旅をしながら武者修行と言ったところね」

「路銀が乏しくなったら今回みたいに個人から依頼を受けて、金が溜まったら次に流れるという暮らしを続けている」

「冒険者ギルドを通さないものだから、私達がギルドから良く思われてないのは確かね」

「一所に長く留まる気もない、別に構わんだろう」

「まぁ、そんな感じよ。報酬について気にしていたみたいだけど、食と住を世話して貰う事も条件に入ってるから、法外な金額という訳じゃないと思うわよ」

「寧ろ安いと思うがね。何しろ、この俺が魔法を教えるのだから」

「私の剣技が安いみたいな言い方は止めてくれる?貴方が魔法を使う前に、首と胴体がさよならする位は出来るわよ?」

「そんな事は知っている、そう怒るな。俺が言いたいのは、値段以上の成果は約束してやろうという事だ」

「そうね、それは保障してあげるわ!」


 流石二人で旅をしていただけという事はある。

 息がぴったりだ。

 旅をしながら武者修行と言っているし、私が知らない技術や魔法も沢山知っているに違いない。

 冒険者ギルドに所属しないで、それの真似事とは中々できる事ではないと思う。

 二人が本当に強いか、考え無しかのどちらかだろう。

 それはこれからの訓練で分かる事だからまだいいんだけど…。


「食と………住………?」


 二人は今日から家に住み込みという事だろうか?


「そうよ~?今日からよろしくねアリシアちゃん。そうね~、最低でもドラゴン位は剣で倒せるように鍛えてあげるわ」

「そうなるな。今日からよろしく頼むぞ。俺が教えるからには、せめて一人で砦を落とせる位の魔法は身につけて貰わないと沽券に関わるな」


 二人で当たり前の事だというように無茶を告げる二人を、私は呆然と見つめるのであった。

 不思議と、嘘には思えないオーラを二人から感じる私は、これからの事を考えて胸が躍ると同時に、既に酷い疲れを感じていたのであった。


誤字脱字、漢字違いますよ~な部分がありましたら、できるだけ早急に直します。

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