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第八話 とある少女の一歩目の記憶

「お義父さん、それじゃ行って来るね」

 あの出来事から10年の時が流れ、私も十八歳になった。

 あの出来事とは、モンスターの襲撃で村が滅んだ事件の事だ。

 表向きはそうなっているけど、真実は私だけが知っている、胸に秘めている。

 今まで一度たりとも私はあの時見た事を誰にも話していない。




 私とおじさんは、ただ二人の村の生き残りと言う事で王都の冒険者ギルドまであの冒険者達と共に動向した。

 村のそれほど大きくない家しか見たことがない私にとって、冒険者ギルドと言う建物の大きさを見た時、これが城なのかと勘違いするほどだった。

 暗がりの奥の景色に、巨大で荘厳な王城が薄っすらと見えていた事を考えると、私はあまりにも周りが見えていなかったのかもしれない。

 今思えば、冒険者ギルドの大きさなんて、そう大した事がない様に思うんだけどね。


 冒険者ギルドに着いて程なくして、ギルドマスターの部屋に通された。

 部屋の中には、鋭い目つきの四十過ぎ程の男性が待っていた。

 彼がギルドマスターなのだろう。

 ギルドマスターは、冒険者におじさんにと視線を巡らせ、私の顔を見た時一瞬視線を止めた。

 この時ギルドマスターは既に私の不自然さに気がついていたのかもしれない。

 過去の出来事だから、今となってはどうでもいい事だけど。

 そこで、村で何が起きたのかという説明はおじさんが全部話した。

 私は始まりから終わりまでずっと気絶していたという事になっているのだからそれも当たり前かな。

 話が続く最中、私は何をする事もなくただ静かにじっと耳を傾けていた。

 これからどうするかという談になり、おじさんは商売の伝もあり王都で道具屋を続けるようであった。

 商売柄、おじさんはどこでも上手く立ち回れる事が出来るのだろう。

 それに比べて、私はどうだっただろうか?

 親も死んでしまい、親戚もいない。

 私の知る世界は、あの小さな村だけだ。

 話の流れから察するに、身寄りのない私はどうやら孤児院に預けられる事になるようだった。

 だけど、実際はそうはならなかった。

 おじさんが手を差し伸べてくれたから。


「アリシアちゃんがよければ、おじさんと一緒に暮らさないか」


 と。


 強くなりたいと決心したとはいえ、正直私は不安で仕方なかったのだと思う。

 どうしようかと考える前に、私は自然と頷いていた。

 こうして私はおじさんの養子になったのだった。


 おじさんと一緒に暮らすようになって、苦労は沢山あった。

 私の苦労じゃなくて、主におじさんの方にね。

 何をするにも私が変に遠慮して、おじさんを困らせる、いや、違うかな。

 おじさんは結婚していない。

 だから、小さな子に対するというよりも、自分の子供にどう接していいか分からないようだった。

 それでも、時間が解決してくれる事もあるという様に、1年も一緒に暮らす頃には自然と「おじさん」ではなく「お義父さん」と呼ぶようになっていた。


 初めて「おじさん」から「お義父さん」に呼び方が変わった時はとても気恥ずかしかった覚えがある。

 それでも、お義父さん呼んだ時のおじさんの顔は忘れられない。

 とても嬉しそうに微笑んで抱きしめてくれた。

 その時、やっと私たちは本当の家族になれたような気がした。

 私は、お義父さんの前でだけは自然な自分でいられた気がした。

 それからはもう遠慮なんかはなかったと思う。


 強くなりたいと思ったあの時の気持ちに嘘はない。

 それ以外の気持ちにも。

 だから、私は強くなるための手段をお義父さんに求めた。

 それは私が九歳の時、あの事件から一年後の事。

 最初は剣を振るう為に木剣と魔法についての本を買って貰った。

 お義父さんに私が木剣と本が欲しいとお願いすると、本当にこれが欲しいのかと聞かれた。

 何があっても守れるだけの力を付けたいと言うと、少し悲しい表情をしながらも認めてくれた。

 お義父さんにしてみれば、平穏に暮らして欲しいと言うのが願いだったのかもしれない。

 でも、私が言う事にもお義父さんなりに何か思う事があったのか、納得してくれた。


 九歳というのは、体を鍛えるにしては遅いだろうと思われるかもしれない。

 けれど、森育ちの私にとっては、毎日の森での採取や遊びそれ自体が訓練のようなものだったから、体を動かす事に苦労はしなかった。

 毎日限界まで剣を振り、休憩時間に魔法についての本を読む。

 体が成長するのに合わせて木剣に重りを足していき、二年も経つ頃には鉄の剣を振るうようになっていた。

 魔法についても、私には素質があったようで、軽い傷を治したり、小さな火種を起こしたりという簡単な魔法なら使えるようになっていた。

 これにはお義父さんも凄く驚いていた。

 魔法を使える人間と言うものは意外と少ないと聞かされたから。

 本によると、人間は魔力に好かれにくいと言うような事が書かれていたけど、正直良く分からない。

 私にとっては使えればそれでいい。

 素質があるというのなら、伸ばせるだけ伸ばすだけだ。


 毎日、肉体的にも精神的にも限界まで磨り減らして、夜は死んだように眠りにつく。

 剣にも魔法にも教師と言える人はいない。

 ただ、頭の中で思い描く相手は決まっていた。

 あの時のモンスター、いや、冒険者だ。

 どうすれば自分の剣が届くのか、致命傷を与える事が出来るのか、命まで届くのか。

 それだけを思い描いて剣を振るい、切っ先は鋭さを増していった。

 魔法の扱いも日の経過とともに上達していった。

 色々試してなんとなく、私は炎の魔法が得意なのだろうという感覚があった。

 息を殺し、見付からないように隠れていたあの時に零れていた松明の赤い光が心に焼き付いてるからか、 村での事を強く思い起こさせる火の魔法に適正があるというのはなんという皮肉だろうか。

 小さな火種ではなく、ファイアーボールとでも言うべき殺傷能力があるほどの火球を発生させた時、案の定、村が滅んだ時の光景が頭をよぎり真っ白になった。

 制御を失ったファイアーボールはそのまま地面に落下して衝撃と熱を撒き散らした。

 私は身構える事も受身を取る事もできずに、吹き飛ばされて意識を失うのであった。


 目を開けると、私は自室のベッドに寝かされているようだった。

 起きようと体を動かそうとすると鈍い痛みを感じた。

 私の呻く声が聞こえたからという訳ではないだろうけど、タイミングよくお義父さんが部屋に入ってくる。

 凄く心配そうな表情で大丈夫かと言った後に、一体何があったのか聞いてくる。

 私は素直に答えた。

 何時もと同じように魔法の練習をしていた事。

 色々と試している内に、どうやら自分の魔法適正が火の魔法であるようだという事。

 ファイアーボールの魔法を使おうとしたら頭が真っ白になって気絶した事。

 小さな火種を作った時はなんともなかった事は、その時一緒にいたお義父さんは知っている。

 お父義さんは、静かに頷きながら私の話しを聞いていた。

 話を聞き終えたお父義さんは、私が気絶した原因についてゆっくりと話し始めた。

 私が魔法の練習を始めたときから、お義父さんなりに魔法について調べていたらしい。

 誤算は、私の魔法の上達速度が思ったよりも速かった事みたい。

 それと、普段普通にしている私がトラウマを持っている事も気がついてやれなかったと謝られた。

 そりゃそうよね、お父義さんは私が一部始終を見ていた事を知らないのだから。

 寝て起きたら村がなくなっていた、それでも心に傷が出来るには十分な話だけど、火が苦手だという事には結びつかない。

 私はお父義さんにこう告げる。


「私も知らなかったんだから気にしないで」


 隠すためとはいえ、こんなありきたりな言葉でお父義さんを騙すのは心が痛んだけど、これ以上いらない心配をかけたくない。

 お父義さんは、そうかと少し悲しそうに呟いて話を続ける。

 魔法を使う時は、規模が大きくなる程、込めた力が大きくなる程、この魔法は存在する、自分には出来るというイメージが大切だという話だった。

 本に書いてあったから、勿論私もそれは知っている。

 問題は、強くイメージする余り、無意識にトラウマだったりを刺激してしまう事があるらしいという話だった。

 私の場合が正にそれで、攻撃に使えるだけの火の魔法を発動させようとすると今回のように気絶してしまう可能性が高いという話だった。

 私は、それでも魔法を使う事を辞めたくないと言った。

 力が欲しい私にとって、リスクがあろうとも切り捨てる訳にはいかない。

 ましてやそれが自分に適正があるものなら尚更だ。

 てっきり私は、お義父さんに火の魔法を使うのを辞めなさいと言われるのかと思った。

 でも、お義父さんは辞めろと言わなかった。

 気の済むまで続けなさい、と。

 厳しく反発されるのかと覚悟していた私は、正直拍子抜けした。

 ただ一言だけ、体がちゃんと治ってからにしなさいとだけ釘を刺された。

 お義父さんの考える事が分からなくて、私はただ頷くしかなかった。


更新間隔が空いた割りにテキスト量が少ないという声が聞こえてきそうな恐怖…

誤字脱字は見つけ次第修正します。

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