幕間二 妖精はマイペースを貫く
ここはオルディニウムにある会議室の内の一つ。
様々な種族が参加するという事を念頭に置いてそれなりに広く作られている。
アタシは、皆よりも一段高い上座から、部屋の中を見回す。
今この部屋には十人程が集まっている。
それぞれ、地域毎にそれなりの影響力を持つ役割を持った者達だ。
一目では人間と見分けが付かないような者や、リザードマン、ウェアウルフ、何れもアタシに比べれば屈強な戦士に見えるだろう。
何しろ、この中でアタシは一番小さい。
種族も少し変わってるけど、フェアリーだからそれも仕方ないのだけれど、何も知らない人が見れば思いもしないはずだ。
アタシがこの中で一番偉いという事に。権力があるという事に。力もまぁそれなりかな。
今日は、兵の配置についての会議をしていた。
会議と言うよりは、定期的に行われている報告会に近いかな?
魔法を使って会話する事も不可能ではないけど、魔法が得意な種族ばかりじゃないし、直接あって話した方が情報の行き違いなんかもないしね。
そもそもの話、人間とアタシ達は敵対関係ではあるが、意外かもしれないけれど人間達を滅ぼしてしまえばいいという者達はアタシ達の中には殆どいない。
人間達は、アタシ達を全部一括りにしてモンスターと呼んでいるようだけど、迷惑な話よね。
人間に人種があるように、アタシ達にもそれぞれ種族もあれば誇りもある。
人間達は冒険者ギルドなんて組織を作って、効率よく報酬と言う餌で人数を募りアタシ達を殺しにかかってくる。
より強いモンスターを倒して貢献すればランクを上げてやろうというシステムまであるようだ。
生きている以上、他人よりも上にいたいという心理を上手く付いたシステムだと思うわよ。
自分よりも下がいるっていうのは、それだけで安心感みたいなのが生まれるからね。
下に誰がどれだけ居ようと、本人が変わらないのだから本質的には意味が無いでしょうに。
話が少し逸れてしまったわね。
それでもアタシ達は、人間を滅ぼしてしまえ!とか、そんな風には思わない辺り、人間よりも余程全うな、平和的な生き物だと思う。
見た目の問題じゃないわよ?それこそドラゴンとかヴァンパイアとか、およそ意思疎通なんて出来ないような見た目の種族なんて奴らもいるけど、話せばちゃんと聞いてくれるんだから。
まぁ、アタシ達全員がそんな考えって訳じゃないけど、このオルディオンの皆は大体そういう奴らが集まってる。
魔王様があんなのだから自然と集まった、というよりも、魔王様の性格故に集められたって言うほうが正しいのかな?
何しろ、基本的に毎日暇を持て余しすぎてるからね。
暇つぶしの種を自分から摘み取るような事はするはずがないわ。
迷い込んだとか、そういう理由ならば適当に脅して見逃すに留めるけど、流石にこの大陸まで武力で持って攻めてくるような連中にまで優しくする気はない。
そういう訳で、アタシは今どの位の強さ、どんな見た目の兵をどこに配置するかを改めて決めている最中であった。
基本的に人が上陸する確率の高い場所に強い種族を配置するのが色々と都合がいいんだけど、人間達の冒険者というものは難儀なものでそんな訳にはいかない。
冒険者というものは、より強いモンスターを倒せばより高い報酬が貰えるそうだ。
だから、逆に冒険者を呼ぶことになってしまうかもしれない。
アタシ達の角や牙、骨、羽、更には目玉や内臓なんかの部位は、魔法的な素材、武器や防具に加工すれば高い能力を発揮する事は勿論知っている。
魔力を持つ者に多く見られる特徴ね。
特に、ドラゴンなんかはそういう対象として有名なのかしら?
ドラゴンスレイヤーなんて呼ばれてる冒険者もいるらしいしね。
冒険者達はそういうものも求めてアタシ達を狩りにくる。
まったく、面倒臭いわよね。
あ、アタシ達は自然と抜けた物とか親の形見として部位を貰ってそれを加工して使ったりしてるから、同士討ちなんて愚かな事してないわよ?
馬の合わない部族同士で争いが起きるなんてのもあるけど、それは別の話としてね。
話を戻すけど、強い者が駄目ならそうではない者、力の弱い者を配置するとしたら?
答えはそれも駄目ね。
強い冒険者のみならず、そうでない冒険者も沢山来てしまう。
仕事が無駄に増えるだけだわ。
それに、人間の世界にはモンスター同士を戦わせて見世物にする施設があると聞いた事がある。
奴隷として連れて行かれて使い潰されて死ぬなんて、普通なら許せないわよね?
結果は………言わなくても理解してくれると有り難いわね。
こんな感じに、アタシの仕事は兵の配置を適切に考える事なの。
最近人間達になんだか動きがあるみたいだし、まったく面倒を増やさないでほしいわよ。
「あら?」
部屋の入り口から通りすぎるルイーナの姿が見えた。
それは、いつもの凛とした姿ではなく、どこか疲れたような雰囲気に包まれていた。
「今度は魔王様に何を言われたのかしらね?」
アタシは魔王様関係の面倒事を全てという訳ではないけどルイーナに任せている。
嫌いだからとかそういう理由じゃないわよ?
寧ろ、アタシと魔王様は気が合う方じゃないかしらね?
「まぁ、近い内に分かるでしょう。ルイーナは…お疲れ様ね」
問題が起きたとしても処理するのはルイーナだし、アタシは起きた事を楽しむ事にしましょうかね。
近い内に何かが起きる、というか起きてしまうだろう。
楽しみが出来たのは良かったわ。
何か確実にやらかすだろう予感を覚えながら、アタシは会議に意識を切り替えるのであった。
夜の闇が深くなった頃、月が天に昇り星が煌き、そして静かな時間だけが流れる。
アタシはこの時間が好きだった。
以外かしら?騒がしいのも勿論好きだけどね。
メリハリは大事よ。何事もね。
自室の天蓋付きのベッドに横たわり足を投げ出す。
はしたない格好だって分かってるけど、楽なんだからいいじゃない。
誰が見ている訳でもないし、アタシしか部屋にいないのだから。
窓から差し込む月明かりに身を委ねるのはとても気持ちよかった。
魔法で小さな明かりを生み出し、本でも読もうかしらと半身を起こした時に魔力を感じた。
それは良く知る魔王様の魔力であったけど、規模が常時では考えられない程大きなものだった。
普通ならそんな魔力を感じたならば、身なりなんて気にしないで飛んでいくのだけど、
「………なんだかわざとらしいわね」
魔力がどうにも見つけてください、ここに集まってと言っている様な、無駄に大きなものに思えて仕方なかった。
「そういえば…」
会議中に見かけたルイーナの姿を思い出す。
「あぁ、多分あれと関係あるわね」
魔王様が何かやらかしたのは明らかだし。
今頃、ルイーナは兵を伴い現場に状況確認に行っているでしょう。
昼間のあれで、その日の内に実行とは魔王様の行動力には驚くばかりだわ。
まぁ、ありえないと全く言えないというのも困りものだけど。
「どうしましょうかね?」
今直ぐに向かう事を考えたが、現場に行っても面倒に巻き込まれるだけだ。
何かしろと言われても正直動きたくない。
本当の緊急事態ならともかく、自信を持って言える。
これは絶対に違うと。
「どうせ朝になれば分かる事だしね…」
楽しみは明日に取っておく事にしよう。
野次馬根性を発揮して睡眠時間を減らすような事はしたくない。
睡眠不足は乙女の敵だ。
魔力で付けていた明かりは無意識に消していたらしい。
体はもう寝る事を決定しているようだし、本を読む事はやめて素直に寝よう。
「面白い事ならいいんだけど、あの魔王様だし期待できるかしらね…」
何かが変わるだろうかという少しの期待と不安を抱えたままアタシは眠りにつくのであった。
またなんです…
タイミングを先延ばしにすると変なタイミングに挟む事になりそうでしたので…