プロローグ ~はじまりなんてこんなもの~
魔王という存在について考えた事があるだろうか?
ゲームや漫画、アニメでは魔王という存在はすべからく悪として描かれる事が殆どだ。
まず、字面が悪そうだ。魔で王なのだから。
次に目標だ。世界征服!うん、これも素晴らしく悪そうな響きだ。
征服してどうしようかなんて先の事を考えちゃいけないぜ!
目的と目標がごっちゃになってるのも特徴の一つだろうからな。
そして、良い魔王なんてものは、物語を進める上で邪魔な事この上ない。
なぜならば、最大目標がなくなってしまうからである。
「さぁ勇者よ!魔王を倒す旅に出るのだ!」
こんなシーンも成り立たないし、
「親を魔王軍に殺されたんだ…復讐してやる…!」
きっとこういう事も多分ない。
悪である事を宿命付けられた、そんな役割が魔王の一般認識であってるはず。
玉座に踏ん反り返って部下の報告を聞き、失敗の報告を聞いたら、
「役立たずめ、死ね」
なんて魔法でも使って部下を処刑するのかもしれない。
今の世の中の魔王事情は大分変わってきているみたいだけど、基本的にはこんな感じだろう。
でも、そんな魔王になってみたいと思う一人の青年がいた。
なんでそんな事考えたかと言えば、なんの事はない。
ただ捻くれていただけである。
中二病を発症して、完治していないともいう。
某ロールプレイングゲームが出る度に、
「なんで主人公が勇者なんだ!」
と毎回の様に文句を言っては友人に、
「いや、そういうゲームじゃないから」
と窘められる。
正直買わなければいいのにと思うが、ゲーム自体は好きなのだから仕方ない。
そう、仕方ないのだ。
「なんか、魔王が主人公の面白いのないんかねぇ…」
いつものようにぼやいて寝床に入る。
これが彼が毎日ではないけれど、比較的多い日々の一日の終わりであった。
部屋の明かりを消して眠りに付く時、
「なら、キミがなってみるかい?」
そんな声が聞こえた気がしたけど、夢だと思う事にした。
なんだか周りが騒がしい。
というか凄くうるさい。
目覚ましは、セットしたはずだけど、こんな音は絶対しない。
物凄く目を空けたくなかった。
二度寝しようと意識を手放そうとするが、体を揺さぶられて失敗する。
「魔王様、目が覚めているのは分かっていますよ、起きて下さい」
魔王様?誰が?
観念して目を開けると、目の前には、非常に美しい女性が俺の顔を覗き込んでいた。
身長は160cm位だろうか。銀髪のロングヘアーに紫色の瞳、褐色の肌、そして、長く尖った耳。
一般的なダークエルフのイメージそのままの姿であった。
若干身長が低い気がするけど…
「え?あぁ!?」
なんだろうか、この状況は?
目の前には、一生お目にかかる事が出来ないような綺麗な女性。
その後ろには、多種多様な種族が跪いている。
身の丈3メートルを越えるような巨人もいれば、ドラゴンもいる。
小さな妖精や、スライム、そしてなんの種族か分からないようなものも。
そして、部屋のベッドで眠りについたはずの俺は、どうやら玉座に座っているようだった。
パジャマ姿で…。
「魔王様、おはようございます」
魔王様って俺の事か?
「おはよう?」
とりあえず返事を返す。礼儀は大事だよね。
(落ち着け俺、先ずは状況確認だ)
確かに自分の部屋で寝たはずだけど、何で玉座に座ってるんだ…?
(いやいや、そうじゃない)
そこはどうでもいい。大事なのはそこじゃないぞ俺。
「つか、ここ、どこ?」
しまった、若干片言になってしまった。
そんな事気にしませんよとばかりに、こんな事を言われる。
信じないわけには行かないんだろうなぁ…
「ここは、オルディリアという世界にある魔都オルディオン、貴方は魔王として、この世界に召喚されました」
どうやらそういう事だった。
新しく勢い重視のものを書いてみました