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満月の夜

作者: =Moto*

  満月の夜


 ジリジリとアラームの音が騒々しく鳴り、嫌々に目を開け、窓から差し込む月の光を見て、まだ夜かと目を閉じる。これが今日の始まり。

 スー。朝起きて一番にすることは、呼吸だ。こういう言い方をすると変に聞こえるかもしれないが、深呼吸のようなものだ。意識をしながらの呼吸は、目覚めの朝に一番効く。

 段々と意識が明確になってくるのを感じながら、アラームを止め、枕の側にあった充電器に繋がれたままの携帯電話で現在の時刻を確認する。

 「現在の時刻、午前5時4分」

 寝よう。咄嗟にそんな考えが頭に浮かぶ。大体、なぜ起きなきゃならんのか。アラームをかけたのは一体誰なのだ。きっと自分自身なのだろうとは感じつつも、眠気のあまりに思考が停止する。


 はて、何で早起きしているんだろう。

 

 暑い。太陽の光はいつにも増して眩しく、思わず目を細める。気がつけば、朝が来ているではないか。それともなんだろう、あれは夢だったのだろうか。なんてことを考えながら、眠気覚しの呼吸。スー。

 あ。思い出した。そういえば、今日は日の出を見ようと思っていたんだったっけか。寝過ごしてしまったか、と思って目を開けてみると、目の前には懐中電灯の豆電球が黄色く光っていた。

 「おはよう」

 懐中電灯の持ち主が声をかける。光が眩しくて、誰だかよく見えない。子ども特有の、幼い声。なんでだろう、喉がカラカラとして声が出ない。よく見ると、手足には手錠がされていて、ベッドに貼り付けられている。とりあえず目を閉じてから、考える。

 この状況はなんだろう。原因は目の前にいるこの懐中電灯なことはなんとなくわかるが、動機が分からない。そもそもどうやって部屋の中に侵入し、僕に気付かれずに手錠をかけたのだろう。

 「なあ、懐中電灯。不法侵入だ、直ちにこの家から出てけ」

 無反応。うう、振り絞って出した声もこの有様だ。交渉の余地なしということなのだろう。とりあえず、状況を整理してみようと思う。


 今朝、目が覚めたのは5時4分。その頃にはまだ誰もいなかったように思う。まだ太陽は昇っていない。昨日のテレビでは確か、今朝の日の出時刻は6時前と言っていた気がする。ということは、約1時間の間に侵入されたということだろう。喉がカラカラとするのは、エアコンの電源がついているところを見ると、ドライに設定されているからだと思う。

 ドライの設定にして喉を封じたのは、叫び声を出させないためだろう。そして、手錠も同じく、妙な行動を取らせないためと考えるのが妥当だ。声からすると犯人は子ども。でも手錠を手にいれる難易と、鍵をこじ開ける難易を考えると、犯人は一人ではないのかもしれない。今ごろ、仲間が別室を物色している最中なのだろうか。それなら構わない。決してお高い代物があるわけでもないのだから。

 平然としている僕の態度を見てからか、懐中電灯は舌打ちをした。犯人が苛立ちを見せると失敗に終わるという、僕の説があるのだけれど、この一件はどうなることやら。なんて考えていると、あることに気がついた。なんのために懐中電灯を当て、目が覚めるようなことをしたのだろうか。この答えに辿りついたとき、思わず僕は笑ってしまった。


 これは夢なのだと。


 「起きなよ、兄ちゃん」

 やっぱり。妹の声で目が覚める。とりあえずは目覚めの呼吸。スー。大きめに吸ったその息を吐かずして目を開く。窓には太陽の姿はない。

 「やっと起きた。おはよう。ずっと寝ぼけてたから、もう少しで置いていくところだった。家族で日の出を見に行こうって誘ったの兄ちゃんでしょ。しっかりしなよ、もう」

 夢だったのか。通りで落ち着き具合が半端じゃなかった。なんてことを思い出しながら、妹に返事をする。

 「なあ、懐中電灯。不法侵入だ、直ちにこの家から出てけ」

 間違わないでほしいが、僕には妹などいない。

 

 ジリジリとアラームの音が騒々しく鳴り、嫌々に目を開け、窓から差し込む月の光を見て、まだ夜かと目を閉じる。これが今日の始まり。

 これもまた、夢の続きなのだろうと、僕は悟った。


  満月の夜 終

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