序章 卒業。そして始まり。
まだ寒さの残る春、私は中学を卒業した。
卒業式が終わり、生徒はそれぞれの教室へ戻る。泣いたり笑ったり、皆三年間の思い出を語る。最後に写真を撮ったり、少し早い同窓会の話をしたり、笑顔でクラスでの最後の時間を過ごすのだ。
中にはその輪に入れない人もいる。私、高橋利奈もその一人。友達と呼べるような人はいても、所詮ずっと一緒にいてくれるということはない。卒業式もいつもと同じように私は寝たふりをする。
「写真撮ろー?」
たまに声をかけてくれる人もいて、少しホッとする。こんな私でも一応はクラスにいるのだ、と。
何回か撮った後は、適当に話をする。卒業後も会おうねなど、嘘偽りの友達宣言。こういう奴ほど一回も会わないのだ。この言葉を言われて、会った人は少数だ。それでも少しだけ嬉しいのは私自身の性格に関係がある。
私はコミュ障なのだ。だが、人見知りではない。話題を見つけられない。ようするに、会話が続かない。そして同時に人恋しいのだ。一人は寂しい、誰かと一緒にいたい。でも、性格が邪魔をして、友達を作れない。
相手が話題をたくさん持っている人なら、私は友達になれると思うし、会話も続く。相槌だけには自信がある、気がする。まぁ、こんな暗い女には、ほぼ誰も話しかけては来ないが。
黒髪ストレートロング、前髪は長めで横に流している。少し茶色が入った黒眼、典型的な日本人だ。太っているわけでもないし、痩せているわけでもない。身長は160cm。どこにでもいそうな15歳。顔は下の中くらいだったらいいな。目の下には少しクマが出来ている。このクマは十分に寝ても消えない。これが暗く見える原因なのだろうか。
だが私はこれから変わるのだ。高校デビューをする。そして目指せ友達100人。後、できれば彼氏も。
高校では私を知る人は誰もいない。リア充という仮面を被り、いざ夢の高校へ。
と思ったのだが、やはり私には運がないらしい。高校入学式、天気は雨だった。それも上から叩きつけるような豪雨だった。
高校には自転車で30分かけて行こうと思っていたのだが、今日は雨という滑りやすい日なので、電車で行くことにした。家から駅まで5分、駅から駅まで10分、駅から学校まで10分。学校の近くにバスがないらしく、徒歩で行くしかない。雨風の中、歩いて向かう。前からの風が物凄く、前に進めない。次第に傘が寿命を迎えて、ボキッと音を立てて壊れた。
ため息をつく暇もなく押し寄せる風に、とりあえずコンビニに入ることにした。時間は余裕を持ってきたので、結構ある。コンビニの透明のお高い傘を買い、一息ついてから外へでる。
雨で濡れ重くなり、足に引っ付くスカートをぎゅっと片手で絞り、先を見る。目当ての高校までは後少しというところだろう。他の生徒もちらほらいるらしく、かなり時間を使ってしまったらしい。
少し濡れてしまったが、少しの間だけ。と自分に言い聞かせ、入学式のみの為に学校に向かう。
「くしゅんっ」
風邪でも引いてしまったか。最悪だ。
少し熱っぼい額に手を当てて、ため息をつく。そして俯きながら小声で言った。
「なんてついてない日なんだ」
まだほんの始まりでしかない高校生活に少しだけ嫌気がさした気がした。だが、私はまだ諦めない。悪い事があった後は、良い事もあるはず。人生平等になってるはずだ。
もうすぐそこには、高校の門がある。少々古びて錆びた、どこにでもあるような学校の門。ここから私の生活は始まる。
天国か、地獄か。
私はどちらへ転ぶだろう。どちらでも、楽しければいいか、と思いながら、天国を目指すと息巻いていたのは私だけの内緒だ。
私は今から始まるであろう事を思い浮かべて笑顔で、足を踏み入れた。