思いやり
血の滲むような特訓を越え、ラッシュは確かな力を手に入れた。そして、ルチルを守ると口にする。そして……。
「アイバノは戻ってきてないから……ん、これで全員だね。で? ラッシュ、話ってのは?」
夜、アージュファミアギルド館。ギルド員全てが一階に集められ、全員が席に着いていた。ラッシュ一人が全員の視線を集め、立っている。そんなラッシュを、ヴァネッサは優しい瞳で眺めている。
他のギルド員も、ラッシュの放つ雰囲気に緊張こそしているが、悪い事では無いのだろうと気持ち緩い表情をしている。
「俺は、リーバーへやってきて、そしてこのギルド、アージュファミアへやってきて、多くの物を貰った。本当に多くの物を。特訓の件もそうなんだが、それだけじゃなくて……生きる活力というか、とても大事な、温かい物を貰った気がする。それはなんていうか……俺が貰った訳じゃないのかも知れない。ただのお裾分けだったのかも知れない。皆がお互いに思いやっているのを見て、こんな関係があるのかと、羨ましく思ったんだ。……俺も、その輪の中に入りたいと思ったんだ」
頭を深く下げ、ラッシュは一際大きく「頼む!」と発する。
「俺も、アージュファミアに加えてもらえないだろうか?」
「あんたね……その程度の頼みで家族に頭を下げるもんじゃないよ」
「一生懸命だし、真面目だし、面白いし、大歓迎だよ」
「優しいところもありますよ~。荷物を持ってもらった事もあります~」
「あの特訓に耐えられる者は尊敬に値するでござる」
「壁してもらう約束しましたしね。ラッシュさん、お願いしますよ?」
「私の後輩さんですね! 一緒に頑張りましょうね、ラッシュさん」
ラッシュがゆっくりと顔を上げると、皆、それぞれが笑みを浮かべていた。
「ラッシュ! ラッシュ!」
「おう!」
「ラッシュ~♪」
そして、飛び付くルチルをラッシュが抱き上げた。
序
「悪いね」
「……何がだ?」
「手を出した事さ」
「……助かった。あのままなら死んでた」
「ルチルは、あいつは、あの狼相手でも勝てるんだろ?」
「……そうだね」
「…………鍛えて、くれないか」
ラッシュの決意
「驚いたでござる。あのメニューをこれほどの短期間でこなすとは、並みの精神力では無いでござる」
「大したもんだよ。もう今のあんたなら、サバンナウルフにも引けは取らないだろうさ」
「…………今の俺なら、敵を後ろへやらずに戦えるだろうか?」
「そりゃ、難しいね。後ろに居る奴が前に来ないとも限らないだろう?」
「後ろに居る戦士が前に出る必要が無ければ良いのでござろう? そうでござるな、ならば訓練はこのまま続け、仮想敵に圧勝できるようになれば良いでござる」
「仮想的?」
「拙者がその役をやるでござる。仮想敵は、そうでござるな……ルチル殿が適任でござろう。ルチル殿は中衛でござる。彼女が前に出ない程の強さなら、後衛が前に出てくる事は無いでござる」
「……手伝ってくれるのか?」
「訓練は別の形で手伝うでござる。仮想敵との戦いは一番最後にするでござる。情報を得ていない状態で圧勝できなければ意味が無いでござろう?」
「……相変わらず半蔵は器用さね」
「器用に立ちまわるのが忍者でござる」
プライド1
「ラッシュ! あんたの村の名前ってなんだっけ?」
「突然どうした?」
「明後日にはアルバートの休暇が終わるからね、そろそろ試験をするんだ。それでちょっと知っておきたくてね」
「そうか。エジャプタロビンゴ、だ」
「エジャプタロビンゴ、だね?」
「ああ。しかしなんでまた……」
「ラッシュー! エリコが魔法ですっごい虹出したにゃ!」
「ほら、行っといで」
「あ、ああ」
プライド2
「ありゃー、お互いに意識してるんじゃないかね」
「分かったよ。つまり、ラッシュはルチルに負けちゃうのが嫌って事か」
「ん? ん~、まぁ、そうだね」
「僕に言うと口にしちゃうからまずいって事?」
「そうそう。恋愛事ってのは複雑なのさ」
「あははは、分からないけど分かるよ」
守りたい、この笑顔
(生暖かい……まさかちびるとは……)
「ルチル」
「うにゃ?」
「分かってるよ。変え持ってきたから、それ脱ぎな」
「うにゃにゃ?」
「……恥ずかしいのは分かるけど、しょうがない事だから」
「……ラ、ラッシュが悪いにゃ」
「そうだね。こっそり洗っとくから安心しな」
「う、うにゃ……」
後半は相当な駆け足でしたが、予定通り進められました。
今回、表面に見えない形で色々動いているというのを表に出したくて、地味に頑張ってました。その効果が感じられるかは疑問ですが……orz
個人的なMVPは半蔵です。
本日、個人的に期待していた生活型MMORPGのアーキエイジが無料化したので、今後の執筆が鈍くなる可能性が高いです。ここまで応援してくださった皆様には感謝の念が絶えないのと同時に、申し訳なく思っております。アーキエイジで遊びながら次の話を考えておきますので、気長にお待ちください。ちなみに次の話こそは、血とか出ない、ほのぼのな内容にするつもりです。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。




