何回目かの仏の顔のような
澄んだ空気が朝焼けの光を町に呼び込み、夜の闇を払う。それに呼応して夜の住人は闇に、影に帰っていく。俺はそんな様子を見ながら、家の近くを飛んでいた。俺が朝帰りの理由は単純である。叔父を追いかけていたからである。あのあと、つまり窓から飛び出したあと、とんでもない早さで叔父は逃げ出した。俺は逃げられそうになったけど、異能を使ってなんとかあとを追いかけていた。しかしまさか叔父が日本の領域から出るとは思わなかった。そして結局地球を何周か探したが、叔父さんは見つからなかった。というより、昔から鬼ごっことかかくれんぼで叔父さんを見つけたことなんてなかった。昔はよくみんなでやってたな。そんときはまだ叔父さんあんなじゃ……………思い出しただけでイライラしてきた。
色々考えてるうちに、家の近くに来ていた。俺は家の前に降りる。ケータイをジャージの上着から取りだし、時間を確認する。ちなみにガラケーです。
「んっ、おーっす氷、久しぶり」
「あっ、おはようです」
知り合いの新聞屋さんが、三輪車を押しながらやって来た 。
「こんな時間にどおした、ラジオ体操かぁ?」
「違いますよ、まだ寝てないだけです。ちょっと叔父さん追いかけてて」
新聞を渡される。
「またか 、あっ、これやるよ。今日はどうだったんだ?」
瓶の牛乳をもらった。体力が20回復した。
「ありがとうございます。えっと新記録ですよ、何周もしちゃって。完璧に隠れられました。」
「それはお疲れ。あんまり異能使いすぎてバテるなよ 、学校あんだろ」
この人は優しいなぁ。
「優しいっすね、普通周りにばれないかとかじゃないんすか?」
ぼんっ、新聞屋の兄さんは顔を真っ赤にし、煙が上がっていた。
「べっ別にお前の心配した訳じゃねぇぞ、おっ、お前がバテて学校でバレて、学校のやつらに迷惑かかんないか心配しただけだかんな、勘違いすんなよ」
弁当作るまでまだ時間あるしちょっとからかうか。
「そうですよねー、俺のことより学校の先生のことの方が心配ですよねー」
「べっ別にお前が心配じゃないわけじゃ…………ってなんでここで寧が出てくんだよっ!」
この人本当にからかいがいがありすぎるっ。
「別に先生って言っただけで寧さんなんて一言もいってないですよー」
落ち着いてきた顔の色がまた真っ赤になった。楽しいなぁ。
「べっ別に寧のことなんて好きでもなんでもないんだかんなっ!最近会えないからちょっと気になってるだけだっ…………そっそれでもそんなに気になってるわけじゃ…………」
ツンデレ乙。
「あっ先生」
「……っ!別にお前のことが嫌いって言ってるわけじゃ………っていねぇじゃねぇかっ」
バレた。
「にっ、にこにこしながら牛乳のんでこっち見んじゃねぇよ。はっ恥ずかしいだろ…………」
最後小声でよく聞こえなかったな。イヤーそれにしてもこの人本当に俺より年上かなぁ?実は小学生って言っても違和感無いぞ。
「いや、つい楽しくて」
「先輩で遊ぶなっ!」
しょうがない。話を変えよう。
「あれ、今いくつでしたっけ?」
「今年で19じゃぁぁぁぁぁぁいつもいつも年齢確認すんじゃねぇぇぇぇぇぇよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
確かこの人今年でうちの高校卒業したんだっけ。
「いいですか、今が一番大切な時期なんです」
真面目な話なら。
「どうしたっ、急に?まぁそうだよな、高校入ってすぐだし、最初は大事だよな」
「そうです。だからしっかりしないと、このままだと来年の中学受験ヤバいですよ」
「俺は小学生じゃねぇって何回いやぁいいんだよぉ」
あれっ、見た目は……。
「失礼、小学受験でしたっけ?」
「お前には俺がそんなに小さく見えるかぁ」
誰にでもそう見えるけどなぁ。
「さーせん、さーせん」
「お前謝る気ないだろ」
なぜバレたっ!
「ほら、飴ちゃんあげるから」
「わーい、っていらねぇよっ」
いらないのかぁ、じゃあこっちなら……。
「しょうがないなぁ、ほら、きれいなものあげるから」
「きれいなものってなんだ?ビー玉とか言ったら…………」
「違いますよ。どうぞ」
「ほんとだ綺麗……っててさっき俺がやった牛乳の瓶じゃねぇかっ。しかも中身ねぇしっ」
何が不服なんだ?
「美味しかったですよ?」
「別に感想求めてるわけじゃないんだけどっ」
しょうがないなぁ……てかもうネタねぇよ。
「ありがとうございます」
「どうしたっ、急に」
「色々スッキリしました」
「まぁお前が満足したならいいや 」
この人は優しすぎる。見た目どおりすぎるほど素直な心で、俺はいたたまれなくなる。
「そろそろ弁当作るんで、また」
俺は挨拶して、そのまま家に入ろうとする。
「あのさぁ、たまにわ俺らも頼れよ。昔はどうとかあまり気にしてないしさ、逆に恩返ししたいくらいだから」
昔を気にしてないっていったそばから恩返しって 。
「それに、あの時は役に立てなかったけど、今なら役に立てる自信あるしさ」
昔も今も役に立ってないことなんてない。今はこうして話をしてるだけでも楽しいし、楽になる。それに昔はきちんと背中押してもらった。
「そんなことないですよ」
俺は振り返り、笑顔でかえす。
「大丈夫ですよ、今のところ。なんかあったら便りにしてしてますね、白狼さん」
「へへっ、そう呼ばれるのも久しぶりだな 」
白狼さんは鼻をこすり笑顔になる。つい頭を撫でてしまった。
「あっ、すみません」
「気にすんな、お前にもまた護りたい人が見つかったんだろ……ってイタイっ!」
撫でてる手に力を込める。
「なんでそうなるんだっ」
「家についたときめっちゃいい顔してたぞ、それに……」
そんなに顔に出てたかな。確かにあいつらと一緒にいるのは楽しい。だけどどうしても過去の事を引きずってしまう。それに俺と一緒にいたらいつか必ず巻き込まれる。妹たちの二の舞にはさせるわけにはいかない……そう考えてても、楽しくて、恋しくて、愛しくて、もう二度と手に入らないと思ってた妹たちの温もりを近くに感じれるこの環境を手放せない。それにあいつらを一個人として見れてない俺は本当に弱い。だから学校でも友達が全然できないんだと思う。いい加減うんざりする。
「レギさんが嬉しそうに俺たちに電話してきたぞ、お前が女を連れ込んだって」
「んな事実ぁねぇよ!」
だからこそ叔父さんは一度徹底的に説教をしよう。
「それ聞いて俺も安心した。お前はあの時多くのものを失って、そのあとスッカリ引きこもっちまったからな、それに………」
……心配させてたんだな。いや、こんな俺でも心配してくれる人がいるだけましだ。だって俺は………
「お前は弱いから。」
はっとする。心を読まれたかと思った。
「なに言ってんだとか思うだろ」
そんなことはない。
「簡単に言うと、もっと俺らを頼れ、さっきも言ったけど」
だけどそれは………
「お前一人で抱え込むべき問題なんて全然ないんだぜ。それに一緒に重荷を背負うことは必ずしも苦痛だなんてことないんだからな 。もうこんな時間か、またな」
言いたいことを言って満足したかのように、三輪車をこいで進み出す。普段なら、その背中は見た目通りで小学生や幼稚園にも見えるが、今の俺にとってはとても大きく見えた。
さてと、ボチボチ俺も頑張るか、あんな兄さんに背中押されちゃ、進むしかねぇよ。とりあえずおにぎり作るか。その前に………あいつらを起こすか。
白狼さんに言われた通り、歩み寄ってみようと思う。どんなに苦しくても、どんなに重くても、あいつらと一緒ならどんな重荷も背負えると信じて。
登場人物&語句紹介
風慧 白狼 (ふえ しろ)
寧のことが好きな19歳。元『罪』の幹部寧と同じ階級だった。異能者。強いよ。見た目が幼い。小学生にも幼稚園にも見える。大学生。新聞配達の仕事してる。長男。氷達の高校のOB。氷達の家の近くに住んでる。独り暮らし。氷と仲がいい。よく一緒に飯食う。遊ぶ。正直者。嘘下手。純粋。時々ツンデレ。
闇(笑)&夜の世界の住人
………?
基本昼間生活してない。異能者が退治することが多い。幻獣の野生?みたいなの。異能団体に監視とかされてる。
牛乳 (ぎゅうにゅう)
美味しいよ。疲れが吹き飛ぶよ。
でも、飲んでものびたり大きくなったりとかは限らないよね。でも希望は捨てずに、諦めないでぇ。