都合のいいように解釈するのが二度三度正直
家に帰ると、異様な光景が広がっていた。目の前のテーブルとその奥の調理場の景色が異様すぎた。
「ここはあの世か」
つい口に出してしまった。それに反応し、調理場にいる二人が俺の方を見る。
「あら早かったのね」
「お帰りにゃーん」
鈴と御火が二人で料理をしていた。しかも冷蔵庫に入っていなかったはずの食材が使われている。いや、大事なのはそこではない…………テーブルの上だ。どうして真っ赤な液体が滴っている。どうしてまな板の上に包丁じゃなくて聖剣みたいなのが転がってる。この家の武器は全部庭の倉にしまってあるはずだが。どうして…………
「どうしたにゃ?」
いつの間にか、御火が目の前に来て首をかしげている。
「いや…………この赤いのは?
「トマトケチャップを溶かして液状にしたものにゃ」
一安心したかと思ったが、それを鈴が灰汁とりしてる鍋に入れる。なぜか鍋からは煙が上がる。
「…………この剣は?」
「これはあたしの剣にゃ」
…………落ち着け俺
「どうして出てるの?」
「どうしてって………」
まさかね、もし、もしもこいつらが料理が苦手だからって、切れ味が良さそうだからって理由じゃないだろう。そんな理由で料理するのはあいつら以外いないだろ。
「人の家の包丁を勝手に使えないにゃ。」
「…………はぁ。気にしなくていいのに」
どうやら救助隊が間に合ったみたいだ。
「それにこっちの方が使いやすいし、切れ味がいいにゃ」
しかしそれは医者の格好をした殺し屋だった。
「鈴は………」
俺は唯一の光を求めて鈴の方を見るも、急いで視線を戻す。
「なに?」
「なんでもないなんでもないです滅相もございません」
「…………?」
駄目だ、あれは駄目だ。御火の失敗がかわいく見えるほどに駄目だ。
俺はテーブルに両手をつき、どうすればいいか考える。
「もうできるわよ」
……!ゆっくりと、鈴が持ち上げた鍋の中身を見る。
「あたしも手伝うにゃっ」
「じゃあテーブルの上に何か引いてきてくれないかしら」
二人は居間に向かう。そんな二人の背中を目で追う。
ヤバいヤバイヤバいヤバイヤバいヤバイヤバいどうしよぉぉぉぉぉぉ。
鍋のおいてあったIHの横には我が家にはおいてないはずの小瓶がいくつかおいてある。その瓶にはよくわからないが、化学式が大きくラベルに書かれている。食べても安全なものだと信じたいが、先程の鍋の中の毒々しい紫色をし、凄くグツグツ沸いていた。………………俺は腹をくくった。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっとまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
急いで居間に行くと、二人はテーブルに座り、鍋の中身をよそう準備をしていた。
「ねぇ、器はどこにあるの?」
「…………器はさっきの台所にの棚に入ってる…………てかそんなものはいらない」
「「?」」
二人は首をかしげる。
「こっ、この料理は…… 」
「「この料理は?」」
「この料理は俺が全部食うからっ、全部食うから」
「なんで?」
「にゃんで?」
えと、どうしよう。なんて言い訳しよう。
「ふ、二人の手料理が嬉しすぎて……かな」
「「……!」」
二人は目を見開き、鈴は両手を顔の前にやる。
「にゃんでにゃ?それにかなって」
「嬉しいっ!」
「「えっ?」」
鈴が叫んだ。珍しい。
「まさか初めての手料理でこんなに喜ばれるなんてっ!」
ハードルが上がった。どうしよう。
「どうしたにゃ、それにこの料理って……」
「じゃあ私たちは何か別のものを食べましょうか、とりあえず台所に行きますね。行こうかみーちゃん」
御火の口を押さえ、鈴が早口にそう言うと、そそくさと出ていってしまった。
えーと、二人もいなくなったし、何処に廃棄するか。
「あとで洗うから、食べ終わったら感想と一緒に持ってきてくださいね」
鈴が襖をあけ、首だけ覗かせ言ってきた。ハードルがさらに上がった。
「それと………」
「それと?」
「鍋って嫌いだった?」
……!駄目だよ。そんな上目遣い駄目だよ反則だよっ!なんだろこのクーデレを見てる感じ、最近はまってるアニメでも出てきて、結構萌えてんだよぉ!ハードルがめっちゃ上がった。上がりまくった。このままがっつきそうになる。唯一踏みとどまってるのが死にたくないという生存本能だけだ。さっきのは危なかった。危うくこの殺人もとい殺神料理に手が……
「余ったら私たちも食べるから」
ふぅ、腹はくくった。さぁいくか。
「ちなみにあの料理実は」
いいんだもう、全部食ってやるよ。俺は鍋をよそい、ポン酢を垂らす。なんか変な煙が出た。
「私の初めての手料理じゃないんだ。それに……」
もういいんだってそんなこと、どうでも。 父さん母さん。今までありがとう。顔もろくに覚えてないけど。俺は叔父さんにしっかり育ててもらってます。今では恩人でこの恩はきちんと返したかった。だけど…………
「最後の味付け以外は君の叔父さんという人が作ったんだ」
俺は仇で返そうと思う。
「あのくそロン毛やろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉどぉぉこいきやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「その叔父さんなら、台所で御火と話してるわよ」
「さんきゅぅぅぅぅぅぉぉぉぉぉぉ」
俺は全力で台所に向かった。このとき俺は光を越えた。
「このくそロン毛ぇぇぇぇぇぇ」
台所につくと、イヤホンをした二人がテーブルに座り、普通の鍋を食べていた。鍋は三人分よそられ、なぜかモニターを見ていた。
「ずいぶん早かったですね氷君。そんなに慌ててどうしたのですか?」
こいつモニターで全部見てたな。
「ちょぉぉと叔父さんに食べてもらいたいものがあってね」
俺は先程よそった器を片手にくそロン毛の目の前に行く。
「それにくそロン毛ってなんですか、せめて…………」
「そんなことよりっ!」
「そんなことってなんですかっ!」
叔父さんがテーブルを叩いて怒鳴った。久しぶりに見た。
「ごっごめん」
「わかればいいのですよ」
俺はうつむくと、叔父さんが俺の肩に手をおく。そして俺はその手を掴む。
「それはそれとしてどおしてこんなものを作ったのかなぁ」
「やべ」
「やべじゃねぇよ、ほら食え」
「どおしてこんな炭酸や酢酸、塩酸や硫黄等々etcの入った鍋を食べなければならないのですか! 嫌ですよ、絶対お腹壊すじゃないですか! 」
「そんなもの食わそうとしたのかよ!」
「なにか問題でも?」
「問題だらけじゃねぇかっ!」
「えっ?君食べるんじゃないんですか?」
「てめぇが食え」
「だが断るっ!ではさらばっ」
くそ銀髪ロン毛は台所の窓から逃げ出した。俺がつかんでた腕は、作り物の偽物だった。
「逃がさねぇ」
俺はそのフェイクを握りつぶし、リストバンドを外し、追いかける。
「待って!」
鈴が後ろから叫んだ。いつ台所に着いたんだろう。
「どうした」
「あたし達はどうすればいいのかしら?」
叔父を追いかけることに必死になって少し忘れてた。
「あぁ、良かったら泊まってっていいよ。朝までには帰ってくるし、そしたら学校まで送ってくよ」
こっからの道分からんだろうし、それより今はあいつを追わなきゃ。
「そっ、そう」
鈴と御火は寂しそうに下を向く。
明日はしっかり部活見学付き合ってやるからと伝え、二人が前を顔をあげるのを確認する。
「風呂沸かしといたから、あとパジャマとか、居間のとなりの部屋の箪笥にあるの適当に使っていいから、それから洗い物はやっとくからシンク台の中に入れといて、じゃ、また明日」
俺は飛び出す。あのくそ銀髪ロン毛神父のコスプレやろうを追いかけに。
殺人料理は意図的に作られると、これほどイライラするんだね。怒りをパワーにとびだすと、外は綺麗な星空が広がっていたが、一部曇っていた。俺の戦いはまだまだこれからだ!
登場人物&語句紹介
・叔父
PS
かなりのドS
お茶目、色んな服を持っている。悪戯が好き。というよりは、人を驚かしたりなどが。
色々作れる。家の中には、叔父が色々ものを作る専用の部屋がある
・鍋料理
御火と鈴と銀の三人で作った。
御火と鈴は、銀に言われた通りに、具材を切ったり、ケチャップ水を作ったり、灰汁とりをしたりしただけ。常人が食べるとお腹を壊すじゃすまないレベルにヤバい薬品を入れまくったり、味を滅茶苦茶どころではなく文字通りほっぺが落ちたり舌がとろける物に作り上げた張本人は銀。本人は、腹を壊すですむらしい。ヤバい。下手すると病院送り以上、それとよそった器が溶けるレベル。
・台所
料理する場所。ちなみにIH。ここに食器棚等色々ある。テーブルがひとつある。シンク台の前に少し大きな窓がある。
・居間
長方形のこたつが真ん中にある。テレビもある。くつろげる。こたつ最高。エアコンなども完備。基本ここでご飯食べたりする。
・居間のとなりのへや
幼なじみと妹が使ってた部屋で、着替えが入ってる。氷が定期的に掃除してる。布団もきれい。
・蔵
物置蔵。ただの蔵。中は、叔父が改造して、見た目よりも広い。噂では地下にダンジョンがあるとかないとか。この家に昔からあった宝とか色々ある。
叔父が作ったがらくたや、武器、色々入ってる。氷が時々掃除してる。