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ハルカの寝床は神社内の別の場所にあるのだろう。俺がいる和室はリビングのような感じで使われているみたいだし。
というわけで、今夜も俺は和室で休ませてもらっている。
うーん、それにしても今日が五月四日だなんて未だにおかしな話だよな。普通そんなこと信じられるか? どういう理屈で俺は時間を移動しているんだよ。
消灯済みの和室は本当に真っ暗で、一人で考え込むには絶好の場所ではあるのだが、いかんせん俺の脳みそはデキが悪い。結論から言うと、答えなど出るはずもないのだった。
「まだ起きているわね」
眠りにつくまでの時間を過ごしていると、突如、真っ暗な闇の中で声が響き、俺の心臓がドクンと大きく波打った。
「その声、小夜なのかっ!?」
「しー、大きな声を出しては陽香が起きてきてしまうわ」
なんてこった。恐怖の大王みたいな小夜がまた現れやがった。
ここに何をしに来たんだよ。お前とは関わりたくないって。
「あらあら、そんなに怯えてどうしたの? 私はヒントを与えに来ただけなのに」
本当だろうな。そんなことを言って、また恐ろしい幻覚でも見せる気じゃ……。
「今日は私について詳しく教えてあげましょうか」
「……べつに知りたくねーよ」
「あなたは今後も何度か私と会うことになるでしょうから、その時の注意事項と思って聞いてくれればいいわ」
俺の話は無視か。
注意事項よりもお前の取扱説明書をくれよ。危険物の取扱説明書は読破しておきたい。
「言葉遊び、って聞いたことあるかしら」
「……あるけど、それがどうした」
「日本人は言葉遊びが大好きなのね。春夏冬と書いて『あきない』と読んでみたり、一と書いて『にのまえ』と読んでみたり。私だってそう、月見里と書いて『やまなし』と読むのよ? 月が見える里には山がないからですって」
この化け物が何を言いたいのかサッパリだぜ。
「瓢箪が六つ描かれている絵をお皿なんかでよく見かけるでしょ? 瓢箪六つで『むびょうたん』、つまり無病を表していて縁起がいいからなの。一見では別のものに見えて、違う意味が隠れていたりする。面白いと思わない?」
「どこが面白いのか、笑いどころを教えてくれ」
小夜は楽しそうにクスクス笑った。
「私が話すことは真実だけれど、でもあなたにとってそれが真実に聞こえるかどうかは別ということ。わかる?」
「そこにあるものを見えなくしてそこにないものを見せるのが役割、とか言っていたな」
「優秀ね。そこまでわかっているのなら大丈夫。きっと、無事に元の世界に戻れるわ」
二日の夜と同じく視界の悪い暗闇での対面で気付きにくいのだが、気付いた時には小夜はそこにはいなかった。
……ん? あれ、もう終わり? 帰っちゃったわけ?
立ち上がって部屋中を見まわしてみるが、やっぱり小夜はどこにもいない。
ほんと何しに来たんだあの化け物は。ヒントを教えてくれるんじゃなかったのか。
もういいや、あいつとは関わらない方が身のためだ……寝よう。