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異世界トリップしてしまったので神様に頼んで元の世界に戻りたいと思う  作者: kaguya
【不思議な国の神隠し】第二章 天川陽香のG.W
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 無言の時間が続く。

 小夜は、時折流し目で俺の顔を伺いながら歩き、俺も小夜の整った顔を数秒おきに眺めていた。その途中で稲守が岩に腰掛けて休んでいたところに出くわした。

 よお、と俺が声をかけようとした時、こちらに気付いた稲守は小夜を見るなりガクガク震えて手で顔を覆ってしまった。


「私が怖いのね。あの子はまだ幼い神様だから仕方ないわ」


 小夜がそう呟いた。

 この時俺は、もしかすると小夜が俺を襲った犯人なのではないかと思った。

 まだ小さい神様とは言っても稲守だって神様だ。その神様があんな風に怯えるなんてどうにかしている。

 仮に小夜が犯人ではないとしても、こいつが何かを知っていることは確かなようである。


「稲守?」


「ひゃっ、ひゃいっ!」


 小夜に声をかけられ、稲守の体がビクンと跳ね上がる。

 というかちょっと待て、稲守が休憩していた場所は一度通り過ぎたよな? おにぎり貰ったし、間違いなく通り過ぎた。

 犯人に蹴り飛ばされて、ここまで吹っ飛んできていたのかよ。

 初めて、しみじみと思った。生きているって素晴らしい。


「稲守、何をめそめそと、何をコソコソとやっているか知らないけれど。今私に会ったこと、陽香に話しちゃ駄目よ? 話したらどうなるか、わかっているわよね」


 ガクガクと、稲守は何度も何度も首を縦に振った。赤くなった稲守の頬に涙が零れた一線が出来ていた。


「お、おい……怖がっているじゃないか」


「いいの。それが私の役割だから」


 遠くを見るような目で小夜は言った。どんなことを思いながら言ったのか人間の俺にはわかるはずもないが、ちょっとだけ、小夜の顔が悲しそうに見えた。


「さあ、もう行きなさい。陽香があなたの帰りを待っているわ」


「お前にはまだ聞きたいことがたくさんあるんだが」


「行きなさい」


 小夜はギロリと俺を睨む。瞳の色を、秋の紅葉のように真っ赤な色に光らせて。


「な、なんだよ……それも神様の力かよ」


 まただ。金縛りにあったみたいに体が動かない。ただ真っ直ぐ小夜の目を見ているだけで、視線を外すことも出来ない。

 足元の地面が盛り上がる感覚を感じた。


「――痛っ!」


 両足に激痛が走る。画鋲を踏んだなんて比ではない。刃を上にして置いてある包丁でも踏んだような感覚だぜ。

 ヒュンと風を切る音が鳴ったと思うと、目の前にいる小夜の体をすり抜けて、日本刀が飛んできて俺の体に突き刺さる。

 は? 日本刀?

 あまりのことに声を上げることすら出来なかった。

 それから何本も何本も日本刀が小夜の体をすり抜けては俺の体に刺さっていく。


 ――気が遠くなって目を閉じた瞬間だった。


「見えないものを見ていたようね」


 口元を歪ませて微笑む小夜が目の前にいた。そして、俺の体には日本刀なんて刺さっちゃいなかった。


「……失神寸前だったぞ」


 こいつは相当ヤバい神様のようだ。

 美人ほど性格キツイという通説はあながち間違いでもないらしい。 

 見えないものを見せる――幻術や催眠術の類なのだろうか。どちらにしても恐ろしいヤローってことに変わりはないわけだ。


「早く陽香の所に帰りなさい。でないと、失神では済まないかもしれないわよ?」


「……か、帰りまぁす」


 こんなやつと一緒にいてたまるか! 今すぐ走って帰るわ!

 そう言って走り出そうとする俺を小夜が呼び止めた。


「なんだよ! 帰れと言ったり待てと言ったり!」


「まさかとは思うけれど、私と会ったこと、陽香に言わないわよね?」


 そりゃなんだ、脅しか?

 マジでおっかねぇよ。恐怖を具現化したようなやつだよこいつ。

 クスクス笑う小夜は手のひらを俺に見せ、今度はきちんと鞘に納まった日本刀を出現させてみせた。


「これは本物よ?」


「わ、わかった! ハルカには何も言わないから!」


「それでいいの」


 そう言うと、すぅっと空気に溶けるように小夜はそこからいなくなった。やべぇ。

 高校一年にもなって小便漏らすかと思ったぜ。

 怖い思いをした時は筋肉が硬直したりするけれど、恐怖の度が過ぎると全身の筋肉が緩みまくってしまうんだな……。

 バトル漫画とかで強敵を前に膝から崩れ落ちる様が描かれたりするのは理にかなっているようだ。

 あんな化け物と関わっていられない。命がいくつあっても足りないって。

 暗い夜道で恐怖を誤魔化すために必死に走るのと似た感覚で、俺は一本道の農道を駆け抜けた。

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