奴隷
奴隷、奴隷、奴隷、女の子の奴隷。
ああっなんという甘美な響きであろうか。
ご主人様と奴隷。
当然ご主人様の命令は絶対であろう。
いや!絶対であるべきなのだ!
元々ナプールのゲームの仲間ってのは、普通のゲームみたいにイベントで仲間を増やしていくという王道的なストーリーだったはずだ。
販売層が子供なんだから間違っても奴隷などというシステムはなかった。
となると、これは恐れ多くも賢くも偉大なる1級神ラン様のオリジナルの設定なんだと思う。
素晴らしい。
なんと素晴らしい設定をお考えあそばされるのだろうか。
俺は信者になってもいいや。
むしろ信者にしてくださいという感じです。
さすがに迷宮にそんな女の子奴隷を連れて行くわけにはいかないだろうけど。
なに迷宮には死んでもいいような奴隷を別に購入して連れて行けばいいのだよ。
金ならある!
金ならあるのだ!
そんな、この世界に来てから一番の期待と興奮に包まれながら、俺はおっちゃんに教えられた奴隷商人のお店に豪華な門を通って入店していったのだった。
■□■□■□■□
「なんでだよ!なんで奴隷が1人しか買えないんだよ!ほら金ならある、金ならあるんだ!」
と叫びながら俺は古銭をカウンタの上に出す。
客観的に見ると、自分でもちょっと引く言動と行動ではある。
でも俺も必死なんだって。
うんざりしたように店員は繰り返した。
「ですからお金の問題ではないんです。お客様、圭様は冒険者ですよね」
「そうだよ」
「ですから冒険者の方は確かに奴隷を買えますが、ランクが6等級の下では1人までしか所有してはならないと王国の取り決めで決まっているんです!
ご存知のように迷宮は基本的には3人の探索になりますので人形と奴隷の3人がいれば十分ですし、昔は奴隷を使い捨てにする冒険者の方が多かったものですからね。勿論ランクが上がり、実力が王国に認められれば所有できる奴隷も多くなりますが……」
奴隷を使い捨てとは、世の中にはまったく屑が多いものだ。
屑のせいで俺の夢、いや世界中の男の夢。
かわいい女の子奴隷がかなわないではないか。
「ですので、複数買われましてもその場で1人以外は解放しなくてはいけませんがよろしいですか?因みに解放する時には最低でも100万ヘルは開放した奴隷に渡さないといけないですけど」
なんだと!
なんだそのやたらと奴隷に優しい制度は。
再出発の資金とかの意味合いだろうか?
あるいは退職金?奴隷が職業なのかは疑問だが。
いずれにせよだ、奴隷買って即解放とか……
いいわけあるかー!
一瞬、確かに奴隷を解放してそのあとで一緒に迷宮に潜るのは一つの手かもしれない。
という考えが浮かぶが……
迷宮の中で殺されて身包みはがされる未来しか見えない。
深呼吸を一つ。
それがどれほど理不尽であっても法は法だ。
ここは鋼の忍耐力で我慢すべきときではないだろうか。
仕方がない。
ここは妥協して戦える綺麗な女の子の性ど……じゃなかった奴隷を購入すれば万事解決する。
「わかった。すまなかったな店員さん無理を言った」
頭を下げる俺。英雄とは引き際を知っているものだ。
「奴隷を1人買うから見せていただきたいのだが」
「迷宮探索のできる戦闘力のある奴隷でございますね」
「む、無論だ」
断腸の思いで答える俺。
「現在20名程度おりますが、具体的に種族や性別のご希望はございますでしょうか?」
「いや、ない」
女の子が良いに決まってるんだけど、こう言わないと吹っかけられるかもしれないしね。
いまさら効果は薄いとは思うが。
「それではこちらにどうぞ」
店員さんが俺の前に立ち手でお店の奥を示しながら歩き出した。
後についてしばらく歩くとお店の中庭のような場所に出る。
そこでは筋肉質の男たちが木刀なんかを持って集団で訓練をしていた。
なぜかお揃いの首輪をしているのが不気味だ。
吹き抜けの中庭なのに、高校時代に剣道部の部室の中でかいだ匂いがしてるんですが……
何でこんなところに?
俺の疑問を見て取ったのだろう。
「当店の戦闘用の奴隷は日々訓練を欠かさないでおりますので」
店員さんが説明する。
なるほど商品価値を高めてるわけか。
「あの首輪は奴隷の印ですか?」
「ああ、お客様は初めて奴隷をお買いになるのですね。アレは逃亡防止のものです。奴隷の印は体の一部、多くは額でございますが……に魔力にて刻印いたしております」
意外と酷い。
江戸時代の罪人でも肩とか手首に刺青じゃなかったか?
まあこの世界だと手首ぐらい切ってもすぐに直せたりしそうですが。
「逃亡防止というのは、首輪が締まったりするのかな?」
「いえいえ、もっと単純でございますよ。特殊なワードを唱えるか。無理にはずそうとするか。記憶した主人の生命反応がなくなりますと爆発する仕組みです。
ですので、迷宮奴隷たちは自分の命をかけてご主人様の生命をお守りするわけですな。主人が死んだらどの道自分も死ぬわけですから」
グロい。
それはさすがに酷いぞ。
よく出来たシステムだと思うけど。
「ご、誤作動などは平気なのか?」
「ご心配には及びません。当店抱えの、一流の付与師が作ったものですのでほとんどその心配はありません」
ほとんどないって店員さん!
可能性はあるってことじゃないですか。
奴隷とはいえ異世界は人の命が軽いね。
いや、深くは突っ込むまい。
だが、俺の奴隷は首輪をはずすことを検討しよう。
さすがに現代人の俺の倫理観が警報を鳴らしてる。
誤作動とかしたら俺は多分精神的に立ち直れないんじゃないかな。
迷宮内でもシルクがいれば何とかなるだろ。
俺の質問が終わったと思ったのか、
カンカンカン
と手馴れた様子で備え付けの金属の板を木槌で叩く店員さん。
奴隷さんたちがたちがわらわらと集まってきて俺の前に整列した。
おおう、男しかいねえ……
正直なところ筋肉質の男が20人も並ぶと本気で怖い。
俺も高校時代は剣道部でそれなりに部活動をやっていたわけだけど、この人たちの筋肉とか体つきは訓練しているというだけあって半端ない。
普通にたってるだけで胸がびくびく動いてるやつもいる。
まあ、殺し合いがある世界の人だし、根本的に平和な日本人の俺とは体のつくりが違うのだろう。
男たちの筋肉はまるで、100人が挑戦して誰もクリアーできないこの世界のダンジョンをなめんなよ!と言っているみたいだ。
うーん仕方がない。
かわいい女の子奴隷は欲しいが、今回は残念だけど女の子奴隷は諦めよう。
というか、男しかいないんだからどうしようもない。
この世界で生き残るためにはあとでランクが上がってから考えるべきだ。
そうなると能力重視にしなくちゃね。
俺には究極鑑定のスキルがあるからその点はハズレをつかむ可能性は少ない。
ステータスが高くて変なスキルがない奴隷をかえばいいのだ。
そう決心して、俺は奴隷さんたちの前に立ち大声を上げた。
「えーっと、迷宮探索のための奴隷が欲しい。見ての通り俺自身はさほど強くはないが、人形は高級人形をかなり強化している。当面は浅い階層で俺自身の訓練をかねて潜るだけだから、さしあたってはそれほど危険は無いと思う。
また、装備については商店で最高級品を買い与えることを約束しよう。飯は俺と同等のものを食べさせる。以上の条件で俺に買われてもいいと思った人は列の前に出てくれ」
出来れば少しでもやる気のある人がいいので、自発的に名乗り出る人を待つ。
だが、奴隷の人たちはお互いに顔を見やって中々前に出てこない。
まあそうだよね。
言葉だけじゃ信じろって言う方が無理か。
あとで反故にされても文句の言いようもないしね。
首輪のせいで、主人がすぐ死んじゃうぐらい弱いと、この人たちも道づれで死ぬわけだし。
仕方がないから1人ずつ鑑定しようかと俺が思っていると
「はいはい!私買われたいです!」
という女の子の声が聞こえてきた。なんだか妙にハスキーな声だな。
えっ!女の子の声?
ここ男しかいないんじゃないのか?
うれしい誤算だ。
やはりどうこう言っても女の子の方が精神衛生上よろしいのだ。
列の一番後ろから、女の子が走ってきて列の先頭に出る。
なるほど。背が低いこの子が一番後ろにいちゃ見えないはずだ。
やる気があるのも大変いい。
耳が犬耳だというのも素晴らしい。
体も適度に育ってる感じが非常に好感度が高いです。
問題があるとすれば女の子の顔が犬そのものだというただ一点だけだな。