性能
シルクの所有者登録の後、俺はおっちゃんと奥さんにいくつか人形について質問してみた。
燃料はなんですか?とか俺が死んだらこの子はどうなるんですか?
といった感じのことだ。
驚いたことに人形は人間と同じようにものを食べて動くらしい。
現代日本のロボットよりも進んでるんでるんだね。
やはり凄いぞ異世界!何でもありだ。
ものを食べるとなると……排泄もするんだろうか?
気にはなったけど、俺のそばにシルクがいるんで聞けない。
シルクは奥さんのお古だというワンピースみたいな服を着せてもらって俺の右隣に立ってるんだよ。
その状況でこの子ってウンコします?とか無理。
まあ、2,3日一緒にいれば分かるか。
そんなこと知ってどうするという話だけど。
俺が死んだ場合だが、シルクは俺の死んだ後はこの工房に戻って新しい所有者を探すらしい。
というか、人形は所有者が死ぬと生まれた工房に戻るように刷り込んであるという話だ。
シルクは工房が不明だったのでここの工房に設定しなおしたみたい。
あれ?
俺が死んだら工房ぼろもうけじゃないか?
ふ、深く考えるのはよそう。
工房はここしか知らないから「じゃあ消します」といわれても俺の死んだ後、路頭に迷うかも知れないシルクがかわいそうだ。
ここならキューブ信者のおっちゃんが悪いようにはしないだろう。
この世界をクリアーした後のこともあるしね。
その後もこまごまとした注意を受け、最後に人形のカスタム。
つまり人形の強化の話になるとおっちゃんが俄然熱心に話し始めた。
「じゃあ登録も終わったところでだ!どうだい兄ちゃんさっきも言ったがうちでカスタムしていかないか?迷宮にもぐるんなら絶対に必要なことだぜ。どこの工房でカスタムしても同じ値段だし、うちでしていってくれよな」
いきなり営業し始めるおっちゃん。
さっきからやけに熱心なところを見ると、たぶんカスタムとやらは工房の儲けも大きいんだろうな。
うーん確かカスタムってお金を払うとステータスをあげてくれるやつだろ?
俺はゲームの知識を思い出しながら考え込む。
人形の質によってステータスの上限が決まってるんだよな。
確か普通の人形が500ぐらいで上質が700ぐらいだったかな。
この子はどのぐらいまで上がるんだろう?
名工の作品らしいから上限は高いと思うんだけど、もしもシルクの上限値が低いならまた人形を買わないといけないからお金が無駄になるんだよね。
というかだ!
カスタムで心配なのは筋力や体力をあげたりするとムキムキなシルクが誕生したりしないだろうか?
ということだ。
まさに死活問題といっていいだろう。
「カスタムは詳しくないんですが、もしかしてカスタムすると人形の外見が変わったりするんでしょうか?」
俺の質問におっちゃんはなぜか大笑いしながら答えてくれた。
「残念だがな兄ちゃん、魔力での強化だから外装に変化はねーなー。まあ胸とか残念だから気持ちは分かるがな。何だったらうちでも豊胸のカスタムできるぜ」
豊胸とか出来るのかよ。
というか何で残念なんだ?
ああなるほど。
おっちゃんはムチムチぽんが好きなんだな……
残念だけどなおっちゃん!
俺は逆の性癖だ!
ムチムチぽんは、それはそれで好いものだとは思うがな。
こほん。
「いやそれはちょっと遠慮します」
ちらりと目をやるとシルクがなぜか胸に手を当てている。
胸の大きさを確認しているのか、手でプニプニするシルク。
なにこの子?
なにこの子?
超かわいいんですけど。
俺をもだえ死にさせるつもりですか?
思わずシルクの頭をなでる俺。
「迷宮に潜るから戦闘とかあるだろうけどこれからよろしく頼むシルク」
「はい。マスターの足を引っ張らないように頑張ります」
けなげに答えるシルク。
いい子だ。
多分俺が足を引っ張ることになるだろうけど。
「えっとシルク、君は自分の能力がどのぐらいまであげられるか分かるかな?」
「はい分かります」
「どのくらいまで上がるのかな?」
「私の能力値の上限は運と精神をのぞいて999です」
運と精神は人形は初期値から上がらないんだったな、そういえば。
って上限999!それは凄い!ステータスの上限じゃないか。
まあ、ナプールのゲームでの話だから、この世界では実は上限9999とかかもしれないけど。
とりあえず空気の読めることで定評のある俺は褒めておくことにした。
俺の能力値オール5だしな。
「おおシルク凄い!」
俺に続いておっちゃんとおばさんも驚きの声を上げた。
「999とはなあ。さすがはキューブ様の人形だ」
「ほんとだねえそこいらの人形じゃあ500いかないのも多いのに……最高級品だって800上がるかどうかじゃいさ」
二人が揃って驚いてるってことは999が上限みたいだな。
心なしかシルクも胸を張ってドヤって顔をしてる気がする。
まあ、人形には心がない……人工知能みたいな感じかな? らしいので気のせいなんだろうけど。
999上限なら最後まで使えるからいいね。
「じゃあカスタムお願いしますよ」
おっちゃんに告げる。
「おう、毎度アリだな。へへっじゃあどのぐらいまであげるんだ?体力と筋力が200あれば10階ぐらいまでは問題ないと思うがな」
俺はゲームをクリアーしなきゃいけないからケチらないで限界まで上げるべきだよなやっぱり。
中途半端にあげてシルクが壊れたら後悔してもしたりないだろうし。
何より俺の身が危険だ。
何せ100人が挑戦してだれもクリアーしていない世界だ。
過剰なぐらい用心して迷宮探索はすべきだろう。
「うーん。じゃあ全部999まであげてください。できますか?」
「おいおいそりゃ出来るけどよ。値段表見てくれや値段表。高価な魔石使うからよ。500以上あげるにゃ代金がものすごいことになるんだがな」
「ええかまいません。とりあえず5億ありますが足りますか?」
かくんと大口を開けるおっちゃん。
おばちゃんは酸欠みたいにパクパクしてる。
なんか快感を覚える俺。
お札で頬をひっぱたく感じとはこういったことなのだろうか。
多少違う気はするが。
「おうおうおう本気かよ。よしよし足りるよ足りる。ちょっと待ってな今計算するからよ」
この子の能力値と合わせると……こうか!まあ端数はキューブ様に免じてまけてやるか。
ぶつぶつと計算し始めるおっちゃん。
「合計すると……だな端数はまけて4億。いやさっき1億もらってたな。じゃあまあ3億先払いで頼むぜ兄ちゃん。時間はそうだな魔力の注入はさほど時間はかからねえが、調整やら何やらがあるから2時間ぐらいもらおうか。いいかい?」
「ええ、かまいません」
「そんじゃカードと3億頼むぜー。ついでに借金も消しとくからよ」
お金と冒険者カードを渡す。
「おっし、じゃあ次はこの紙にサインしてクレや」
目の前に差し出されたカーボン紙みたいな紙にサインする俺。
「おう、じゃあこれが控えだからななくさないようにしろよ。まあ、なくしても引き渡すけどな。がっはっはは」
おっちゃんはよほど儲かったのか鬱陶しいぐらいハイテンションだ。
引き換え用紙と冒険者カードを受け取った俺は、一応借金が消えているのをチラリと確認して2つともポケットに突っ込む。
んーまた2時間か。どう時間を潰そうか。
買い物かなやっぱり。
俺の装備だけでも整えないとね能力値が低いわけだし。
お店はいくつか道の途中であったけど、詳しそうなおっちゃんにお勧めを聞いてみようか。
「スイマセン迷宮探索の装備を整えたいんですが良いお店あります?」
「迷宮探索の装備か?そうだな冒険にいくってんなら、まず大通りにあるランディ商店だな。冒険者御用達だから質も値段も上等な装備や迷宮のキャンプ用品まで揃ってるぜ」
上客の俺の質問に愛想よく答えるおっちゃん。
「スキルはうちの隣の店が良い腕してたんだけどねえ。娘さんが行方不明になって以来酒びたりだからね。まあ、腕は多少落ちるけどさ、ここから公園に行く途中にあるランスのとこにいきなよ」
とこれは奥さんのお勧め。
スキル屋の行方不明というのはイベントだな。
ゲームしててこのイベントに遭遇した記憶がある。
確かこの町に隠れ住んでる吸血鬼に攫われてるんだよね。
「あとは、まあ、兄ちゃん金あるみたいだからルビィんとこでやってる奴隷を買ってもいいな」
おい!まて!
いまなんといった!
奴隷!
奴隷だと!
俺は内心の動揺をかけらも見せずおっちゃんに質問する。
「あ、あの、ど、奴隷も買えるんですかぁあ?」
「お、おう迷宮に行くんなら人形と奴隷と冒険者の3人が基本1チームだからな
まあ、金がない駆け出しは冒険者3人だが」
なるほど迷宮じゃ3人が基本とか言ってたな。
奴隷と人形なら儲けが冒険者3人の3倍になるからなあ単純に考えると。
俺のものは俺のもの。奴隷と人形のものも俺のものというジャイアニズムだ。
しかし、そういうことならば行くしかないよね奴隷屋。
基本がそれなら郷に入っては郷にしたがえ。
異世界に入っては異世界に従わなくては。
俺の高潔な倫理観はひとまず置いておいてさ。行かねばなるまいな奴隷を買いに!
ゲヘッ。
おっと、俺の内心の高潔な倫理観が少し外にもれたらしい。