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俺と糞ゲー  作者: ピウス
6/36

契約

「おっ感心だな、早く戻ってきたじゃねーか。当てがあると言ってたが金の都合は付いたのか?」

 

 公園でいきなり成金になった俺がホクホク顔で工房に戻ると、最初にこの店に入ったときみたいにカウンターの奥で作業をしていたおっちゃんが早速声をかけてきた。

 口調から察するにちっとも都合が付いたとは思っていない様子だ。

 

「ええ、これで足りるでしょうか?」


 といいつつ公園で拾ったコインを1枚カウンターに置く。

 ドヤ!

 鑑定で1億の価値があると説明してたし大丈夫だとは思うけど、内心はドキドキしてます。


 いや、あのスキルの説明とかみるとね。鑑定を盲信するのは危険すぎると思うんだよね

 

 胡散臭そうにコインをつかんだおっちゃんだったが、不意にカッと目を見開いてコインと俺の顔を何度も往復させる。

 おっ!あの感じだと本当に1億の価値があるみたいだな。


「おいおい兄ちゃん!こりゃオリハルコンの古銭じゃねーかよ。どこで手に入れたんだ?はじめてみたぞオりゃー」


 自慢したいのは山々だけど、まさか公園の宝箱に入ってましたとかいえない。

 そういうわけでおっちゃんの疑問はさっくりと無視。


「えっと、1億ヘルの価値はあると思うんですが足りますか?」

「足りるかって、そりゃーお前、足りるけど……釣りがなー」


 と、名案がうかんだとばかりにポンと手を合わせるおっちゃん。


「おっ、そうだ。お前さんせっかくだからよ、あの人形のカスタマイズもしていかねーか?値段はそこの壁に貼ってあるからよ。お前さん冒険者なんだから町の外の迷宮にもぐるんだろ?」

「ええ、そのつもりではいますが……」


 迷宮をクリアーしないと帰れないんだよね。 

 おっちゃんはそうだろう、そうだろう とばかりにうなずきながら言葉を続ける。


「それなら人形の強化もいずれはしなくちゃなんねーわけだよな。どうだい先行投資でよ」


 ああっ!思い出したよ。

 ナプールじゃ人形は人と違いレベルアップで強化するんじゃなくて、工房でステータスアップする仕様だったっけ。

 心がないから成長しないのだ云々という設定があったなあ。

 壁に値段が張ってあるってことはボラれる心配もないし頼んでもいいな。

  

 だけどあの人形はどうしたんだろう?

 おっちゃんがここにいるということは修理が終わったんだろうか?


「ええ、強化は考えますがまずあの子……あの人形の状態はどうなんでしょうか?」

「おうおう、オリハルコンの古銭何ぞ見たからそれを言うのを忘れてたぜ」


 忘れんなよおっちゃん。


「あの人形な。なかなか掘り出しもんじゃねーか」

 

 まあ、多分なんかのイベントで手に入る人形ぽいからねあの子。高級品でも不思議じゃないよね。


「間接の作りなんか中々良い仕事してやがったぜ。髪や瞳の素材なんかみたことないもん使ってやがるしよう。売りたいんなら色つけて買うぜ」

 

 売らない売らない。

 公園で財宝を見つける前の俺なら売ったかもしれないけど、今の俺は成金なのだ。

 そもそもあの人形の所有権が俺にあるのどうかもよく分からないし。


「まあ、前の持ち主が糞野郎だったみてーでちょいと下半身がいかれてるがな。それ以外はまあ何とか補修できる範囲だったな。いまは液ん中につけてるから……いやもう良い時間か。いつでも引き取れるぜ」


 下半身がいかれてるってことは、つまりそういった用途で使われてたってことなんだろうなあ。

 かわいそうに。

 というか、そういう用途で使えるんだ。

 へーそうなんだ。

 へー。

 へー。

 ……でもあの子の捨てられた姿見てるからなあ。

 無理やりとかは多分俺の精神的に無理だな。

 

 いかん、なにを考えているんだ俺は。


「じゃあ、少し話とかさせてもらってもかまいませんか?」

「ああかまわねーぜ。どうせ所有者登録もしなくちゃなんねーんだしな。おう、うちでカスタムすんなら登録はサービスすっからよ考えてくれよな」


 どうやら俺はおっちゃんの中で上客と認識されたみたいだ。

 アピールが凄いんですけど。

 ……カモと思われてるのかもしれないけど。


「じゃついてきな」


 とおっちゃんに案内されて工房の奥に進むと緑の液体が入った透明な水槽が目に入ってくる。

 その横では体にタオルを巻いたあの女の子の髪を、いかにも腕っ節かーちゃんという感じのおばさんごしごしとタオルで拭いていた。

 おっちゃんの奥さんだろうな。なんというかお似合いの夫婦だ。


「おう出してたのか。お客さんが引き取りにきたぜ。もう良いか?」

「そうだねえ。関節周りと外装の切り傷はふさがったけどねえ」


 奥さんはため息を一つ。


「あっちの方はもう少し時間がねえ。どうだいい旦那。もう少しうちに預けておかないかい?2,3日あれば完全……とはいかないけどそれなりにはしてみせるよ」

「いえ、大丈夫です。自動修復が稼動し始めましたのであとは時間経過で自力修復可能です」


 驚いたことに奥さんの言葉に女の子が答えた。

 

 しゃべってるよこの子。

 人形という話だけど流暢にしゃべれるんだね。

 

 この子黒い髪に赤い目が映えて凄くきれいなんですけど……

 この子の瞳の色は初めてみたけどいいねえおっちゃんが褒めるわけだ。

 まるで人形みたいだ。

 いやほんとに人形らしいけど。


「自動修復ってお前、何で愛玩用の人形にそんな機能が……おい、おめーもしかして戦闘用なのか?いや、それにしちゃあ下手な愛玩用よりよく出来てるじゃねーか」


 おいおい、おっちゃん愛玩用を迷宮につれてくためにカスタムしろっていってたのかよ。

 怖いお金って本当に怖い。


「はい、私は戦闘用。迷宮探索を目的として作られました。固有ナンバーはmkn-0019。製作者はメルビック・キューブ。固有能力……」


 抑揚のない人形の声を遮っておっちゃんと奥さんが同時に驚きの声を上げた。


「キューブ様だと!おいおい本当かよ?」

「これはたまげたねえ」


 ひたすら驚くおっちゃんと奥さん。

 取り残される俺。

 なんだ?

 キューブってそんな設定はナプールにはなかったはずだけど。

 ごみ置き場にあるちょっと高級なドールがタダで手に入るだけのイベントのじゃないのか?


 ナプールのゲームを再現しているけど、そこかしこに神様の独自設定みたいなものが付け加えられてるみたいだからそれだろうなきっと。

 俺が知らないだけでゲームでも裏設定として存在していた可能性もあるが。


「あの、そのキューブという人の人形だと何か問題でも?」

「いやいや兄ちゃん!キューブ様だぞ、キューブ様!あの伝説の人形師キューブ様」


 いやそんな設定ナプールにはないはずだから知らないって。知らない。


「ホントに知らないみてーだな。冒険者でキューブの名を知らないとはなあ」


 あきれたようにため息をつくおっちゃん。


「まあ、知らないでしゃべりゃーどんなトラブルに合わんとも限らねえからちょいと説明してやろう」


 なぜかうれしそうに話し始めるおっちゃん。

 奥さんはまた始まったといわんばかりに人形の体を拭く作業に戻る。


「以前人形は王家から認められた人形師だけが作ることが出来たってのはさすがに知ってるよな」

「えっ?ええ」

 

 知らないけどここは話を合わせる俺。


「今でも基本的に人形ってのはこの王国の所有物でよ、戦闘用や愛玩用に貴族様なんぞが使ってるわけだろ。なにせこいつらは一度刷り込んじまえばご主人様に忠実だからな。人間よりも安心できるってわけだ。だから、本来ならよほど金とコネのある商人ぐれーしか貴族様以外での所有は認められなかったわけだが……」


「ほら、あの大変動でこの近くにさ、あの特S級の迷宮が出来ちまったでしょ。それで迷宮探索する冒険者に限って所有が認められることになったわけなのよ」


 人形を拭きながら口を挟むおっちゃんの奥さん。

 

 大変動は知ってるな。

 たしかナプールのゲームのプロローグにあったような。

 大きな地震か何かの後に、この国の周りにぽこぽこ迷宮が沸いた事件だよな。

 筍かよという感じだが。

 特Sの迷宮ってのがいわゆるメインダンジョン。それをクリアーすれば俺は元の世界に帰れるはずなのだ。


「でも軍隊というか騎士団とかがいればそんなこと必要ないんじゃ?」


 ゲームの禁句みたいな俺の素朴な質問におっちゃんはあきれたような表情を浮かべる。


「……おめーホントに冒険者かあ?あのなあ、あの迷宮じゃ数でおせねーんだよ

 何しろこちらの人数が増えるとよ、なぜかでてくるモンスターの数が飛躍的に増えやがるからな。大変動の直後に王国があそこに派遣した手練の騎士50人はよ、数百のモンスターに囲まれて1日でほとんど全滅したって話だぜ。高級人形もいたって話なのによ。

 何でも6人を超えると洒落にならねえって話だな。今は3人で潜るのが常識だってうちの客が言ってたぜ」


 うん神様が多分設定を頑張ったんだね。

 ゲームだと普通に6人パーティだったから凄く迷惑だけどな!

 大体なにが、なぜか飛躍的に増えるだよ!そこはどうして増えるのかしっかりと設定を考えろよ。

 おっちゃんが知らないだけの可能性もあるが。


「っと話がそれちまったじゃねーか。どこまではなしたんだったか……ああ冒険者に所有が認められたって話までだったな。餅は餅屋じゃねーけどよ、戦争と違って迷宮探索じゃ騎士様なんぞ糞の役にもたたねーからな。

 本職に任せようってことなんだが、あの迷宮はさすがに世界でも3つしかない特Sだろ?手ごわくてな。名のある冒険者でも20階以上いけるやつは一握りだったわけだ。まあ、たどり着いたやつがいないから何階あるのかしらねーけどよ。

 それで手っ取り早い解決策として時の王様、賢王リシャール様が冒険者に限って人形の所有を認めたのよ。さすがに一人一体に限っての話だがな。なにしろ強化しさえすれば人形1体で優に数人分の戦力だからな」


 おっちゃんなんか生き生きとしてしゃべるね。

 何度も聞かされるのはゴメンだけど初めて聞く俺には凄くありがたい。

 貴重なこの世界の情報なんだよね。


「んでよ、所有が認められたはいいんだけどよ、そうなると当たり前だが人形師の数がすくねーからさ、人形の値段がバカ高くて普通の冒険者じゃ買えねえわけだ。まあ本末転倒なわけだな」


 なるほど需要に対して供給が追いつかなかったのか。


「それで仕方なく王国が人形の製作技術を民間に開示したってわけだ。勿論基本的なもんだけでよー、王国お抱えの技師の作る人形に比べて民間のはだいぶ劣ってたといわれてるわな。まあ、高ランクの冒険者になると国から人形が貸与されたらしいけどな。

 さて、そんな中で現れたのがかの伝説的な名工キューブ様だ!」

 

 おっちゃんは自分でしゃべってて興奮したのか水槽のふちをドンと叩いた。

 こらこら女の子がびっくりしてるじゃないか。


「天才というやつなんだろうな。民間の人形師でありながら、キューブ様の作る人形は王国お抱えの人形師のものと比べても遜色ない出来だったのよ。いや、物によってはそれ以上と評された。

 しかもだ!キューブ様は自分の技術を秘匿しないでどんどん弟子や同業者に伝えていったのさ。同業者にもだぜ!中々できるこっちゃねーわな。それで今みてーに民間でも王国所有のもんと同じ性能の人形を作れるようになったわけだ。

 いってみれば、俺みてーな民間技師が飯食えんのも全部キューブ様のおかげだな」


 おっちゃんはどうやらキューブという技師を尊敬してるらしい。

 奥さんが浮かべた表情からして、機会があれば熱弁を振るうんだろうなあ。


「しかしキューブ様の人形か……まさかこの手で触れることが出来るとはなあ。ありがとうよ兄ちゃん」


 うお!

 おっちゃん女の子の頭をなでながら涙ぐんでる。


「ほら、あんた。お客さんがびっくりしてるじゃないさ。この子はもう大丈夫だから早く登録しておあげよ」


 困った表情をしていたのだろう。奥さんが助け舟を出してくれた。


「おっ、おおそうだな。キューブ様の人形だと分かったらおかしなこと考えるやつもいるかも知れねえんだし、登録だけしちまうか。んじゃ兄ちゃん、手だしてくんな、手」


 手?指紋登録なんだろうか? 

 というか俺が登録していいのだろうか?

 前の所有者は契約を解除して捨てたらしいから問題ないとしても、この子の承諾とかいらないのか?

 

「はい、これでいいですか?」


 色々考えながらも言われたように手を出すと、がしっ!と手をつかまれる。


 えっ?なに?


「ちょっと痛いが我慢してくんな」

 といいつつアイスピックみたいな物で俺の手のひらをブスリと刺すおっちゃん。


 ぎゃあーーー。

 ちょっとおおお。

 痛い痛い痛いぞおっちゃん。


 どくどくと溢れる俺の血を見ながらおっちゃんは女の子に顔を向ける。


「こんなもんでいいか。おい嬢ちゃん早いところ飲んでくんな」


 促された女の子がハラリと巻きつけていた布脱ぎ捨て、ゆっくりと俺の手に唇を近づける。

 ペチャペチャ。


 裸の美少女が手のひらの血をなめている。

 なにこのプレイ。

 ちょっと興奮するんですけど。

 手はひたすら痛いけど……


 と、俺の頭の中でポンというシステム音が聞こえる。


【スキル 14歳から大丈夫が発動しました】


 ちょっとおおお。

 駄目え。

 発動しちゃ駄目エエ。

 視線を下に向ける俺。

 おう。発動したみたいだ。


「おっし飲んだ見てーだな。おい兄ちゃん冒険者カードだしなカード」


 俺は諸事情により中腰のままカードを渡す。


 受け取ったカードを女の子の肩にあて、何かブツブツとつぶやくおっちゃん。

 すると女の子の肩に、みたこともない文字でバーコードみたいな模様が浮かび上がる。

 これが所有者登録なのだろうか?

 はじめてあったときに肩をえぐられてたのはこのせいらしいね。


 しかし、冒険者カードにこんな機能まであるとはねえ。

 人形が冒険者に解禁されてるから作られた機能なんだろうか?

 冒険者カードは本気で万能だよな。


「まあ、こんなもんでいいかさて嬢ちゃん一応決まりだからな。誓いの言葉をたのむ」


「はい。固有ナンバーmkn-0019。第3世代戦闘ドール【シルク】はマスターである東雲圭様に忠誠をささげます。この契約は現時刻以降マスターからの自発的な契約の破棄又はマスターの死亡までは解除されません」


 そういって深々とお辞儀をする女の子。


 反射的に「あっはいこちらこそお願いします」

 とお辞儀する俺。


 感動的な場面だろうと思う。


 ブバッ

 なぜか噴出すおばちゃん。


 ああ、中腰のまま契約してるからだな。

 正直死にたい。


「よし登録完了。兄ちゃんお疲れさん。ほれこれ塗っときな」


 ガラス瓶をぽいっと投げてよこすおっちゃん。


「傷薬だよ。だからちょいしみるかもしれねーけど塗っといてくれや。傷が膿んじまうこともあるからな」


 それならいきなり手をぶっ刺すんじゃない!

 これから戦闘しなくちゃいけないかもしれないのに。

 などと考えながら手のひらに傷薬を塗る。

 

 おおっこの薬すげー。

 傷にかけたら一瞬でふさがってしまった。

 何でもありだなこの世界。


 感心しているとブルブルと震えだす冒険者カード。

 取り出して確認する。


 挑戦者<ケイ>さんが特別イベント<人形>をクリアーしました。

<ケイ>さんはスキル<幸運>を手に入れました。

<ケイ>さんは名工キューブのドール<シルク>のマスターとなります。

<ケイ>さんは特別イベントを2つ以上クリアーされました。

 おめでとうございます♪

 なお、特別イベント<人形>は消滅しました。

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