エピローグ
めまいの様な感覚がして頭をふる。
ゆっくりと目を開けると目の前には真っ暗な画面にスクリーンセイバーが表示されているパソコン。
周りを見回せば乱雑に散らかったアパートの一室。異世界に呼ばれる時に住んでいた俺の部屋だ。
俺は寝巻き代わりのジャージを着て椅子に座っていた。
あわててパソコンで日付を確認した。
日付は……メガネに異世界に呼ばれた時の日付だ。
まさか今までのはすべて夢だったのだろうか。それにしてはやけにリアルだったのだが。
冗談半分で鑑定と念じてみる。
名前 東雲圭
職業 冒険者
レベル 63
冒険者ランク 1等級の下
ステータス
HP 830/830
MP 830/830
筋力 415
体力 415
器用 415
知力 415
敏捷 415
精神 415
運勢 415
装備
右手
左手
頭
胴体 しまむらの服
足
装飾
装飾
スキル
<神殺し>・・・凄く痛かったんですよね 絶対に許さない
<伝説>・・・最も新しい伝説を紡ぐ者 すべてのステータスに大幅な補正
<英雄>・・・少女を救ったアクメド商店街の英雄 レベルアップ時すべての能力にボーナス
<制限解除>・・・レベル制限99まで解放
<幸運>・・・幸運になる
<究極鑑定>・・・見えるすべてが見える
<3次召集者>・・・美しき地母神【ミュー】により異世界より召喚された者
経験値倍増P・・・パーティメンバー全員の取得経験値2倍
刀の心得・・・剣道2段の腕前
第二種免許・・・安全運転しましょう
14歳から大丈夫・・・なにが大丈夫なんだよペド野郎
獣だって大丈夫・・・種族を超えて愛情を育むもの 要するにケモナー
脳裏に浮かぶステータス。
チッ。神殺しのスキル説明からするとメガネの奴は元気なんだな。やはり殺しきれなかったか。
……おいちょっとまて。
念のため椅子から立ち上がりジャンプしてみる。
ゴツン!
そんな感じで天井に頭をぶつけた。安アパートなので天井は低いがそれでも3メート近くはある。
身体能力もそのままのようだ。
夢じゃねエエエエ。というか消しとけよ神様。
■□■□■□■□
俺が現実世界に帰ってきて半年がたった。
分かってはいたことだが、あの神様連中は本当にいい加減だ。
今の俺ははっきり言って超人だった。
垂直ジャンプすれば軽く2メートルはジャンプできるし、10キロを全力疾走で駆け抜けることも出来る。
100メートルは自分で計ったので正確ではないのだが9秒フラットだ。
望めばオリンピックだろうがなんだろうが問答無用で金メダルなのだろう。
だが、そんな超人の俺はいまだにサラリーマンをやっていた。
年はいってるが、陸上選手にでもなってしまおうかとも思ったのだが……
戦場帰りの兵士が日常生活になじめなくて、精神的におかしくなってしまったり、また戦場に戻りたいと考えたりすることがあるらしいが、今の俺はまさにそんな状況だった。
刺激が足りない。なにをやっても面白くないのだ。
そんなわけで今日も今日とて残業代の出ない残業をして、俺は自分のアパートに帰ってきた。
エルナとシルクの出迎えのない、暗い部屋に一人で帰ってくる。
靴を脱ぎ、部屋の電気をつけようとした俺はそこで盛大にすっころんだ。新聞に足をとられたのだ。
大きく二つに引き裂かれた新聞紙。
そういえば今日の新聞に「重量挙げの佐々木選手日本記録更新!」とかいう記事があったのだ。
カラーの紙面ではで満面の笑みの佐々木さんに、写真でみたより大人っぽくなった幼妻が抱きついている。
イラッときて思わず新聞を破ってしまってから出社したんだった。
まあ、佐々木さんはよろしくやってるらしい。
機会があれば、飯でもたかりに行こうかな。多少は奢ってもらっても罰は当たらないだろう。
そんなことを考えながらお風呂の追い炊きのスイッチを入れ、パソコンの電源をつける。
疲れているけどメールだけはチェックしないとな。
古いパソコンなので立ち上がるのに時間がかかる。ビールをのみながら暇つぶしに部屋に転がっていた雑誌をパラパラとめくった。定期購読している【週刊ケモナー】だ。
なにをやっても空しい俺の唯一の心の慰めといっていいだろう。
「メールが10件届いています」
パソコンが立ち上がり、無機質な声でそう告げた。
雑誌を置いて立ち上がりビール片手に件名だけチェックする。
ロリッコ倶楽部のまみちゃんやかおりちゃん、あいちゃん、しほちゃん、みどりちゃんからの営業メールが多い。
携帯に直接くると万が一、人に見られた場合に紐無しのバンジージャンプをしなくてはいけないので、転送するようにしているのだ。
残りは通販会社からの新作案内だ。興味をそそられるものはほとんどない。
<コーギー×人妻>私はポチの飼い犬!というDVDだけ購入した。
最後のメールには差出人の名前がなかった。
スパムだろうと思って削除しようとした俺の手が止まった。
ブハッ!
と口の中のビールを噴出した。
ついに完成!ナプールⅡ!そんな文字が見えたからだ。
大急ぎでメールを開く俺。
帰ってきた!帰ってきた!あの名作オンラインゲームナプールが帰ってきた!
20年もの制作期間を費やし、ついに完成したナプールオンラインⅡ!
ご興味がある方は下のアドレスをクリックしてください。
そんな文面が書いてある。
20年とか誇大広告極まりないな。半年しかたってないんだけど。
そんなことを思いながらもにんまりと口元が緩む俺。
耳に狂気じみた笑い声が聞こえてきた。意識はしてないのだが俺は笑っていたらしい。
迷うことなくアドレスをクリックする。
めまいのような感覚がした。




