人形
光が収まりゆっくりと目を開けるとそこは異世界でした。
いや、だって目の前の舗装してない道路を馬車や荷車つけた牛とかが往来してるんだもの。
レンガ作りの、まるで中世ヨーロッパみたいな町並み。
あたりを行き交う人?も耳がとんがってたり耳が犬耳だったりするんだ。
体は人間なのに顔が犬とかいう人?もいる。
これだけのセットやエキストラを俺をだますためだけには用意しないだろう。
本気でここは異世界。メガネの言葉を信じるなら……ナプールの世界なんだな、という妙な興奮を覚える俺。
雑踏のにおいを大きく吸い込む。
ここは腹をくくってゲームクリアーを目指してみるか。
考えようによっては凄く貴重な体験をしているわけだし悩んでいても仕方がない。
たしか……メガネはゲームをクリアーしないと元の世界に返れないって言ってたよな。
ナプールのゲームでクリアーというと、ありきたりだがメインダンジョンでボスを倒すことだ。
とりあえずだ!
ここがナプールの世界を模して作った世界というなら、ナプールのゲームのイベントも起きる筈だ!
……起きるといいなあ。
というか、起きてくれないと困る。
お願いします起きてください。
そんな祈りをしながら必死に昔の記憶を思い出す。
確か町で起きるイベントがいくつかあったはずなんだ。
特に町の公園にはたしか財宝が埋まってるというイベントがあったはず。
まずはそれを確かめてみよう。
支度金がどれぐらいの価値があるか分からないしね。
家もないわけだから宿屋に泊まらなくちゃいけないし、お金は手に入るのならば手に入れておいたほうがいいだろう。
まずは拠点の宿を探して、公園でお金が手に入らないか試してみよう。
宿とか公園ってどこにあるんだろう?
……まあ公園というぐらいなんだから町の中を歩いていれば見つかる……はず。
たぶん、きっと、メイビイ。
ひとまず大通りを人の流れにそって歩きながら、道々メガネからもらった名刺ぐらいの大きさの冒険者カードというものをチェックする。
重要な情報とか地図があるかもしれないしね。
氏名 東雲圭
職業 冒険者
ランク 6等級の下
お金 10000ヘル
賞罰 なし
以上
つ、つかえねえ
お金はこのカードで払えるんだろうか?
メガネはチャージしたといっていたからお財布携帯みたいな感覚で使うのだろう……多分。
中世みたいな世界観のナプールの世界だと、凄いオーバーテクノロジーのような気がするけど深く突っ込むのはやめよう。
硬貨を何万枚も持ち歩けないから便利だし。
しかし、この冒険者ランクというのは何なんだよ?
ナプールのゲームにはなかったぞ。
何とかというナプールにはまった神様が独自要素を付け加えているんだろうな。
おそらくは色々なゲームからパクって……
メガネともども死ねばいいのに。
などと考えていたせいだろうか気が付くと俺は、大通りを少し外れてちょっと薄暗い路地に入り込んでしまっていた。
大通りに沿いに公園があるのか分からないけど、人がいないとこは治安が悪そうなので可能な限り大通りを歩くべきだよな?
と大通りに向かい歩き始めたとき、なにか小さな物音が聞こえたような気がして俺は足を止めた。
耳を澄ますが何も聞こえない。
空耳かな?
「……て」
ん?
「たす・・け・て」
いや確かに聞こえた。
どこからだ?
あたりをぐるっと見渡すが人影はない。
目に入るのは樽とか木桶とかの残骸がうずたかくつまれたごみ置き場。
不法投棄かもしれないけど。
「たすけて」
おっ確かに聞こえる。
俺は方向を見定めるために耳に手を当て声の聞こえる方向を調べる。
うーん、どうやらごみの山の中から声がしているようだ。
ど、どうしよう?
なんか得体の知れない物体とかあって臭いも凄いんだけど。
いや、でもこれは怪我人だったりしたら見捨てることなんて出来ないし、もしかすると何らかのイベントかもしれない。
しかたがないか。
ということでごみを掻き分ける。
ううっ汚い。
カサゴソとごみの山を掻き分けて、大きな材木をどけると子供らしき小さな手が見えた。
人だ!
あわてて材木や木屑なんかをおおいそぎで掻き分ける。
そこにはボロボロの服というかほとんど雑巾みたいな布をきた女の子が横たわっていた。
肩口で切りそろえられた髪は木屑がいっぱい付いているし、顔や手足もヘドロみたいな汚物にまみれているけれど、まるで人形のような端正な顔立ちの女の子。
とてもかわいらしい子だ。
暴行されてここに捨てられたとかなんだろうか?
「もしもし大丈夫ですか?」
「もしもし」
ほほをぺしぺし叩く。
肩に手をやってゆするが女の子は全然反応しない。
手のひらに伝わる体温も凄く冷たい。
ぬるっとした手を見てみると赤黒い液体がついている。
血が出てる。
びょ、病院に運ばないと。
慌てて女の子を抱きかかえ
って重!
何でこんなに重たいのこの子?
女の子はみた感じ150センチぐらいで凄くやせてるのに、俺が力を振り絞って何とか持ち上げることが出来るぐらい重い。
それでも何とか抱きかかえ大通りに戻る俺。
誰かに病院の場所を聞かないと……
歩いている主婦風のおばさんを捕まえる。
「すいません。あ、あの病院はどこですか?」
「病院?」
「あの、この子が怪我をしてて、手当てをしてくれるところを探してるんです」
「怪我だって!?」
と俺の抱きかかえている女の子を覗き込むおばさん。
「なんだい、人形じゃないか。怪我なんていうからびっくりしたじゃないさ。修理だったらほら、あの黄色い看板の工房でやってるよ」
人形って、おばさん。
そりゃこの子は人形みたいにかわいらしいけどさ。
「黄色い看板ですね!ありがとうございます」
女の子を抱えてダッシュする俺。
黄色い看板の店の扉にほとんど体当たりするようにあけて叫んだ。
「スイマセン!この子が怪我をしているみたいなんです!」