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俺と糞ゲー  作者: ピウス
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酒宴

 最近はずっと3人で行動していたので一人で道を歩くのはなんだか寂しい。

 そんなことを思いながらの工房の帰り道。俺は目に付いた酒屋でお酒を買った。

 宿屋のお酒はきついので酸味の薄い軽いワインだ。

 エルナのお土産にあいつの好きな、ものすごくアルコール度の強いエールも一瓶買う。


 普段はシルクがいるのであまり飲まないが、今日ぐらいはあいつと差し向かいで飲んでみようと思ったのだ。明日は迷宮に潜らないで休養日にしよう。

 エルナの奴はいつも俺たちと一緒だったからストレスもたまっているだろうと思うしなあ。

 少しお金を渡して、羽を伸ばしてこいといってやろうかな?

 エルナを買った日に立ち寄った露天で摘みの豚蛙の串焼きと、血を流してたエルナのために内蔵の煮込みを買いながら俺はそんなことを考えていた。



「お帰りなさいご主人様」


 エルナがまだ寝ているかもしれないので起こさないようにそっと扉を開けたのだが、部屋に入るとそうエルナに声をかけられた。

 もう起きていたみたいだ。


「もう怪我はいいのか?」

「はい。多少痛みはしますが動いていた方が直りも早いですから」


 そう答えながらも匂いに気がついたのだろう。エルナの視線は俺が手に持った豚蛙の包みにロックオンされている。


「そうか。まあ無理はしないでくれな。ああ、シルクは今日工房に預けてきたから。久しぶりに飲もうか。どうせ明日は休養日にするつもりだし」

「はい。頂きますご主人様」


 嬉しそうに尻尾を振りながら俺と自分の木製のコップを部屋のテーブルに並べていく。


 テーブルの上に串焼きの皿を置いて二人でお互いにお酒を注ぎあった。

 異世界ワインを一口飲んで肉汁があふれる串焼きを一齧り。

 うん、おいしい。豚蛙はお酒によくあうのだ。

 エルナは内臓の煮込みをおいしそうに食べている。確か内臓なんかは鉄分が多いから貧血なんかに良いらしいし血を流したエルナにぴったりだと思う。


 色気はないが、それ以外に特に話題もないので迷宮の戦法の相談やモンスターへの対処法といった話をしながら二人でお酒を飲む。

 俺もお酒はそこそこ強いほうだがエルナはうわばみだ。

 顔色一つ変わらない。


「ご主人様は最初に比べればかなり上達されていると思います。ですが、モンスターの攻撃を避ける時に少し動きすぎです。もう少しギリギリで避けませんと……攻撃に移る場合や連続して攻撃が来た場合の対処が遅れます」

「なるほどなあ。今度から気をつけてみるよ」


 そうはいっても中々現実には難しいのだが。反射的に体が動いてしまうことも多いのだ。

 そんな話しをしながら俺は久しぶりに深酒をしてワインを一瓶あけた。

 エルナもエールを一瓶あけている。


 もう少し飲みたいので二人で酒場からお酒と摘みを持ち帰り2次会開始。

 迷宮なんかの話もし尽くして雑談になる。

 いい感じで酔っている俺がシルクの元の持ち主が酷い奴だったらしい、元の持ち主はカスだ!屑だ!変態だ!と怒りを込めて話しているとエルナがポツリともらした。


「私も捨て子だったんですよね」


 そう言ってコップのエールを飲み干す。


「ラインの町の冒険者ギルドの前に捨てられてたそうです。記憶にはないんですけどね」

「それでそのギルドに育てられたのか?」

「まさか。ギルドはそんなに親切じゃありませんよ。親切だったのは、そんな私を引き取って育ててくれた物好きな父です。そこの冒険者だったんですよ」

「へえ。いい人だったんだ」

「ええ。冒険者としてはいいとこ二流だったんですけどね。父と……母は私だけではなくていろんなところに捨てられてる孤児を拾っては面倒を見てました。それで凄く貧乏でしたけど」

「冒険者になったのもそれでか」


 よく考えればさ、エルナは奴隷になっているのだからこの話の行き着く先は愉快なものじゃないのは分かりきっている。

 話題を変えるべきなのだろうが、酔っている俺はそこまで頭が回らない。


「はい。私も15のときから資格を取って潜り始めました。父に手ほどきを受けてましたし、獣人ですので天職かなと思ったんです。父に恩返しもしたかったですし」

「恩返しか」

「ええ。私の下にもまだ妹や弟がいたので……。私がある程度強くなると稼げるお金は多くなりました。ご存知のように3人までは迷宮に同時に入ってもモンスターの強さは変わりませんから。両親と私の3人で少し深い階層にもいけるようになりました」


 そう言って手酌でエールをコップに注ぐ。


「でも少し欲を出したんですね。私たちは少し深く潜りすぎたみたいです。ある迷宮に潜ったとき、たくさんのモンスターに囲まれました。母はモンスターに食いちぎられて腕をなくしました。父は私と母を逃そうと……私も残ろうとしたんです。でも父がエルナお母さんを頼む、お母さんを連れて逃げろと……」


 言葉を切ったエルナはエールを一息で飲み干す。


「父は死に母は片腕をなくしたので収入はほとんどなくなりました。私はまだ半人前でしたしね。それで私は自分を奴隷屋に売ったんです。母はとめましたが……父が死んで自暴自棄になったいたんだと思います。もしかすると他の方法があったかもしれませんが」


 俺は黙ってエルナのコップにエールを注いだ。

 ペコリと頭を下げたエルナはまたも一息にそれを飲みほす。フウッと息を一つはき、すっきりとした表情で言った。


「まあ、でもいいご主人様にあえましたしこれはこれでよかったと思います」

「俺もいい相棒に会えてよかったよ」


 俺もエルナも少し照れてしまってなんとなく沈黙が続いた。


「あの?私の話ばかりでしたね。ご主人様の話しをお聞きしてもいいですか?」


 あまりよくはないんだけど……しかし俺だけだんまりというわけにはいかないだろうなあ。


「まあ、話せることは話すよ」

「じゃあ……あのご主人様は男色趣味なんですか?」


 ブバッ。

 思わずお酒を噴出す俺。

 なにを言い出すのさこの子。


「い、いやそんなことはないぞ」


 女の子は大好きです。


「そうなんですか。1月以上私にもシルクちゃんにも手をつけないので、てっきりそういうご趣味なのかと。佐々木という冒険者の方と頻繁に会ってらっしゃるようでしたし」

「まあ、いろいろ事情があってな」

「事情といいますと……いえ朝はお元気ですので違いますね」


 どんな想像をしたんだこいつは……

 というか毎朝みられてたのね。俺もまだ若いしこれはどうしようもない。


「まあ気にしないでくれ」

「気にしないでくれといわれても……手を出されないのは出されないで少し傷がつくといいますか……」


 エルナはなにやらいたずらを思いついたような顔をする。


「ご主人様は獣人のことはお詳しいのですか?」

「いや、ほとんど知らないな。エルナがはじめてあった獣人だしな」

「じゃあ、まったく知らないんですね?」

「あ、ああ、まあそうだな」

「獣人の習性なんかもご存じない?」

「ああ、ほとんど知らないね」


 なんか妙にくどい。というか微妙にエルナが俺の方に近づいてくるんですけど。


「さようですか。では獣人には発情期があるのもご存知ではないのですね?」


 えっ。そこは犬に近いのか。


「そ、そうか。それは知らなかった。もしもエルナがそうなったら教えてくれ。しばらく冒険をやすまないといけないから。なんなら俺と別行動をとってもいい」

「いえいえ、それには及びませんよご主人様。……発情期は今なんです」


 言うやいなや酒瓶を蹴倒しながら俺を押し倒すエルナ。

 ステータス的にはすでに俺のほうが筋力が強いのだが、酔っている上に不意をつかれてあっけなく組み伏せられる。

 

「お、おい待てやめろ」

「大丈夫ですご主人様。痛くしませんから」


 そういう問題じゃない!

 というかそれは男が言う台詞じゃないのか?

 エルナは顔色一つ変わらないから分からなかったが……こいつもだいぶ出来上がっていたらしい。


 ザラリとしたエルナの舌が俺の首筋をなめる。

 一月以上おあずけ生活してるうえに、いつも3人で泊ってたので黄金の右手も使っていない。

「オッス!」と元気に反応するマイサン。


 もみ合うことしばし。


 ……まあいいか。物は試しだ。

 お酒で混濁した俺は自分でもよく分からない結論を出して体の力を抜く。そんな俺に覆いかぶさってくるエルナ。



 ………………………………

 ……………………

 …………イタ!

 ……



 しばらくして俺の脳裏にポンというシステム音が響いた。

 ケイさんがスキル【獣だって大丈夫】を習得しました。

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