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俺と糞ゲー  作者: ピウス
25/36

深層

 「シルクはそのままそいつを正面で抑えていてくれ!俺は右から回り込んで背後から仕掛けるから、エルナは左を頼む。二人ともこいつが瞬きした後は光線に気をつけろよ!」


 そう指示をしながら俺はでっかい目玉に手足がついたモンスターの右側面に回りこむ。




 名前 死してなお見つめる者

 種族 不死者

 レベル 45


 ステータス

 HP 1000/1000

 MP 800/800


 筋力 400

 体力 500

 器用 450

 知力 400

 敏捷 350

 精神 400

 運勢 400



 装備

 右手 バスタードトライデント

 左手

 頭

 胴体  

 足  

 装飾  

 装飾 


 スキル

<新和の怒り>・・・HPが最大値の30%以下だとステータスに大幅に補正 

<魔法反射>・・・すべての魔法を反射する

<分解>・・・大瞳から放たれる光線に触れたものは高確率で塵に分解される

 石化付与・・・素手・大瞳からの光線による攻撃時高確率で石化の状態異常付与




 さすがに30階層のボス強烈なスキルだ。

 特に大きな目玉から放たれる光線は恐ろしい。

 佐々木さんによれば、光線を放つ瞬間に瞬きをするらしいのでそれに気をつけなければ。


 シルクが黒トカゲを討ち取ってからおよそ一月。


 連日大迷宮に挑み続けていた俺たちは冒険者たちの到達限界30階層までやってきていた。

 剣の扱いはまだまだエルナにははるかに劣るが、スキル<伝説>によって俺のステータスが実質20レベルアップしたので攻略速度が桁違いに上がったためだ。


 俺のレベルも30になっているしエルナは33だ。

 MPも増えているのであの銃を4発までは気絶しないで撃てるようになっている。

 強いとは思うが勝てない相手ではないとも思う。


 シルクが正面でうまく光線をかわしながら牽制してくれているので、なんとか俺は目玉の後ろに回りこむことに成功した。

 エルナと視線で合図を交わし同時に切りかかる。


 ザシュ!


 確かな手ごたえと共に俺のエーテルブレードが大目玉の背中に深い切り傷を穿った。

 もう一撃!

 そう思って剣を振りかぶると、何の前触れもなくモンスターの背中に小さな目玉が現れた。

 瞬きする小さな目玉。


 ゲッ!


 慌てて身を引く俺の髪を掠めるように光線が通過する。

 光線に焼かれた髪のこげる匂いが鼻についた。


「マスター!」


 叫びながら俺を援護すべくシルクが真正面からヤリモドキを振るい、大目玉の黒目の部分に大きな傷をつけた。

 どこから声が出ているのかは不明だが苦痛の叫び声を上げる大目玉。


 エルナもシルバーソードで目玉から生えている腕を狙って切りつける。

 不死者に対して攻撃力の上がるシルバーソードはさすがに鋭い切れ味を見せ、ズバッと三又槍をもった大目玉の細長い手を切断した。手首ごと地面に転がる三又槍。


 よし!武器がなくなった!


 そう俺が思うと同時にいきなり何十という小さな目玉がモンスターの体のあちこちに現れる。

 そいつらはいっせいに瞬きをすると光線を周囲に撒き散らした。

 大目玉から距離をとっていた俺と大きな目の正面にいたシルクはなんとかかわすが、攻撃した直後で態勢の崩れていたエルナは右肩と腿を打ち抜かれる。


「キャン」


 一声鳴いて、それでも足を引きずるように目玉から距離をとろうとするエルナ。

 そんなエルナに追撃をかけるようにまたも瞬く数十の目。


 まずい!


 俺はとっさに地面に剣を突き刺し、腰の銃を引き抜くと大目玉めがけて引き金を引いた。

 以前よりはるかに大きな赤い光が目玉を襲う。

 いくつかの小さな目玉が焼ききられたかのようにつぶれ、背後からの衝撃によろける大目玉。


 続けざまに引き金を引く。

 1発!2発!3発!

 同時にシルクも正面からヤリモドキで目玉の中心を突き刺す。


 それで終わりだった。


 シルクのヤリモドキに体を貫通された大目玉は体中を一瞬震わせるとその場に崩れ落ちていった。

 止め!とばかりにシルクがヤリモドキの斧の部分で目玉を両断するのを横目に俺はエルナの元に駆け寄った。


「エルナ大丈夫か?」

「スイマセン。油断しました。傷薬をかけましたので傷自体は塞がりましたが……」

「歩けるか?」

「ええっ、どうにか」


 そういって立ち上がろうとするが、よろけて地面に手を突く。


「マスター。エルナさんを私が運びましょうか?」


 大目玉から回収した大きな魔石を手に持ちながら、心配そうにエルナを見つめシルクが俺にそう提案する。

 最近シルクは前よりもずっと表情が表に出るようになった。スキルの状態異常完全防御が状態異常耐性に変化しているのを考えるとシルクはより人間に近くなっているのだろう。

 戦闘だけを考えるなら完全耐性の方が良いに決まっているが、シルクにとっては今の方がずっと良いだろうな。

 そんなことを考えながら俺はエルナに自分の肩を貸した。


「いや、一番強いシルクの手が塞がっているとモンスターに出会ったときに大変だから俺が肩を貸して歩くよ。エルナ、痛いだろうがなるべく敵の少ないルートでこの階の魔法陣まで誘導してくれ」


 俺の肩につかまりながらエルナがうなずく。


「じゃあシルク。エルナがあまり戦闘に参加できないから負担は大きくなると思うけど頼むな」


 そういって俺は30階層の魔法陣に向かって歩き出した。




 ■□■□■□■□




 傷自体はふさがっているが、血を失いかなり体力を消耗しているエルナを宿のベッドに寝かしつけると、俺とシルクはおっちゃんの工房に向かった。

 ここ一月観察してシルクが力のコントロールを身につけたように思うのでおっちゃんにチェックしてもらうためだ。

 とはいえ、シルクのことを考えてもうしばらくは手を出すつもりはない。

 1月前のシルクの暴走のあと、俺の中に父性本能というのだろうか?この子に良い成長をしてもらいたいといった感情が芽生えているのだ。我ながらちょっと信じられないことではあるのだが。

 ……最近は凄く感情も豊かになってほとんど思春期の女の子みたいなので犯罪のような気がするし。


 まあ、それはおいといてと。


 シルクと手をつないで工房へと向かいながら世間話のようにさりげなく俺は話を切り出した。

 おっちゃんの工房ではもうひとつ出来ることがあったのを俺は忘れてはいないのだ。


「なあシルク。エルナの尻尾ってモフモフしてて可愛いよな」

「はいマスター。エルナさんの尻尾は素敵です。お風呂で時々触らせてくれるんです。とっても気持ちいいです」


 そうだろう、そうだろう。尻尾はやはりいいよな!


「な、なあシルク。もしよければシルクにも尻尾つけれるかもしれないんだけど……ど、どうかな?」


 ちらりと俺を横目に見てシルクが何事か考えているようだ。


「マスター。戦闘に邪魔だから私は尻尾はいりません。ごめんなさい」


 そういって頭を下げる。

 うっ。なんだかシルクに思惑を見透かされた様な気がする。


「い、いや、要らないんならいいんだ。要らないなら」


 かくして俺が長年夢見てきたシルク獣人化計画は終わりを告げたのだった。

 ……今度は犬耳を褒める線でいってみようと思う。




 ■□■□■□■□




「ランドさんこんにちは」


 挨拶しながら工房に入る。

 おっちゃんはいつものようにカウンターの奥で作業をしていた。


「おう兄ちゃん。いらっしゃい。ちょうどいい時にきたな。明日にでもお前さんところに呼びにやろうかと思ってたところだぜ」


 髭ズラをくちゃくちゃっとさせて笑顔を見せる。


「俺に何か御用があるんですか?」

「お前さんじゃねーけどな。どっちかてーと用があるのはシルクだ」

「シルクに?」

「ああ。そういや兄ちゃんついに30階層に行ったらしいじゃねーか。1月でそこまでいける奴はいままでおりゃみたことないぜ。てーしたもんだ」

「まあ、シルクのおかげですよ」


 シルクの頭に手を置いて答える。

 冷静さを取り繕おうとしているのか、一瞬嬉しそうな顔をするがすぐに表情を消すシルク。

 ああっもう。なんというかわいらしい生物なんだろうか!


「まあそれもあるだろうがよ。それだけじゃないと思うがなあ。でだ、そのシルクをもうちいっと強化してみないか?」

「強化ですか?シルクの能力はもう上がらないはずでは?」

「いやいや能力を上げるわけじゃねーよ。……興味があるならちょっとついてきな」


 そういってカウンターから腰を上げ奥に向かうおっちゃん。

 案内された奥の部屋のテーブルには布がかけてあった。


「これだよ。見てむらいてーのはよ」


 そういって布を取るおっちゃん。


「これは……なんですか?」


 現れたのは細長い長方形の箱だ。なぜか片方には無数の穴があけてある。


「へへ。まあ見てな」


 おっちゃんは箱を持ち上げると穴の開いたほうを部屋の奥の壁に向ける。


「いくぜ」


 そういった瞬間!


 ババババババババババババ!


 凄い勢いで箱から何かが飛び出した。

 驚きながら壁をみれば、ハリネズミのように無数の矢が突き刺さっている。

 なるほどねえ。つまりこれは弓矢版機関銃といったものらしい。

 ……神様はゲームのみならず漫画からもパクることを覚えたらしいな。見境無しにパクっているのでそんな義理はないのにこちらの方が心配してしまう。

 まあ、メガネの話だと人間ごときの法律は適用されないそうだが。


「どうよ兄ちゃん!王室お抱えの人形師が作った連射式の弓矢箱だぜ?100連装の弓矢が入ってるからな。迷宮のモンスターの殲滅力にかけちゃこいつはちょっとしたモンだぜ」

「弓矢の補充はどうするんですか?使い捨てでしょうか?」

「へへ。この箱の中にはよ、転移魔法陣が描いてあるのよ。転移元に補充の矢束置いておきゃいくらでも連射できるって寸法よ」

「凄いですね。是非シルクにお願いします。御いくらですか?」


 俺の言葉に意味ありげに口元をゆがめるおっちゃん。


「まあ本来なら1000万ってとこだがよ。うちの儲けを抜いて500万でいいぜ」


 おいおいおっちゃん。普段原価の2倍で商品売ってんのか?

 ぼろい商売してんのな。


「実費だけでいいってことですか?」

「ああ」


 おっちゃんはこんなにもお金に綺麗じゃなかったはずだ。

 怪しいぞおっちゃん。ジトーと猜疑の目でおっちゃんを見る。なぜか目を逸らすおっちゃん。

 ますます怪しい。回り込んでさらに無言の圧力をかける。


「実はよー。あいつがアレでよ」

「アレ?」

「アレだよアレ。腹が大きくなったんだよ」


 照れくさそうに顔を赤く染める。


「ああ、お子さんが……それはおめでとうございます」


 まさかこの言い回しで食べすぎでしたということもないだろう。

 おっちゃんはこんな顔しててもやることはしっかりやってたらしいね。実にうらやましい。


「あーありがとよ。正直この年まで出来なかったんで諦めてたんだがよ……そいでよ、ガキが生まれてくるんだからちったあ父親らしいこともしねーといけねーかなと思ってよう。ガキが生まれるんだから住みやすい町にしてーじゃねーか」


 照れてるのか髭をゴシゴシと触るおっちゃん。ちょっとかわいいぞ。


「大迷宮がなくなっちまったらオマンマの食い上げだという奴もいるがよ。あの迷宮がなくなりゃーこの間みたいな侵攻も少なくなるだろうしな。兄ちゃんはツエーからさ……頼むな」


 いままでの俺だとちょっと信じられないが、シルクという子供を持つ俺にはなんとなくおっちゃんの気持ちが分かったような気がするな。

 自分の幸せより子供の幸せ。それが親というものなんだろうと思う。


「俺に出来る範囲でまあ頑張りますよ。ところで、今日はこいつが力のコントロールが出来ているか調べてもらいに来たんですが……」


 そう言いながら俺はシルクの肩にポンと手を置く。


「あーそういやもう1月以上たってんな。そうさなーこいつの取り付けとシルクのチェックだと半日はかかりそうだが……シルクを今夜預かってもいいか?うちの奴も喜ぶと思うが」

「どうだ?シルク」

「はいマスター。私もリンさんと会えるので嬉しいです」

「じゃあお願いします。シルクも良い子にしてるんだぞ。リンさんに迷惑かけるんじゃないよ」

「大丈夫ですマスター」


 子ども扱いされて気に障ったのか、ちょっと頬を膨らませて不満そうにシルクが言った。本当に人間らしい仕草をするようになったものだ。

 このまま精神的に成長すればすばらしいことだと思う。

 シルクは身体的な成長は人形だから当然しない。つまり体は少女で心は大人という人類の夢(ロリババア)が完成するのだ。まったく夢が広がる。

 そんなことを考えながら俺はおっちゃんに声をかけると工房を後にしたのだった。

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