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俺と糞ゲー  作者: ピウス
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訓練

 俺は宿屋の裏庭で棒切れを手に正眼に構えた。

 エルナは無形の位……つまりただ立ってるだけだ。


 ちょっとカチンと来る俺。

 こう見えても俺は卒業するまでずっと、高校の剣道部で最もレギュラーに近い男と呼ばれていたのだ。多少の矜持はある。

 エルナにそんな気はないだろうが馬鹿にされたようで気分が悪いのだ。

 タン!タタン!

 足でリズムを刻んでエルナの頭を棒で殴りつける。

 兜をつけているのであたってもたいしたことはないだろう。


 手に持った棒で軽く受けるエルナ。

 そのまま鍔迫り合いの形になる。

 

 フッ

 ここで俺は高校時代の得意技、柄で相手の手を叩いて竹刀を落とさせるという大技を使う。

 剣道では相手が竹刀を落とせば反則で俺にポイントが入るのだ。

 因みに相手を場外に押し出してもポイントが入るので、この二つが俺の十八番だったのだ。


 ダメで元々のつもりだったがエルナは油断していたのだろう。小さな悲鳴を漏らしてあっけなく棒を落とした。

 おおっ!俺ってけっこうやるじゃん。 

 と、エルナはそのまま棒を拾うそぶりも見せず俺の腹に膝蹴りをかます。


「ゴブッッ」


 ひ、卑怯だぞエルナ。

 息が詰まっているのでなみだ目で訴えかける俺。

 そんな俺の無言の抗議にエルナは棒切れを拾うとちょっと犬歯を見せながらにっこりと笑っていった。


「さあご主人様。もう一度です」




 ■□■□■□■□





「もう結構ですご主人様。力量は分かりました」


 その後1時間ぐらい手合わせというかエルナによる一方的な蹂躙が続いたあと、ようやくエルナはこう言って棒をおろした。

 久しぶりの運動ですっかり息が上がっている俺。

 

「そ、それでどうだ?俺は剣で戦った方がいいのか?」


 取り組み直後の力士のように、あえぎながらエルナに尋ねる。


「斬撃のあと棒が流れないのはよかったと思います。私の棒を叩き落としたのもお見事でした。ただ……」


 ただ?


「やはり実戦向きではありませんね。あの?ご主人様は貴族様なのでしょうか?技が綺麗と言いますか素直というか……なぜ普通は防具がある頭や胴、手首を狙うのでしょうか?」

 

 いや、だって剣道だとそこしかポイント取れないんだよね。

 突きもあるがこれは当たり所が悪いと怪我をするからさすがにエルナに対しては使えないし。


「ああ、ダメか。じゃあモールとかメイスの打撃武器の方がいいのか?」

「いえ、基本は出来ているようなので剣のほうがいいと思います。おそらくご主人様の習っていた剣術は両手剣ですので、そういった武器の方が習得は早いと思います」

「しかし、実戦向きではないんだろ?」

「それはそうですが、それはこれから迷宮で経験をつんでいけばいいのです。他の武器を使うよりはるかに早く上達されると思います。私もお手伝いしますので」

「そうか……わかった。ありがとうエルナ。よろしく頼む」

「はい。お任せください」


 剣道やっててよかった。

 自分の武器に目処がついた喜びにようやく息の整ってきた俺は軽口を叩く。


「まあ、でも、お手柔らかに頼むよ。痛いのはあまりすきじゃないからね」


 エルナは勿論ですというようににっこりと微笑んだ。


「ご主人様。……痛くなければ覚えません」

 

 あらやだ。

 この子スパルタですよ奥様。



 シルクの出迎えを受けながら部屋に戻り、時計を見るとすでにいくらかお昼を回っていた。

 運動もしてお腹もすいたのでお弁当を広げて部屋の中で食べることにした。

 パンに肉を挟んだだけのシンプルなものだが中々の味だ。エルナは一心不乱に食べている。


 本当は下の酒場で温かいものを食べたいのだがお弁当が勿体無いしね。

 それに、お昼時だから凄く混雑しているし。ここは昼はランチもやっているらしい。

 蟻さんはどこの世界でも働き者なんだねえ。


 お昼のあとは3人で連れ立って冒険者御用達のランディのお店に行く。

 俺の武器を買うのだ。

 銃を装備しないのであれば、防具も買わないといけないし。



 俺が持てるようになるまでは銃のほうはシルクに持ってもらうつもりだ。

 シルクは人形なんでレベルがない。威力はレベル依存だから銃は使えないだろう。

 効率から言えばエルナに持たせるべきなのだが……


 エルナのことは、まあ信用している。まだ会って1日だが気持ちの良い奴だとも思う。

 しかし、何せ5億ヘルだ。日本円で最低でも5億はする。


 昔、会社に凄くお世話になった先輩がいた。

 新入社員の俺に色々と仕事を教えてくれた恩人だ。

 気のいい人でよく飯をご馳走してもらった。

 ボーナスが入るとたまにロリッコ倶楽部におごりで連れて行ってくれたりもした。

 

 その先輩がある日姿を消した。

 会社のお金50万を持って。


 聞くところによると大きな借金があったらしい。

 しかし50万だ。

 はした金ではないがそれで人生を棒に振るようなお金でもないだろう。

 それでも先輩はお金を持って逃げた。


 つまりなにが言いたいかというとだ。

 エルナは信用しているが魔がさすことは誰にでもあるだろう。エルナが変な気を起こさないように気を配ることも大事だと思うのだ。

 俺が奴隷で5億ももたされたら全力で逃げる。フィリピンあたりに高飛びする。


 まあ、エルナが装備しているものだけでもひと財産だが……

 最悪それはあとで買えるから問題ない。


 道々そんなことを考える。



 お店に入ると昨日散々散財したので店員さんに下にもおかない扱いを受けた。

 とりあえずエーテルの装備を買いたい旨を伝えると直接倉庫の方に案内してくれた。


 防具はエーテルブーツとエーテルの兜を購入する。

 軽くて堅いので筋力の低い俺には、ほぼこれ以外に選択の余地はないのだ。


 武器の方は入念に調べる。

 一口に剣といってっも色々な種類があるのだ。

 一般的なロングソードは重さで叩ききるという鉈みたいな使い方なので、刃の鋭い片刃の曲刀の中で実際に素振りをしながら選んでいく。

 残念ながら刀というものはこの世界にはないみたいだ。

 佐々木さんの持っていたのはどうやら特別なんだろうね。


 ……神様は男のロマンが分かってない。素手や槍が大好きな変わり者もいるだろが、きっとほとんどの日本の男は刀に言い知れない魅力を感じると思うのに。


 エルナの意見も聞きながら結局エーテルブレードという大きな剣に決めた。

 一番刀の感触に近かったのだ。

 刀の感触といっても模造刀を数度握ったことがあるだけだけど。


 試し切りのようにビュンビュンと振って具合を確かめる。


「うん、これにするよ」

「そうですか。私も賛成です。モンスターの中で鎧を身につけている者は少ないので、切りつける武器は有効だと思いますし」


 親身に意見をくれるエルナ。

 道々エルナに銃を持たせないとか考えていたのでなんだか罪悪感に染まる俺。


「そうだ、エルナやシルクは何か買うもんはないのか?」


 気まずいのでそう提案する。

 浮気がばれた夫が毎日お土産を買うような心境だ。


「私たちですか?そうですね……できれば下着や肌着が欲しいです。シルクちゃんは替えを持っていませんから」

「じゃあそれを買いにいこうか。シルクは何か欲しいものはある?」

「私は、あの、出来れば……服が欲しいです」


 ううっ。すまんシルク。そういえばお古の一着しか持ってないね。


「じゃあ、それを買いに行くか。他にも欲しいものがあれば遠慮しないで言ってくれな」

 




 お店を出るとあたりはすっかりと日が落ちて、綺麗な夕焼けに染まっていた。

 ……確かお店に入ったのはお昼をちょっとすぎた時間だったはずだ。

 二人の買い物は長かった。とことん長かった。

 どうして女性ってのはこうも買い物に気力を注げるのだろうか?男の俺には永遠にわからない謎だ。


 シルクの背中には大きな風呂敷みたいな布に入った大量の服がある。


 シルクが選んだ服をいちいち俺に見せに来るので、そのたびに褒めていたらそれを全部購入したらしい。

 いや、全部にあってはいたが……まさか全部買うとは。

 シルクが喜んでいるようなので文句なんてあろうはずはないのだが……

 エルナも何着かしっかり買っていた。


 まあいいか。今日は色々と二人に世話になったしな。

 これから迷宮に本格的に潜るようになればこんなこともあまりできなくなるかもしれない。

 明日からは迷宮に潜ってレベルアップと剣の練習だ。


 酒場の飯はおいしいけど今日ぐらいはちょっといいお店で食事して英気を養ってもいいな。

 そう俺が言葉をかけるとエルナとシルクのうれしそうな声が上がった。

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