先輩
昨日は早くに寝たためかまだ日の上りきらない時刻に目が覚める。
シルクとエルナはまだ寝ているようだ。メガネに呼ばれたけど体の疲れなんかはばっちり取れてるね。
すがすがしい朝だ。雀っぽい鳥の鳴き声が窓の外から聞こえる。
お風呂に入らず寝てしまったためちょっと体の匂いをかいで見る俺。
少し汗臭いがそれ程でもないんじゃないかな?
ただ、鼻の良いエルナが仲間だから、二人を起こさないように備え付けの水桶でタオルを濡らし体を拭っておく。
シルクの寝顔をじっくりと堪能したあとでジャケットを羽織り、お店で買った竹っぽい木で作ってある歯ブラシと塩で歯を磨く。
シルクに「マスターお口臭い」などと言われたら生きていけないからだ。
シーハシーハして確認するが中々どうして綺麗に磨けている。
トイレで用を足してからもう一度シルクの寝顔を見つめる。
「おはようございます」
後ろからエルナに声をかけられた。
一心不乱にシルクの寝顔を見ていたのでビクッとする俺。
トイレに行っている間に起きたのだろうか?
「お、おはようエルナ。昨日は寝てしまって済まなかったね」
「いえ、それは良いんですけど……」
なぜか言いよどむエルナ。
なに?
「ご主人様凄くうなされてましたが大丈夫でしたか?何度も、やめろメガネ!やめろメガネ!って叫んでらっしゃいましたけど……」
「……ああ、夢見が悪かったみたいだ。心配をかけてすまん。もしかすると毎晩うなされるかもしれないが気にしないでくれ」
「はあ、そういわれるのでしたら。正直起こそうかどうか迷ったんですけど」
「マスターお早うございます。エルナさんもお早うございます」
シルクが起きたようだ。
起こしてしまったんだろうか。
「お早うシルク」
「お早うシルクちゃん」
うむ。寝ているシルクもかわいいがやはり起きている方が数段上だな。
黒い綺麗な髪をちょっとぼさぼさにして、眠そうにベッドの上で目をこするシルクはまさに女神である!
「じゃあ、俺は下で朝飯を食ってくるから二人は自分の準備をしててくれ」
本当はシルクとご飯を食べたいがやはり装備を残して部屋を空けるのは不味いだろう。
それに、さすがにシルクが着替える時に俺がこの部屋にいるのは危険だしね。
俺が暴走する恐れがあるからだ。
「あっご主人様。今日は迷宮に行かれる予定ですよね?」
「ん?ああ、冒険者ギルドに一度顔を出してから行こうと思っているが」
「でしたら多分ここでお弁当を作ってもらえると思います。お値段はさほど変わりませんし、携帯食は不味いのでここで頼まれてはどうでしょうか?」
「ああ、そうだな。そうしようか」
エルナの表情は変わらないがうれしそうに尻尾が揺れている。
ここの料理は旨かったから気持ちは分かる。
「じゃあ行ってくる。タオルと歯ブラシは水桶の横に出しておいたから使ってくれ」
そういって酒場に向かった。
早すぎるからだろうか。 酒場は閑散としていた。
使用人らしき蟻のおばちゃんに朝食とお弁当を3つ注文する。
1つはエルナの食欲を考えて大盛りでと頼んでおくか。
朝食は日替わりでメニューが決まっているみたいで、今日はパンとミルクそして昨日エルナが食べていたベーコンを使ったベーコンエッグだ。
昨日食べ損ねたので早速いただく。
うん。うまい。このカリカリがたまらないね。
俺が朝食を楽しんでいると「よう、アンタが東雲圭さんかな?」
俺より10ばかり年上と見える鎧姿の男に声をかけられた。
がっちりとした体に無精ひげを生やしている眼光の鋭い男。
左右には、この男の仲間だろうか?額に刻印のあるいかつい大男とガチガチの重装備で固めた1体の人形が控えている。
人形といっても俺のシルクとは異なり何とか人間に見える程度の造形だが。
どうやら愛玩用じゃない人形は機能重視らしい。
……よかったシルクに出会わなければ俺もこんな人形だったかもしれない。
しかし何の用だろう?
俺は昨日レベルが上がったはずだが生憎と銃は部屋だ。
シルクを呼ぶべきだろうか?
そんな思案をしていると……
「おいおい、そんなに警戒しないでくれよ。俺もアンタと同じだよ」
手を上げて肩をすくめて見せる男。
「同じ?」
「ああ、アンタ日本人だろ?」
おおっ!この人もメガネに呼ばれた人だ。
内心驚く。俺より前の召喚者は皆死んでいると思っていたのだ。
「じゃあ貴方も?」
「ああ、俺は佐々木だ。佐々木 廉。最近手に入れたスキルでみたが……第一次召集者というやつらしいな。ここに来て10年にはなるが」
10年!あの神様たちに対して本気の怒りがこみ上げる。
人をなんだと思ってるんだあいつらは!
俺もクリアーできなければこうなるのだろうか?
……まてまて。この人究極鑑定持ってるのか。
不味いぞ俺のすべてが見えてしまう。俺を見つけたのも鑑定を使ったのだろう。
とりあえずだ。この人がスルーしているんだからこちらも冷静に話を続けよう。
佐々木さんは大人だ。こちらも大人の対応をするのだ。
「10年ですか……大変だったでしょうね」
「まあな。いきなりこの世界に放り出されて苦労なんてもんじゃなかったぜ。最初ここに連れられてきた奴は50人以上いたが生き残ってるのは数名さ」
「他にも生きている方がいるんですか!」
驚く俺。
「ああ、もっとも……もうゲームに参加してないがな」
ゲームに参加してない?どういうことだろうか。
「というと?」
「冒険者を辞めちまって町で生活してるよ。結婚して子供がいる奴もいるな」
ああ、そういう生き方もあるのか。
俺も迷宮に歯が立たなければシルクと2人で幸せに暮らそう。
「それで……ご用件はなんでしょうか?」
同郷の者に会いに来たという雰囲気じゃないんだよね。
佐々木さんは俺の向かい側の椅子の腰をおろす。
いかつい奴隷の大男に何か指示をすると大男が俺たちの周りから少し離れたテーブルに座った。
この大男には聞かせにくい話なのだろう。
「アンタ最近だろ?召喚されたの」
「ええまあ」
最近というか昨日だが。
「最近召喚されたにもかかわらず特別イベントを4つもクリアーしてる人がいるんで顔を拝みにきたのさ。出来れば情報交換もしたかったしね」
おいおい、あのカード冒険者皆に情報を伝えるのか?
それだと俺が15億も持ってることがばれてしまうから怖いんですけど……
もっとも、もう4億と少々しか残っていないが。
「あの情報は全部の冒険者に伝わるんですか?」
「いや、他の情報は共通らしいが……特別イベントの情報はどうやら俺たち異世界からの召集者だけのようだね。どういった理屈かは知らないが」
よかった。他の人からは襲われる心配が減った。
……でもこの人は知ってるんだよな。
「さて東雲君本題だ。俺は<財宝>のイベントの条件を知りたい。代わりに<牛頭>の特別イベントの条件を教えるが考えてくれないかな?」
おや?どうやら情報を完全に共有する気はないようだ。
考えてみればこの人さ、この世界で10年生きててまだ迷宮に挑戦してるんだよな。一筋縄ではいかないだろう。まずは鑑定してそれから考えるか。
男に目をやり鑑定と念じる。
名前 佐々木廉
職業 冒険者
レベル 50
冒険者ランク 3等級の上
ステータス
HP 304/304
MP 304/304
筋力 201
体力 152
器用 152
知力 152
敏捷 152
精神 152
運勢 152
装備
右手 《MURASAMAブレード》
左手
頭 《ヒルデグリム》
胴体 《メリディオン》
足 エーテルブーツ
装飾 シルバーロケット
装飾
スキル
<究極鑑定>・・・見えるすべてが見える
<1次召集者>・・・美しき地母神【ミュー】により異世界より召喚された者
熟練者・・・レベル制限50まで解放
現場監督・・・レベルアップ時筋力にボーナス
大型免許・・・トラックなんてありません
12歳から大丈夫・・・それって犯罪ですよね
……さすがに異世界で生き抜いてきただけあってレベルが高い。
いろんな意味で。
この変態はシルクに会わせない方がいいだろう。あまりにも危険だ。




