メガネさん再び
軽い立ちくらみのような感覚がして頭を振る。
……この感覚には覚えがあるんだけど。
嫌な予感しかしないので恐る恐る目をあける俺。
レンガの壁に囲まれた部屋に居た。
木の椅子に座ってる。もちろん床は石だ。
まるでヨーロッパの昔のお城の一室みたいな部屋……メガネに異世界に飛ばされた部屋だよ。
最初のときと違うのは天井になぜかでっかいクス球があることぐらいだ。
何でクス球?
この部屋に俺がいるということは、メガネにまた呼ばれたのだろうか。
なんの用事だろう?どうせロクでもないことなんだろうけど……
もしかして元の世界に返してくれるのだろうか?
いや、あのメガネや偉い神様はそんな親切ではないだろうなあ。
期待はするだけ無駄というものだ。
俺がそう悟りを開いていると、キィーという音を立てて部屋の扉が開いた。
扉から現れたのは……チクショウ!やっぱりメガネだ。
なぜか満面に笑みを浮かべたメガネはツカツカと俺の前にやってくると、いきなり手に持ったクラッカーを鳴らした。
パン!
あたりに飛び出す色とりどりの紙ふぶき。
同時に頭上にあったクス玉が割れ「レベルアップおめでとう♪」の垂れ幕が降ってくる。
……なんだこれ?
「東雲様おめでとうございます。レベルアップです」
「レベルアップ?」
「はい。東雲様はレベルアップに足りる経験値を持って宿屋に泊られましたので」
あーなるほど。
そういえば吸血鬼を倒したのにレベルアップしてないね。
ナプールは普通に敵を倒したらその場でレベルが上がっていたから、レベルアップの仕様はウィザードリィかなにかのゲームからパクッてるわけね。
……迷宮に宝箱があってもあけないようにしよう。
壁の中に生き埋めにされるのは嫌だ。
「あの、メガ……ミューさん。もしかして寝るたびに俺はここに呼ばれるんでしょうか?」
「そうですね。基本的にはそうなると思いますよ。あれ?なんで私の名前ご存知なんですか?人間ごときに名乗ってないと思うんですけど?」
ナチュラルに俺の神経を逆なでするメガネ。
本人に悪気がないらしいのがさらに腹立たしい。
このメガネは言葉遣いこそ丁寧だけどさ、俺のことなんてそこいらの小虫程度にしか思ってないんだろうな。あるいは玩具とか。
「ああそうか。スキルをご覧になったんですね。ラン様が面倒だって私に押し付けるから大変だったんですよね。もう最後の方なんて適当につけちゃいましたし」
あのスキル説明はやはりお前の仕業か!
自分で自分の説明に美しいだの輝けるだのよく書けるものだと感心するな。
俺はこれからレベルアップのたびにこの糞メガネに会わなくてはいけないのだろうか?
ちょっとキツイ。チェンジというシステムは無いのかなあ。
6回チェンジするとヤクザが来るらしいが……
「さてと、レベルアップですが……えー東雲様のレベルが現在1。3人で吸血鬼を倒されましたので……今回は5レベルアップですね。おめでとうございます」
おおっ!5つも上がればあの銃も装備できるんじゃないか?
いつの間にか手元に出したバインダーの紙をぱらぱらとめくりながら、メガネが何か確認している。
「東雲様の固有上昇値は……1ですか。才能ないですねー最低値じゃないですか」
ほっとけよ。
しかし5しか筋力上がらないのは困るな。
レベルを99まで上げても筋力は103じゃないか。
「ここにスキル<英雄>の追加上昇値が4加わりますので合計で5上昇ですね」
よかった。おっぱい蟷螂を助けて本当によかった。
人助けはしておくものだ。
吸血鬼退治は一粒で2度おいしいすばらしいイベントだった。
きっとカルンスタインさんも草葉の陰で喜んでくれていることだろう。
メガネが俺に手をかざすと柔らかな光が俺を包む。
「はい。ステータスアップの処理が終わりました」
俺の頭の中にステータスが浮かぶ。
名前 東雲圭
職業 冒険者
レベル 6
冒険者ランク 6等級の下
ステータス
HP 60/60
MP 60/60
筋力 30
体力 30
器用 30
知力 30
敏捷 30
精神 30
運勢 30
装備
右手
左手
頭
胴体 エーテルジャケット
足 布の靴
装飾
装飾
スキル
<英雄>・・・少女を救ったアクメド商店街の英雄 レベルアップ時すべての能力にボーナス
<制限解除>・・・レベル制限99まで解放
<幸運>・・・幸運になる
<究極鑑定>・・・見えるすべてが見える
<3次召集者>・・・美しき地母神【ミュー】により異世界より召喚された者
経験値倍増P・・・パーティメンバー全員の取得経験値2倍
刀の心得・・・剣道2段の腕前
第二種免許・・・車ないですけどね
14歳から大丈夫・・・なにが大丈夫なんだよペド野郎
えらく地域限定の英雄だが効果はすばらしいな。
アクメド商店街というのは多分、工房とかスキル屋さんがあるあの地区一帯のことなのだろう。
ただ、ステータスが上がったようだけど別に筋肉が増えたり、頭の回転が速くなったりといった実感はないな。
まあ、シルクやエルナも筋肉ムキムキじゃないしこの世界はこういったものだと割り切ろう。
あの銃が持てるようになるからありがたい。
「あの……これから俺はやっぱり異世界に戻されるんでしょうか?元の世界に返してもらうわけにはいきませんか?会社もあるので」
一縷の望みをかけてメガネに聞いてみる。
「なにいってるんですか!帰すわけないじゃないですか。東雲様は初日に4つも特別イベントをクリアーされてるんですよ?ラン様がそれはもう喜んでらっしゃいます」
帰してもらえないかやはり。まあ、「さようなら」も言わないでシルクと分かれるのもつらいしなあ。
……クリアーしたらシルクを持って帰ることは出来ないかお願いしてみよう。
「おかげさまで私も4級神に昇格しちゃいましたしね。あとはリュミスさえ何とかすれば私が同期で一番の出世頭なんですよね」
さらりと恐ろしいこというメガネ。メガネはやはり邪神の類なんだろうな。
しかし、同期とか出世頭とか神様の世界も色々大変らしい。
「そうそう。ラン様久しぶりに歯ごたえのある挑戦者だからと張り切って迷宮の改造してらっしゃいますよ。頑張ってくださいね」
おい馬鹿ヤメロ。
メガネそいつを止めろ!
「じゃあ東雲様お元気で。またお会いしましょうね」
そういって俺を不安にさせるだけ不安にさせると、俺に再度手をかざすメガネ。
例のごとくメガネの手からは柔らかい光がでて……俺の意識はブラックアウトするのだった。




