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銀と終末のトランスポーター  作者: 終乃スェーシャ(N号)
三章:照らす火、継ぐ炎
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信じられる誰か



 ウルルク協会管轄都市と同じような場所はそうないだろう。


 何せ朝が来ない。昼も無ければ夕暮れもなく、ずっと夜しかない街だ。建物も縦に連なり、都市内を巡る列車は環状線ではなく文字通り上下線だ。


 都市の外では朝焼けが空を染め切って、もうじき白昼の日差しが雲さえも貫いて突き刺している頃だが。この都市では暗闇ばかりが広がっていた。


 本物の空は遠く、路傍は狭く、夜の凍え乾いた風ばかりが吹いて、荒んだビルを撫でている。


 ディストが懐かしむように周囲を見渡しているなか、リーダーはジッと端末機を睨んで立ち止まった。皆が振り返ると、諦めたように首を横に振った。


「はーー……。幸先悪いことにまた嵐が来るらしい。数日はウルルクに滞在することになる。各々、自由行動よーし! ただし炎の探知を消すなよ。モーテルの情報は送ったから確認しておくように」


「よっしゃー! 車内泊じゃないのサイコー!」


 自由行動と言われるなりルサールカが明るい繁華街へと駆けていく。


「ルサールカ、今夜こそ、オレ達二人が仲良く一つのベッドでぶふッ!」


 ルーディオは無遠慮に殴り飛ばされて、隅でミルシャに介抱されていく。


 リーダーはいつもの様子だと思っているのか、そんな醜態に目も向けちゃいなかった。


「んじゃ、オレはオレで嗜好品の買い溜めと歌姫の新曲チェックと忙しいから。じゃあな」


「っ、俺はどうすればいいんだ!?」


 離れていくリーダーを、ディストは慌てて肩を掴み引き留めた。


「どうってなにがだ? 分からないことがあればレーニャに聞け」


「いや、だって俺は≪秒針≫だろ? それに銀雲急便としての仕事とか! けっきょく、炎だって上手く出せねえ。何か、何かないのか?」


 焦り。喉が渇くような焦りが体を突き動かそうとしているのに。何をすればいいかもわからない。


 アメリアの眼を継いだのに、向くべき前もわからないから、ディストは縋るようにリーダーに尋ねた。


「フッ。随分と困ってるみたいだし、オレが一番大事なことを教えてやる。それだけ頭の片隅に入れれば自由行動さ。お前はもう、とっくに知ってることだがな」


 グイと、顔が近づいた。


「お互いに何もなく誰も犠牲にならなきゃそれが一番だが……。けど、そうはいかない。何かが起きてもよくあることだろう? オレ達は結局、色付き(バケモノ)じゃねえし、大企業の庇護もねえ」


 緋色の瞳、アメリアから継いだ目をじっと覗き込むと、リーダーはふんと、小さく笑った。


「平凡なオレ達は死んで初めて語り継がれるんだよ。どう生きたかより、どう死んだかってな。だからな? 何かあったときにはすべきことがあるわけだ」


 そう言って瞳から銀の飛沫を散らした。炎が灯されていく。穏やかに揺れながらも、銀色は鋭く眩い。この場にいる誰よりも熱を帯びた芯だった。


「銀の燈火はな。感情を燃やして滾るが。……誰かに注がれて、継ぐことで火力を増すわけだ。俺の炎は七人だ。ジョシュア、シモン、デヴィッド、ニア、レヴィーナ、ディア、セレライト……。そうやって、俺の火は炎に変わった」


 銀炎を帯びた手がぎゅっと肩を掴んだ。焼けるような熱が奔るのに、痛みはない。純白にも似た光輝が夜の暗闇を照らしていく。


「……もしどうしようもないときは、お前が信じられる誰かを信じろ。信じるお前自身を信じろ。そのうえで、誰かに信じてもらえるお前になれ。俺達は全員そういうやつがいる」


 向かう双眸はあまりにも決然としていて。迷いはない。彼は……古い言い方をするなら漢だった。


「それって……結局どうすればいいんだよ」


 ディストは困惑し、気圧されながらも目を離すことはできなかった。


 むしろ釘付けにされるように銀色で視界を染めていた。


「何かあったら死ぬ気でやれば少しは足掻けるって話だ。理論じゃないからマニュアルも用意できねえ。感情論だ」


 投げやりな言い方だったが、想いを燃やす焔の使い方なんてそんなものなのかもしれない。無理矢理納得するみたいにディストは曖昧に頷いた。


「死ぬかもって思うなら、誰かを信じて全部託しちまえ。そいつを思い浮かべて、全て燃やせ。死力尽くせばガス欠だってどうにかならぁ。お前みたいなバカはいつも死ぬ気でいりゃ感情も意思も命も自由に燃やせるさ。マジで死んだとしても……そうそりゃお前の炎を、遺志を、想いを。誰かが継ぐか、継がれるんだ。それだけ覚えておけば後は好きにしとけ。ま、覚悟って点はお前は問題ねーか?」


「バカ言え。……俺は死ぬもんか」


 ディストは弱弱しい声で断言した。


 色の違う双眸でリーダーを見上げ、レーニャを一瞥していく。


「死んだら約束守れないだろ」


「ヒュー、火もつけてねえのに熱いこったな。まぁ死なねえ自信があるなら俺が教えることはもうねえだろ? あとは根性だ根性。どうせ醜く生きても後悔しかしねえからな。自分が正しいと思うことのために戦えよ? ……って説教臭えな。ハッ、あとは頼んだわ」


 バンと。調子づいた様子で背中を叩くと、リーダーは面倒ごとを全て、部下に押し付けて、混沌雑然とした市場のなかへと行ってしまった。


「いい迷惑だな……」


「こっちの台詞です」


 ディストのぼやきにレーニャが苛立つ。


 ルーディオは割って入るようにガシャガシャと金属音を軋ませた。


「本当だとも愚か者めが。オレは本当はルサールカちゃんとデートだったはずなのに!」


「殴り飛ばされてただろ……」


 ツッコミも無視。ルーディオは大げさに嘆いて、それから何かを閃いたとばかりに、不意に頭上に電球のホログラムを浮かべて見せた。随分と多才だ。


「お前に重要な任務がある」


 義体の頭部がちかちかと点滅すると、ルーディオは悪友のごとく肩を組んで、レーニャから、否、女から距離を取った。


「しっし! 作戦会議中だレーニャ! ミルシャ! 美人はそこでステイだ!」


「「…………はぁ」」


 深いため息が耳に残る。強引に組み付かれると、ルーディオの鋭い視線が突き刺さった。……気がした。


「お前……やけにルサールカからよしよしされてるだろ? オレはされないんだよ。そのさ、……聞けないか? ルサールカの奴に」


「はぁ? なにを」


「オレのことをどう想ってるかだよ!」


「出会って数日だぞ!」


「数日ここで滞在するだろ! それで一週間は超えるさ! 協力するならオレが銃ってやつを教えてやるよ。それに、銀の炎で空を飛ぶ方法もな。これは相当難しいぞ? 独学じゃまず無理だ。レーニャにもできねえ。リーダーですら数秒だ。焔に使う想いには個人差があるからな」


 銀の炎を灯し、その場で回転と旋回を繰り返していく。


 身体の軸がブレることもなく、やがてディストの頭上を飛び越えると、側頭部にそっと銃口が突き向けられた。


「脅しじゃねえか……。どのみち断る理由もなくなったが」


「オーケー。なら解放してやらぁ。愛しのレーニャちゃんのおっぱいでも揉んで来やがれ」


「なぁッー!?」


 ディストが素っ頓狂な声をあげると同時、レーニャの拳がルーディオを襲った。マウントポジションからの数発の殴打。


 鈍い音を響かせた後、何事もなかったかのようにレーニャの視線が向かった。


「…………胸を揉ませるわけがないだろう」


 クソ真面目な顔でそんなことを言うと。


 分厚い制服越しに、レーニャは真剣な表情のまま腕で胸を隠した。照れる様子もなく、ジトリと。眼差しが不満を述べる。


「んなこと言われなくても分かってるよ……」


 ディストは呆れたようにぼやいた。

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