表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀と終末のトランスポーター  作者: 終乃スェーシャ(N号)
二章:運び屋の生き方
10/21

面倒な世話



 二章:運び屋の生き方




 灼熱の風が長い銀の髪を撫でていく。


 白い砂混じりで自然と目を細める中、レーニャ・アルフィンテルンは低く眦を向けて一層、威圧的な表情を浮かべた。


 都市の門番に預けた車へと向かう靴跡に、カツカツと苛立ちが混ざる。


 ――嫉妬。そう、嫉妬だ。見苦しい。……新入り相手に。


 レーニャは自らを恥じながらも、滾る突き刺した感情を押し殺そうとはしなかった。睨んでいると目と目が合ってしまったから。


 ふんと、毅然とそっぽを向いて前へ歩き進む。早歩きで。


 ――ワタシは【銀炎】の一人娘だから、生まれた時から銀雲急便の一員だったから信頼を勝ち取れた。意思を示せた。だけどこいつは、ディスト・クラークスは一日足らずで銀の炎を扱ったうえに、一瞬でリーダーから気に入られて……。


 悟られないように今一度、ジトリと睥睨へいげいした。


「……精々挫けないでください。貴方が腑抜けたら最後、我々はあなたをお荷物として運搬しますので」


「さっきも言っただろう。準備はできた。俺には姉さんが遺してくれたこの眼と、この立場しかねえんだよ。腑抜けて逃げる場所なんてもう存在しない」


 ディストは嫉妬を見抜いているようだった。


 八つ当たりのようなきつい物言いにも、食って掛かるように正面から激突してきて荒々しい言葉が返ってくる。


 後を追う足音さえ、わざとらしく音を立てていた。


「おい、待て。二人で仲良く意気込んでるのはいいがまだ出発しないぞ」


 背後からリーダーの声が響いて、レーニャとディストはぴたりと足を止めた。


「なぜです。リーダー。すぐに街を出ると言っていたはずですが」


「いやいや、オレはこうとも言ったはずだ。準備ができ次第と。まぁこの都市で一晩を過ごすことはないって程度だ。まだ水も食料も燃料も購入してないだろう」


 ――そうだった。白い砂漠を横断するための物資補充をまだおこなっていない。ディスト……ディストの所為で何もかもがすっぽ抜けてしまっていた。


 レーニャは思い出すと同時、僅かに目を見開いて深く口を閉じた。こみ上げてくる紅潮が耳を染めるから、すぐに俯いて誤魔化す。


「そういうことだ。ディスト、さっきまで格好つけたことをいろいろ言ってたのに悪いが。初仕事代わりに買い出しを任せたいんだが行けるか?」


「ああ、ああ…………おう。了解です……。ですね」


 仕事口調と本来の言葉がごちゃ混ぜになりながら、ディストもばつが悪い様子で頷いた。ちらりとレーニャの様子を一瞥して、恥じる彼女に釣られるように顔を逸らしていた。


「……二人で行かせるのも不安になってきたな。ルサールカ、同行しろ」


「あいあーい。わたしが緩衝材になるよ。チクタク時限爆弾男女にお買い物は大変だろうからねぇ?」


 けらけらと笑って、ルサールカは緋色の髪を纏めた。大袈裟に腕を捲くってやる気をアピールしていく。


「HAHA! ……待て待て待て。ルサールカちゃんが行くならオレも行きたいんだが――」


 慌てて声を上げるルーディオ。その背後から音もなく小さな手が伸びると、義体の頭部を鷲掴んだ。ギギギギと、強く軋む音が鳴り渡る。


「ガギギギ……!?」


「ルーディオさんはミルシャと車両整備です……。えへ、二人で……頑張りましょうね」


 ミルシャの鮮やかな碧の双眸が、黒い髪の奥で恍惚に色づく。小さな手一つでルーディオを支配すると電撃を浴びせて、ガチャガチャと金属音を鳴らしながら強引に引きずっていく。


「アババババ……! 電気やめてっ! オレが壊れちゃう! 嗚呼、でも壊れたらルサールカちゃんがオレを全身メンテナンスしてくれたり――アババババ!!」


 ――なんて醜態だろう。同じ仲間として恥ずかしくなってくる。


 レーニャは冷たい視線でルーディオを見届けたが、ディストはディストで違った意図を以てミルシャ達を一瞥していたようだった。


「……俺が車両点検をしたほうがよくないか? ……よくないですか? こう見えても機械やらは詳しいです」


 ――点検を口実に、苛立つワタシからディストは距離を置こうとしているようだった。


 が、リーダーに言葉が響いている様子はない。


 むしろ距離感が掴めずに出てくる中途半端な敬語を前に、リーダーは気持ち悪さを隠すことなく辟易としていた。


「車両に詳しいかもしれないが、この街にずっと住んでて市場のことをわかりきってるのもお前だろう。あと! オレはお前のキマってるところが気に入ったんだ。……だからその微妙な言葉遣いはやめろ」


「……悪かったな。こっちだって色々覚悟してたんだよ。一歩目から躓いた気分だ」


 正面から露骨な嫌悪を向けられると、やさぐれるようにディストは本調子を取り戻していく。


「そうだ。お前はそっちのほうが似合ってる。アメリアがあんな態度だったら可愛げがあるが、お前は別に可愛くはねえ」


「ッチ。ふざけたこと言うな。姉さんはどんな態度でも可愛いだろう。適当な――――」


「ああ分かった。分かった。お前のシスコン話は酒を飲んでいるときに聞いてやる。今はレーニャからデータを共有しろ。それじゃ、あとは頼んだ」


 リーダーは逃げるようにとっとと行ってしまった。


「……レーニャ、それで何を買うよう言われたんだ?」


「あなたが知る必要はありません。ワタシが知っていればいいので」


「市場の場所がわかるのは俺だって言われただろ」


 ――そうだ。その通りだ。ならなぜリーダーはいちいちワタシを経由する。……わかりきっている。面倒な世話役を押し付けられたんだ。


 ルサールカだと新入りに優しすぎるし、ミルシャは自信がない。


 ルーディオは……悪い女遊びを教えるし仕事のさぼり方を最初に教えるだろう。


「……ッチ。まぁワタシが適任ですね」


 レーニャは舌打ちをしながらデータを送った。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ