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【三つ星シェフの異世界マンション経営】  作者: 月神世一


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33/35

EP 33

優也のスパイス探求(ダンジョン遠征)

 「カレーが食いたい」

 リビングに集められた住人たちを前に、優也は静かに、しかし重々しく宣言した。

 その目は、いつになく真剣だった。

 ナルシストな自分の像を見せられた精神的ダメージ、リーザの税金騒動、タロウ王の無茶振り……。

 蓄積したストレスを吹き飛ばすには、カプサイシンと複雑なスパイスの奔流が必要だった。

「カレー……! あの黄金のソースか!」

 獣王レオがゴクリと喉を鳴らす。

「フン、我も嫌いではない。白米が進むからな」

 竜王デュークも腕を組んで頷く。

「カレー! カレー!」

 キャルルとリーザがスプーンを持って踊り出した。

 全会一致だ。

 だが、優也は首を振った。

「普通のカレーじゃない。市販のルウや、そこらのスパイスでは俺の欲求は満たせない。……俺が求めているのは、魂を震わせる『究極のスパイス』だ」

 優也は、地下への扉を指差した。

「キュルリン。この地下ダンジョン『天魔窟』の深層には、希少な植物が生えていると言っていたな?」

 現場猫妖精キュルリンが、ヘルメットを被って敬礼した。

「はいヨシ! 地下50階層の『灼熱エリア』に、S級食材【マグマ・ペッパー】と、【黄金ウコン(ゴールデン・ターメリック)】の自生を確認しています!」

「よし。……行くぞ。食材調達ハンティングだ」

 ◇

 地下50階層・灼熱エリア

 そこは、文字通り地獄のような場所だった。

 壁面を溶岩が流れ落ち、空気は呼吸するだけで肺が焼けるほど熱い。

 快適なスーパー銭湯エリアとは隔絶された、真の魔境だ。

「あっつ……! サウナより熱いでありんす!」

 耐熱スーツを着込んだポポロが悲鳴を上げる。

「湿度がない分、まだマシだがな」

 優也は【熱耐性】のスキルを発動し、涼しい顔で歩を進めていた。

 一行(優也、レオ、デューク、キャルル、ポポロ、キュルリン)は、溶岩の池に浮かぶ浮島を目指していた。

 その中央に、燃えるような真紅の実をつけた木が見える。

 【マグマ・ペッパー】だ。一粒でドラゴンの舌をも麻痺させるという激辛の実。

「あったぞ! あれだ!」

 レオが指差した瞬間。

 ズゴァァァァッ!!

 溶岩の海が爆発し、巨大な影が飛び出した。

 全長20メートルはある、炎を纏った大蛇。

 深層の主、ヴォルカニック・ヴァイパー(討伐推奨レベル:国家戦力級)だ。

「シャァァァァァッ!!」

 大蛇が咆哮し、灼熱のブレスを吐きかける。

「ちっ、食材の番人か。……レオ、デューク。やれるか?」

 優也が問うと、二人の男はニヤリと笑った。

「愚問だな! 腹が減っている時の我は機嫌が悪い!」

 デュークが上着を脱ぎ捨て、筋肉を膨張させる。

「あの蛇、焼いたら美味いか!? 白身魚みたいな味か!?」

 レオが涎を垂らして飛び出した。

 戦闘開始。

 「オラァッ! カレーの邪魔をするなァァ!!」

 レオの拳が、大蛇の顎をカチ上げる。

 鋼鉄の鱗が砕け散る。

 「我の前で炎を操るとは片腹痛い! 消し炭になれ!」

 デュークが、大蛇のブレスを自身のブレスで押し返し、さらに倍の火力で焼き尽くす。

 「とどめです! 音速・野菜スティック切りぃぃ!」

 キャルルがいつの間にか懐に入り込み、安全靴の踵についた刃で、大蛇を輪切りにした。

 ドスーン……!

 国家戦力級の怪物が、わずか3分で「食材」へと変わった。

「……よし。蛇肉もゲットだな。淡白でカレーに合いそうだ」

 優也は冷静にアイテムボックスへ収納した。

 ◇

 邪魔者を排除した一行は、目的の【マグマ・ペッパー】へと近づいた。

 優也が慎重に実を摘み取る。

 手袋越しでも伝わる熱気。鼻を近づけると、ツンとくる刺激臭。

「……いい香りだ。これなら、最高の辛味パンチが出せる」

 さらに、近くの岩陰で、黄金色に輝く根菜を発見した。

 【黄金ウコン】。

 土を払うだけで、辺り一面に芳醇な香りが広がる。

「これもありんす! 【クミン・フラワー】と【コリアンダー草】でありんす!」

 ポポロが薬草のような植物を抱えてくる。

「完璧だ……」

 優也の脳内で、レシピが組み上がっていく。

 マグマ・ペッパーの爆発的な辛さ。

 黄金ウコンの深いコク。

 そして数多のスパイスが織りなす香り。

 それに合わせるのは、スタンピードで手に入れた大量の牛肉と、今しがた手に入れた蛇肉、そしてポポロの炊飯器で炊いた銀シャリ。

「帰るぞ。……今夜は『徹夜』で仕込みだ」

 優也の宣言に、全員がゴクリと喉を鳴らした。

 地上に戻った彼らを待っているのは、ただの食事ではない。

 世界を震撼させる「魔性のカレー」の誕生であった。

 ただ一人、地上で留守番をしていたリーザだけが、

「なんか地下から、すっごく辛そうな空気が上がってきてるんですけど!?」

 と、換気ダクトの前でむせていたのだった。

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