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【三つ星シェフの異世界マンション経営】  作者: 月神世一


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32/35

EP 32

動くイケメン像と破壊活動

 その朝、青田マンションの中庭から、優也の怒号が響き渡った。

「ふざけるな!! なんで動いてるんだ、こいつは!!」

 優也が指差す先には、ルナが制作した『全裸マッチョ優也像(ミスリル製)』が立っていた。

 だが、それはただ立っているだけではなかった。

 あろうことか、優雅なモデル歩き(キャットウォーク)で中庭を練り歩き、時折立ち止まっては、自身の二の腕にキスをしていたのだ。

「……美しい。太陽さえも、俺の輝きに嫉妬しているな」

 像が喋った。

 声帯まで再現されているのか、優也の声にそっくりな美声だ。ただし、口調は吐き気を催すほどキザだった。

 その足元で、ポポロ博士が得意げにドライバーを回していた。

「おや、優也。感謝するでありんす。ルナが『魂が足りない』と嘆いていたので、わっちが最新鋭の『自律思考AIナルシスト・カスタム』を埋め込んでやったでありんす!」

「余計なことをするな! そしてなんで性格がナルシストなんだ!」

「お主の深層心理を解析した結果でありんす」

「俺はそんなこと考えてない!」

 優也が抗議している間にも、ミスリル像――通称『メカ優也』は、暴走を続けていた。

 ◇

 「フッ……俺の肉体美に酔いしれろ」

 メカ優也は、洗濯物を干していたキャルルの元へ近づいた。

 ズシン、ズシンという重厚な足音(総重量3トン)。

「やあ、子猫ちゃん。俺の胸板(ミスリル装甲)で眠りたいのかい?」

「ひゃあ!? ゆ、優也さん!? でも全裸!? 硬い!?」

 キャルルは顔を真っ赤にしてパニックになり、洗濯カゴをひっくり返した。

 次に、メカ優也はキッチンへ侵入した。

 そこでは優也が朝食の目玉焼きを作ろうとしていたのだが、メカ優也が横から割り込んだ。

「退け、偽物。料理とは、エロスだ」

「やめろ、フライパンを触るな!」

 メカ優也がフライパンの柄を握った瞬間。

 グニャリ。

 ミスリルの馬鹿力で、鉄のフライパンが飴細工のように曲がった。

「ああ……俺の握力すら、この世界には強すぎるのか……罪な男だ」

「俺の愛用のフライパンがあああ!!」

 優也の堪忍袋の緒が切れた。

 自分の顔をした全裸の変態が、自分の声で愛を囁き、自分の道具を破壊する。

 これはもはや、精神的テロだ。

「……もういい。これ以上、俺の尊厳を傷つけるな」

 優也は無表情で、背後の男たちに合図を送った。

「レオ、デューク。……やれ」

「待ってましたァ!!」

「フン、目障りな道化だ。消してやる」

 朝食待ちをしていた獣王と竜王が、ニヤリと笑って立ち上がった。

 レオは拳をボキボキと鳴らし、デュークは口元に火の粉を散らせる。

「やめるのです! わたくしの最高傑作がぁぁぁ!」

 ルナが悲鳴を上げて止めに入ろうとするが、時すでに遅し。

 「オラァッ!! まずはその気色悪いポーズを崩してやる!」

 ドガァァァン!!

 レオの右ストレートが、メカ優也の顔面(優也そっくり)に直撃した。

 キィィン!! と甲高い金属音が響く。

「ふ、ふふ……無駄だ。俺のミスリルはダイヤモンドより硬……ぐべぇっ!?」

 さすがのミスリルも、獣王の怪力には耐えきれず、首が変な方向にねじ曲がった。

「仕上げだ。溶けて、ただのインゴットに戻るがいい」

 ゴォォォォォッ!!

 デュークが至近距離から極大ブレスを放射した。

「熱っ! 熱い! 俺の情熱より熱いぃぃぃ……! アデュー!!」

 断末魔と共に、メカ優也はドロドロに溶解し、最後には輝く銀色の鉄塊へと戻った。

 ◇

 静寂が戻ったキッチン。

 そこには、高価なスクラップ(元・メカ優也)と、曲がったフライパンが残されていた。

「……はぁ。朝からどっと疲れた」

 優也は頭を押さえた。

 精神的な疲労が半端ではない。自分の顔を殴られるのを見るのも、あまり気分のいいものではなかった(レオたちは楽しそうだったが)。

「……ストレスが溜まったな」

 優也は無意識に、口の中へ刺激を求めた。

 甘い珈琲キャンディではない。

 もっと、こう……脳天を突き抜けるような、強烈な刺激が欲しい。

 鬱憤を晴らし、五感を覚醒させるような――。

「……スパイスだ」

 優也の瞳に、料理人としての鋭い光が宿った。

「辛いものが食いたい。それも、中途半端な辛さじゃない。世界で一番、スパイシーで美味い『カレー』を作る」

 その呟きを聞き逃さなかったキャルルが、ピクリと耳を動かした。

「カレー!? 優也さんの本気カレーですか!?」

「ああ。だが、普通のスパイスじゃ足りない。……ダンジョンだ」

 優也は、地下への扉を見据えた。

 このマンションの地下深くに広がる『天魔窟』。そこには、地上にはない未知の激辛植物が自生しているという噂があった。

「総員、準備しろ! これより『究極のスパイス探索ツアー』を開始する!」

 優也の号令に、筋肉馬鹿たちと食いしん坊たちが歓声を上げた。

 破壊の次は、創造(料理)。

 青田マンションの食卓に、激辛の嵐が吹き荒れようとしていた。

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