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【三つ星シェフの異世界マンション経営】  作者: 月神世一


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30/32

EP 30

貧乏アイドルの「極上の贅沢」

 一夜にして小金持ち(資産:金貨15枚=約15万円)となったアイドル、リーザ。

 彼女の朝は、かつてない「貴族的な儀式」から始まった。

 朝のダイニングキッチン。

 リーザは震える手で、瓶の蓋を開けた。

 ポンッ、という軽快な音。

 それは、『果肉ゴロゴロ・特選イチゴジャム(780円)』の封印が解かれた音だった。

「……あ、開けちゃいました」

 彼女の目の前には、いつものパンの耳……ではなく、タロウマートで買ってきた『超熟・6枚切り食パン(本物)』が鎮座している。

 白い。ふわふわだ。耳だけじゃない、中身がある。

 リーザはスプーン山盛りにジャムを掬い、それを躊躇なくパンに塗りたくった。

 端から端まで。塗り残しなし。

 まさに、真紅の絨毯。

「い、いただきます……!」

 ガブリ。

「んん~~~~っ!!!」

 リーザが身悶えした。

 口いっぱいに広がる、パンの柔らかさと、ジャムの濃厚な甘酸っぱさ。

「甘い……! 果肉が……イチゴの形が残ってる! これが……これが『成功者』の朝食なのね……!」

 涙を流して感動するリーザを、キッチンでコーヒーを淹れていた優也が見守っていた。

 (……スーパーで売ってる中級ランクのジャムなんだがな。あいつにとっては王室御用達レベルか)

 ◇

 優雅な朝食を終えたリーザは、次なる贅沢へと向かった。

 王都のドラッグストアである。

 普段の彼女なら、試供品のコーナーで保湿を済ませるか、水で薄めた化粧水を使っている。

 だが、今の彼女は「ミスリル成金」だ。

 彼女は化粧品コーナーの棚の前で、仁王立ちした。

 視線の先にあるのは、『極潤・ヒアルロン酸化粧水(980円)』。

「……ふふ。今の私には、手が届く」

 彼女はボトルを手に取り、レジへと持っていった。

 支払いは、銀貨1枚(千円)。

 お釣りが来る。

「水じゃない……! この化粧水、トロトロしてるわ!」

 店の外で早速蓋を開け、手に取ってみる。

 その粘度に、リーザは戦慄した。

「すごい……! これ一滴で、いつもの化粧水1本分の潤いがあるんじゃないかしら!? 顔に塗るなんて恐れ多い……いや、塗るわ! だって私は金持ちなんだもの!」

 バシャバシャと顔に叩き込む。

 肌がモチモチになっていく。

 リーザは自分の頬を触り、「ああっ、指が吸い付く!」と独りで恍惚の声を上げていた。

 ◇

 そして、正午。

 リーザの贅沢は最高潮クライマックスを迎えた。

 場所は激安スーパー『タロウマート』。

 お弁当コーナー。

 いつもなら、閉店間際の「半額シール」が貼られる時間を狙い、さらにそこから売れ残って「廃棄寸前」になったものをハイエナのように狙うのが常だ。

 だが、今日のリーザは違った。

 昼の12時。ピークタイム。

 定価で並ぶ弁当の群れの中に、消費期限が迫って「20%引き」のシールが貼られたばかりの弁当があった。

 『豪華・海老フライ&ハンバーグ弁当』

 定価500円が、400円。

「……勝負ありね」

 リーザは、まだ温かいその弁当をカゴに入れた。

 半額を待たない。廃棄も待たない。

 20%引きという、一般市民と同じ土俵で「鮮度の良い弁当」を勝ち取ったのだ。

「海老フライが……入ってるぅぅぅ!」

 公園のベンチで蓋を開けた瞬間、リーザは嗚咽した。

 真っ直ぐに伸びた海老フライ。

 タルタルソースがかかっている。

 さらに、プチトマトという「彩り(栄養価のない装飾)」まで入っている。

「しっぽまで食べるわ……! ソースの一滴も残さない……!」

 サクッ。プリッ。

 口の中で海老が踊る。

 幸せ。圧倒的幸福。

「……あはは。お金ってすごい。お金があれば、こんなに幸せになれるのね……」

 リーザは空を見上げ、空になった弁当箱を抱きしめた。

 金貨15枚あった資産は、今日の豪遊(ジャム、化粧水、弁当、他にお菓子など)で、銀貨数枚分減っただけだ。

 まだまだ遊べる。まだまだ食べられる。

 この時のリーザは、知る由もなかった。

 「稼いだ金」には、必ず「支払うべき義務」が付いて回るということを。

 そして、その義務を執行する「悪魔」が、電卓を叩いて待ち構えていることを。

 ◇

 マンションへ帰宅したリーザ。

 肌はツヤツヤ、お腹はパンパン。

「ただいま戻りました~♪ 優也さん、お土産に『ポテトチップス(のり塩)』を買ってきましたわ!」

 上機嫌でリビングに入った彼女を待っていたのは、ソファに座る優也……だけではなかった。

 その対面の席に、黒いスーツを着こなし、分厚いファイルを膝に乗せた美女――リベラ・ゴルドが座っていた。

 眼鏡の奥の瞳が、キラーンと光る。

「おかえりなさい、リーザさん。……随分と羽振りがよろしいようですわね?」

「へ……あ、リベラさん?」

 リベラの指先が、テーブルの上の電卓を弾いた。

 タ・タ・タ・ターンッ!

「貴女、最近『臨時収入』がありましたわね? それも、申告していない大きな額が」

 リーザの背筋に、冷たい汗が伝った。

 幸せの絶頂から、奈落へのカウントダウンが始まった瞬間だった。

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