EP 28
ルナ画伯の芸術爆発
お見合い騒動から数日後。
青田マンションの優雅な午後が、重機のような轟音によって破壊された。
ズズズズズズズ……ドォォォォォン!!
1階のエントランス前に、巨大なトレーラー(ドワーフ製魔導運搬車)が横付けされ、何やらとてつもなく重い「物体」が荷下ろしされたのだ。
「……なんだ、あれは」
優也がエプロン姿で出てくると、そこには高さ3メートルはある巨大な「銀色の岩塊」が鎮座していた。
太陽の光を浴びて、神々しいまでに青白く輝いている。
「ごきげんよう、優也様。素晴らしい素材でしょう?」
その岩塊の横で、作業着(ドレスの上からエプロン)を着たエルフのルナが、恍惚の表情で岩を撫でていた。
「ルナ……これ、まさか『ミスリル』か?」
「ご明察ですわ! 世界樹の森の鉱脈から、最上級の原石を取り寄せましたの。お値段は……国家予算3年分くらいですわね」
優也はめまいを覚えた。
ミスリル。魔法銀とも呼ばれる伝説の金属。
指輪一つ分の量で城が建つと言われる超希少金属が、岩塊サイズでここにある。
「これをどうする気だ? ポポロに頼んで新しい鍋でも作るのか?」
「いいえ。芸術ですわ」
ルナは瞳を燃え上がらせ、優也を見つめた。
「先日のお見合いの時……不届きな公女を冷徹に切り捨てた優也様の表情。あの『悪のカリスマ』溢れる美しさに、わたくしの芸術魂が震えたのです!」
「……俺はただ『何の話だ』と言っただけなんだが」
「あの瞬間を永遠に残すべきですわ! このミスリルに刻んで!!」
ルナは懐から、彫刻用のノミ(これもミスリル製)とハンマーを取り出した。
「題名は『虚無とエロスを纏いし支配者』。さあ、制作開始ですわ!」
◇
カンッ! カキンッ! ガガガガガッ!!
それから三日間、マンションの中庭には、工事現場さながらの騒音が鳴り響いた。
ルナは不眠不休だった。
エルフの高位魔法【風の刃】で大まかに削り、繊細な部分は手作業で彫り込む。
超硬度のミスリルが、彼女の執念の前には豆腐のように削り取られていく。
そして、運命の除幕式。
「完成しましたわ……わたくしの魂の結晶が!」
中庭に集まった住人たちの前で、ルナが覆っていた布を引き下ろした。
バサァッ!!
そこに現れたのは、全高3メートルの銀色の像だった。
一応、モデルは優也らしい。顔立ちは優也だ。
だが、それ以外が全ておかしかった。
まず、全裸だった。
そして、筋肉がボディビルダー並みに盛られていた。
腹筋は8つに割れ(エイトパック)、大胸筋はメロンのように膨らみ、背中にはなぜか天使のような翼が生えている。
ポーズは、天を指差し、もう片方の手で自身の前髪をかき上げるナルシスト全開の構図。
「……誰だ、こいつ」
優也が真顔で呟いた。
「優也様ですわ! 貴方の内なる『野生』と『神性』を具現化したら、こうなりましたの!」
「俺はこんなにマッチョじゃないし、脱ぎたがりでもない」
「フン……筋肉のキレは悪くないが、広背筋の厚みが足りんな」
獣王レオが真面目に評論している。
「我のブレスで焼き入れをすれば、もっと艶が出るぞ?」
竜王デュークが余計な提案をする。
「きゃーっ! 優也さんの裸像! 刺激が強すぎますぅ!」
キャルルが指の隙間からガン見している。
芸術とは、理解され難いものだ。
優也は頭痛を覚えながら、一つ重要なことに気づいた。
「……おい、ルナ。足元」
像の足元には、削り取られたミスリルの破片や粉末が、砂山のように積もっていた。
原石の8割を削り落としたのだ。その量はトン単位になる。
「ああ、それはただの削りカスですわ。後でゴミ捨て場に……」
「ゴミじゃねえよ! ミスリルの粉だぞ!?」
優也がツッコミを入れたが、芸術家モードのルナには届かない。
彼女は恍惚と自身の作品(裸像)に見入っていた。
だが。
その「輝くゴミの山」を、茂みの陰から凝視している一人の少女がいた。
「……ミスリル……純度100%……」
貧乏アイドル・リーザである。
彼女の瞳孔は、金貨の形に開いていた。
右手にホウキ、左手に業務用のチリトリ。
「……お掃除しなきゃ。マンションの美化活動、大事!」
リーザはよだれを拭い、ハイエナのような忍び足で銀色の山へと近づいていった。
ここから、マンション周辺の経済を揺るがす「バブル」が始まろうとしていた。




