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【三つ星シェフの異世界マンション経営】  作者: 月神世一


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28/32

EP 28

ルナ画伯の芸術爆発ミスリル・イケメン

 お見合い騒動から数日後。

 青田マンションの優雅な午後が、重機のような轟音によって破壊された。

 ズズズズズズズ……ドォォォォォン!!

 1階のエントランス前に、巨大なトレーラー(ドワーフ製魔導運搬車)が横付けされ、何やらとてつもなく重い「物体」が荷下ろしされたのだ。

「……なんだ、あれは」

 優也がエプロン姿で出てくると、そこには高さ3メートルはある巨大な「銀色の岩塊」が鎮座していた。

 太陽の光を浴びて、神々しいまでに青白く輝いている。

「ごきげんよう、優也様。素晴らしい素材でしょう?」

 その岩塊の横で、作業着(ドレスの上からエプロン)を着たエルフのルナが、恍惚の表情で岩を撫でていた。

「ルナ……これ、まさか『ミスリル』か?」

「ご明察ですわ! 世界樹の森の鉱脈から、最上級の原石ピュア・ミスリルを取り寄せましたの。お値段は……国家予算3年分くらいですわね」

 優也はめまいを覚えた。

 ミスリル。魔法銀とも呼ばれる伝説の金属。

 指輪一つ分の量で城が建つと言われる超希少金属が、岩塊サイズでここにある。

「これをどうする気だ? ポポロに頼んで新しい鍋でも作るのか?」

「いいえ。芸術アートですわ」

 ルナは瞳を燃え上がらせ、優也を見つめた。

「先日のお見合いの時……不届きな公女を冷徹に切り捨てた優也様の表情。あの『悪のカリスマ』溢れる美しさに、わたくしの芸術魂が震えたのです!」

「……俺はただ『何の話だ』と言っただけなんだが」

「あの瞬間を永遠に残すべきですわ! このミスリルに刻んで!!」

 ルナは懐から、彫刻用のノミ(これもミスリル製)とハンマーを取り出した。

「題名は『虚無とエロスを纏いし支配者』。さあ、制作開始ですわ!」

 ◇

 カンッ! カキンッ! ガガガガガッ!!

 それから三日間、マンションの中庭には、工事現場さながらの騒音が鳴り響いた。

 ルナは不眠不休だった。

 エルフの高位魔法【風のウィンド・カッター】で大まかに削り、繊細な部分は手作業で彫り込む。

 超硬度のミスリルが、彼女の執念の前には豆腐のように削り取られていく。

 そして、運命の除幕式。

「完成しましたわ……わたくしの魂の結晶が!」

 中庭に集まった住人たちの前で、ルナが覆っていた布を引き下ろした。

 バサァッ!!

 そこに現れたのは、全高3メートルの銀色の像だった。

 一応、モデルは優也らしい。顔立ちは優也だ。

 だが、それ以外が全ておかしかった。

 まず、全裸だった。

 そして、筋肉がボディビルダー並みに盛られていた。

 腹筋は8つに割れ(エイトパック)、大胸筋はメロンのように膨らみ、背中にはなぜか天使のような翼が生えている。

 ポーズは、天を指差し、もう片方の手で自身の前髪をかき上げるナルシスト全開の構図。

「……誰だ、こいつ」

 優也が真顔で呟いた。

「優也様ですわ! 貴方の内なる『野生』と『神性』を具現化したら、こうなりましたの!」

「俺はこんなにマッチョじゃないし、脱ぎたがりでもない」

「フン……筋肉のキレは悪くないが、広背筋の厚みが足りんな」

 獣王レオが真面目に評論している。

「我のブレスで焼き入れをすれば、もっと艶が出るぞ?」

 竜王デュークが余計な提案をする。

「きゃーっ! 優也さんの裸像! 刺激が強すぎますぅ!」

 キャルルが指の隙間からガン見している。

 芸術とは、理解され難いものだ。

 優也は頭痛を覚えながら、一つ重要なことに気づいた。

「……おい、ルナ。足元」

 像の足元には、削り取られたミスリルの破片や粉末が、砂山のように積もっていた。

 原石の8割を削り落としたのだ。その量はトン単位になる。

「ああ、それはただの削りカスですわ。後でゴミ捨て場に……」

「ゴミじゃねえよ! ミスリルの粉だぞ!?」

 優也がツッコミを入れたが、芸術家モードのルナには届かない。

 彼女は恍惚と自身の作品(裸像)に見入っていた。

 だが。

 その「輝くゴミの山」を、茂みの陰から凝視している一人の少女がいた。

「……ミスリル……純度100%……」

 貧乏アイドル・リーザである。

 彼女の瞳孔は、金貨の形に開いていた。

 右手にホウキ、左手に業務用のチリトリ。

「……お掃除しなきゃ。マンションの美化活動、大事!」

 リーザはよだれを拭い、ハイエナのような忍び足で銀色の山へと近づいていった。

 ここから、マンション周辺の経済を揺るがす「バブル」が始まろうとしていた。

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