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【三つ星シェフの異世界マンション経営】  作者: 月神世一


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24/31

EP 24

大暴走スタンピードは「ウーバーイーツ」

 その日の正午。

 青田マンションの地下深くにあるポポロの研究室から、けたたましいサイレンが鳴り響いた。

 『警報! 警報! 超弩級の生体反応、多数接近中!』

 ポポロが血相を変えて、1階のリビングへ駆け上がってきた。

 その手には、震えるタブレット端末が握られている。

「大変でありんす! 優也! 国家転覆レベルの危機でありんす!」

「どうした、ポポロ。新型の冷蔵庫でも爆発したか?」

 優也はキッチンで、空っぽの冷蔵庫を覗き込みながら、気のない返事をした。

 ちょうど、ハンバーグ用の挽き肉も、ステーキ用のサーロインも切らしてしまい、今日のランチの献立に悩んでいたところだ。

「冷蔵庫どころじゃないでありんす! 『大暴走スタンピード』でありんすよ! 西の荒野から、S級魔獣ベヒーモスやマッドバイソンの群れが、数千頭規模でこっちに向かってるでありんす!」

 スタンピード。

 魔物が群れを成し、津波のように押し寄せて都市を壊滅させる災害。

 ポポロは涙目でモニターを見せた。画面が真っ赤に染まっている。

「このままじゃマンションが飲み込まれるでありんす! 魔王の結界があるとはいえ、数千頭の突進を受け続けたら、物理的に基礎が沈むかもしれないでありんす!」

 だが。

 その報告を聞いた優也の目が、怪しく光った。

「……ベヒーモスに、バイソン?」

「そうでありんす! 筋肉の塊みたいな牛系モンスターの群れでありんす!」

 優也はポンと手を叩いた。

 その顔から、危機感など微塵も感じられない。あるのは「商機」を見つけた料理人の顔だ。

「……なんだ。ただの『宅配便ウーバーイーツ』か」

「は?」

「ちょうど在庫が切れていたんだ。向こうから来てくれるとは、いい時代になったな」

 優也はポケットから通信端末を取り出し、マンション全館へ放送を入れた。

 『業務連絡。ランチタイムのスペシャルイベント発生。エントランス前にて、食べ放題ビュッフェを開催します。なお、食材は現地調達となりますので、筋肉に自信のある方はご協力ください』

 ◇

 放送から1分後。

 エントランス前には、涎を垂らした猛者たちが集結していた。

「ガハハハ! 肉か! 肉が来るのかユウヤ!」

 獣王レオが、ナイフとフォークを両手に持ち、準備運動をしている。

「フン、豚骨スープの次は牛骨スープか。悪くない」

 竜王デュークが、巨大な寸胴鍋を軽々と担いで現れた。

「運動不足解消には丁度いいな。ポポロ、解体用のアームを持ってこい」

 元勇者リュウが、電動ノコギリのような武器(工具)を構える。

「私も行きます! 音速の肉叩きを見せてあげますよ!」

 キャルルもやる気満々だ。

 彼らの視線の先、地平線の彼方から、土煙を上げて迫りくる黒い軍団が見えた。

 地響きが鳴り止まない。普通なら絶望する光景だ。

 だが、今の彼らにとってそれは、ただの「走るステーキ」にしか見えていなかった。

 そして、優也はエントランスの正面に、巨大な**『業務用鉄板焼き機(魔導火力式)』**を設置した。

「さあ、開店だ。……鮮度のいいうちに頼むぞ!」

 優也の号令と共に、怪物たちの宴が始まった。

 ◇

 ドガァァァン!!

 先頭を走っていた巨大なベヒーモスが、レオのラリアット一発で宙を舞った。

「一丁あがりぃ!」

 レオは空中でベヒーモスの首をへし折ると、そのまま優也の元へ放り投げた。

 ドスン! と鉄板の横に獲物が落ちる。

「よし。リュウさん、解体!」

「おうよ! 『神速解体ディスマントル』!」

 リュウとポポロのアームが目にも止まらぬ速さで動き、皮を剥ぎ、骨を外し、極上のロース肉を切り出す。

 その肉塊を、優也が受け取り、熱した鉄板へ放り込む。

 ジュワァァァァァァッ!!!

 凄まじい音と共に、脂の焼ける香ばしい煙が立ち上る。

 優也はコテを巧みに操り、表面をカリッと焼き上げ、中はミディアムレアに仕上げる。

 仕上げに、ニンニク醤油を回しかける。

 ジューーーッ!!

 (暴力的な香り!)

「へいお待ち! 『ベヒーモス・サイコロステーキ』だ!」

 優也が皿に盛って差し出すと、前線から戻ってきたレオがそれをひったくり、口に放り込む。

「熱っ! ……うんめぇぇぇぇ!!」

 レオは咀嚼しながら、再び戦場へ駆け出した。

「力が湧く! 次だ! 次の肉を持ってくるぞ!」

 ここからは、もはや戦争ではなかった。

 「わんこそば」ならぬ「わんこステーキ」状態だ。

 「我はカルビ派だ! 脂の多い部位を持って来たぞ!」

 デュークがマッドバイソンを小脇に抱えて戻ってくる。

 「あいよ! カルビ焼き、タレ多めで!」

 「優也さん! こっちの赤身もどうですか!?」

 キャルルが蹴り飛ばした肉を持ってくる。

 「いい色だ! タタキにしよう!」

 「あ、あの……私は何をすれば……」

 リーザがおずおずと尋ねる。

 「リーザはライスだ! 『オカマmk-II』から銀シャリを配給しろ!」

 「はいっ! アイドルの給仕、見せつけます!」

 次々と押し寄せる魔物の群れ(食材)。

 次々と焼かれる肉。

 次々と空になる皿。

 数千頭いたはずのスタンピードは、マンションに到達することなく、その手前で次々と「料理」へと変換され、住人たちの胃袋へと消えていった。

 ◇

 2時間後。

 荒野には、満腹で動けなくなったレオやデュークたちが転がっていた。

 鉄板の前には、最後の一枚を焼き終えた優也が、額の汗を拭っている。

「ふぅ……完売御礼だな」

 スタンピードは消滅した。

 マンションの巨大冷蔵庫(倉庫)には、向こう半年分の上質な肉と骨、そして素材(革や角)が備蓄された。

「……信じられないでありんす」

 ポポロが呆然と呟いた。

 彼女のタブレットには、災害レベルの反応が全て消失し、代わりに「摂取カロリー過多」の警告が出ている。

「災害を……食い尽くしたでありんすか……」

「言っただろ? ただの宅配便だって」

 優也は珈琲キャンディを口に放り込み、満足げに笑った。

 だが、これだけの肉が手に入ったのだ。

 ただ冷凍保存するだけでは芸がない。

「……よし。今夜は屋上で『祝勝会』といこうか。これだけの肉と、地下で冷やしたビールがあるんだ」

 その言葉に、倒れていた男たちがゾンビのように復活した。

「ビアガーデンか!?」

「ビール……! サウナの後のビール、そして肉!」

「やるしかないな!」

 青田マンションの宴は、まだ終わらない。

 次回、屋上ビアガーデンにて、さらなる混沌が幕を開ける。

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