EP 22
貧乏アイドル逆転劇! 新曲『ラブ&マネー』
公園での「鯖缶ランチ」から帰宅したリーザを待っていたのは、マンションのエントランスで仁王立ちする金髪の悪魔――いや、敏腕弁護士のリベラ・ゴルドだった。
「リーザさん。貴女、いつまでそんな『みかん箱』の上で歌っているつもりですの?」
リベラは呆れたように、リーザの抱えていた空き缶(今日の稼ぎ:銅貨15枚)を見下ろした。
「リ、リベラさん……でも、私にはこれしか……」
「貴女には『商品価値』がありますわ。顔よし、声よし、そして何よりその『雑草魂』。……私にお任せなさい。ゴルド商会の力で、貴女を本当のステージに立たせて差し上げますわ」
「えっ……本当ですか!?」
「ええ。ただし、マネジメント料は売り上げの30%。契約成立ですわね?」
リベラはニヤリと笑うと、指をパチンと鳴らした。
ここから、マンション住人総出の「リーザ・プロデュース計画」が始動した。
◇
その夜。
青田マンションのエントランス前広場は、一夜限りの特設ライブ会場へと変貌していた。
ステージ設営は、妖精キュルリンと元勇者リュウによる突貫工事(安全性ヨシ!)。
照明は、エルフのルナによる光魔法と、ポポロ博士の作ったミラーボール。
警備員は、獣王レオと竜王デュークという、世界最強の布陣。
そして観客席には、タロウ国王を筆頭に、噂を聞きつけた冒険者や、匂いに釣られた魔物たちがひしめいていた。
「準備はいいか、リーザ。衣装は俺が即席で仕立て直しておいたぞ」
優也が舞台裏で声をかける。
リーザのボロボロジャージは、優也の裁縫スキルとリベラの資金力によって、フリルたっぷりの『純白のアイドルドレス』へと生まれ変わっていた。
「は、はい……! 私、頑張ります! 鯖缶アイドルの汚名を返上します!」
リーザは深呼吸をし、マイク(ポポロ製拡声器)を握りしめた。
照明が落ちる。
ルナの魔法が、夜空に無数のスポットライトを描き出す。
「さあ、ショータイムですわ!」
リベラの合図と共に、イントロが流れた。
◇
新曲『ラブ&マネー』
軽快なポップサウンドが響き渡る。
リーザがステージ中央に飛び出した。
「みんなー! いくよー! 愛とお金を掴み取れー!」
♪ All: 愛!アイ!愛!アイ!ラ~ブラブ!
♪ All: (Fu Fu!)
観客席のタロウ王が、完璧なタイミングでペンライトを振る。「フッフー!」
♪ All: マネー!マネ!ローン!ダーリン!グ!
♪ All: (Yeah!!)
「ローン! ダーリン! グ!」の歌詞に、なぜか借金を抱えた冒険者たちが「イェーイ!」と涙ながらに叫ぶ。
【Aメロ】
リーザは少し気だるげに、でもキュートに小首を傾げた。
♪ 朝に目覚ましがなったわ (ジリリリ!)
♪ 私はまだ眠いわ (おはよー!)
♪ 朝シャンしなきゃ (Fu!)
♪ 朝メニュー食べなきゃ (パクパク!)
優也は舞台袖で思った。(……朝メニューはパンの耳だがな)
♪ 鏡の前で メイクをしなきゃ
♪ (魔法をかけて~! キュルルン♪)
ここでルナが光の粒子をリーザに振りまく。キラキラと輝く演出に、会場のボルテージが上がる。
【Bメロ】
リズムが変わる。リーザの表情が、貧乏少女から「スター」の顔へと変わっていく。
♪ さぁショーの始まりよ (It’s Show Time!)
♪ のんびりな私は 1LDKに置いて行くわ (バイバイ!)
♪ 扉を開ければ 私が主人公
ここで、最前列のタロウ王が、訓練されたオタクの動きで叫んだ。
(オ・レ・の! アイドルー!)
それに続き、レオやデューク、そしてオークたちまでもが野太い声で叫ぶ。
「オ! レ! ノ! ア! イ! ド! ル!!」
【サビ】
リーザの歌声が爆発する。今まで溜め込んでいた鬱憤と欲望を、全てエネルギーに変えて!
♪ 今日も私の為に世界が動く (まわって!まわって!)
リーザがクルクルと回ると、スカートが花のように広がる。
♪ 全て上手くいくわ (絶対!)
♪ 愛も欲も一つの物 (どっちもちょーだい!)
その瞬間、リベラが客席に向かって「集金箱」を掲げた。
歌詞の魔力か、リベラの圧力か。
観客たちが次々と財布の紐を緩め始めた。
♪ あれも欲しい♪ これも欲しい♪ (Want You! Want You!)
♪ 貴方の愛で生きていける (Fuuu~!)
カランカランカラン!!
ステージに、銅貨が、銀貨が、そして金貨が雨のように降り注ぐ!
これぞ、リアル・スーパーチャット(物理)。
【Outro】
キラキラした音と共に、リーザは天を指差した。
♪ だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ
♪ だから、何処までもついて来てね♡
会場全体が、一つになった。
人間も、亜人も、魔物も関係ない。
全員が、この「欲望に忠実な天使」に魂を抜かれていた。
(一生ついていくよー!!)
地響きのようなコール。
そして、リーザはカメラ目線(ポポロの記録映像用)で、最高に可愛いウィンクを飛ばした。
♪ ダーリン!
(チュッ♡)
ズキューーーン!!
最前列のタロウ王が鼻血を出して倒れ、レオが「尊い……」と膝をつき、デュークが「悪くない……」と葉巻を落とした。
◇
ライブ終了後。
控室(102号室)のテーブルには、山のような硬貨と魔石が積まれていた。
「す、すごい……! こんな大金、初めて見ました……!」
リーザは震える手で金貨を掴んだ。
パンの耳生活からの脱却。鯖缶を箱買いできる未来。
「大成功ですわね。さあ、こちらが経費とマネジメント料を引いた、貴女の取り分ですわ」
リベラが電卓を叩き、きっちりと山を分ける。
それでも、リーザの手元には十分すぎる額が残った。
「ありがとうございます! これで……これで優也さんに家賃が払えます!」
リーザは金貨3枚を握りしめ、優也の元へ駆け寄った。
「オーナー! 今月の家賃です! もう換気扇掃除は卒業ですよね!?」
「ああ。……見事なステージだったぞ、リーザ」
優也が金貨を受け取ると、リーザは安堵と達成感で、その場にへなへなと座り込んだ。
そして、ぐぅぅぅ~と腹の虫が鳴った。
「……お腹、空きました」
「そうだろうな。今日は鯖缶じゃないぞ」
優也はキッチンの蓋を開けた。
そこには、艶々に炊きあがった銀シャリと、肉汁たっぷりの『手ごねハンバーグ』、そして彩り豊かなサラダが用意されていた。
「アイドルは体が資本だ。しっかり食え」
「は、はいっ! いただきますぅぅぅ!」
リーザは涙を流しながらハンバーグを頬張った。
愛も、お金も大事だ。
けれど、温かいご飯こそが、最強の幸せなのかもしれない。
こうして、貧乏アイドル・リーザは「マンションの歌姫」へとクラスチェンジを果たした。
……ただし、翌朝にはタロウ王から「次は『演歌』でいこう!」と提案され、再び迷走しそうになるのは、また別のお話。




