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【三つ星シェフの異世界マンション経営】  作者: 月神世一


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22/35

EP 22

貧乏アイドル逆転劇! 新曲『ラブ&マネー』

 公園での「鯖缶ランチ」から帰宅したリーザを待っていたのは、マンションのエントランスで仁王立ちする金髪の悪魔――いや、敏腕弁護士のリベラ・ゴルドだった。

「リーザさん。貴女、いつまでそんな『みかん箱』の上で歌っているつもりですの?」

 リベラは呆れたように、リーザの抱えていた空き缶(今日の稼ぎ:銅貨15枚)を見下ろした。

「リ、リベラさん……でも、私にはこれしか……」

「貴女には『商品価値』がありますわ。顔よし、声よし、そして何よりその『雑草魂』。……私にお任せなさい。ゴルド商会の力で、貴女を本当のステージに立たせて差し上げますわ」

「えっ……本当ですか!?」

「ええ。ただし、マネジメント料は売り上げの30%。契約成立ですわね?」

 リベラはニヤリと笑うと、指をパチンと鳴らした。

 ここから、マンション住人総出の「リーザ・プロデュース計画」が始動した。

 ◇

 その夜。

 青田マンションのエントランス前広場は、一夜限りの特設ライブ会場へと変貌していた。

 ステージ設営は、妖精キュルリンと元勇者リュウによる突貫工事(安全性ヨシ!)。

 照明は、エルフのルナによる光魔法と、ポポロ博士の作ったミラーボール。

 警備員セキュリティは、獣王レオと竜王デュークという、世界最強の布陣。

 そして観客席には、タロウ国王を筆頭に、噂を聞きつけた冒険者や、匂いに釣られた魔物たちがひしめいていた。

「準備はいいか、リーザ。衣装は俺が即席で仕立て直しておいたぞ」

 優也が舞台裏で声をかける。

 リーザのボロボロジャージは、優也の裁縫スキルとリベラの資金力によって、フリルたっぷりの『純白のアイドルドレス』へと生まれ変わっていた。

「は、はい……! 私、頑張ります! 鯖缶アイドルの汚名を返上します!」

 リーザは深呼吸をし、マイク(ポポロ製拡声器)を握りしめた。

 照明が落ちる。

 ルナの魔法が、夜空に無数のスポットライトを描き出す。

 「さあ、ショータイムですわ!」

 リベラの合図と共に、イントロが流れた。

 ◇

 新曲『ラブ&マネー』

 軽快なポップサウンドが響き渡る。

 リーザがステージ中央に飛び出した。

「みんなー! いくよー! 愛とお金を掴み取れー!」

 ♪ All: 愛!アイ!愛!アイ!ラ~ブラブ!

 ♪ All: (Fu Fu!)

 観客席のタロウ王が、完璧なタイミングでペンライトを振る。「フッフー!」

 ♪ All: マネー!マネ!ローン!ダーリン!グ!

 ♪ All: (Yeah!!)

 「ローン! ダーリン! グ!」の歌詞に、なぜか借金を抱えた冒険者たちが「イェーイ!」と涙ながらに叫ぶ。

 【Aメロ】

 リーザは少し気だるげに、でもキュートに小首を傾げた。

 ♪ 朝に目覚ましがなったわ (ジリリリ!)

 ♪ 私はまだ眠いわ (おはよー!)

 ♪ 朝シャンしなきゃ (Fu!)

 ♪ 朝メニュー食べなきゃ (パクパク!)

 優也は舞台袖で思った。(……朝メニューはパンの耳だがな)

 ♪ 鏡の前で メイクをしなきゃ

 ♪ (魔法をかけて~! キュルルン♪)

 ここでルナが光の粒子をリーザに振りまく。キラキラと輝く演出に、会場のボルテージが上がる。

 【Bメロ】

 リズムが変わる。リーザの表情が、貧乏少女から「スター」の顔へと変わっていく。

 ♪ さぁショーの始まりよ (It’s Show Time!)

 ♪ のんびりな私は 1LDKに置いて行くわ (バイバイ!)

 ♪ 扉を開ければ 私が主人公

 ここで、最前列のタロウ王が、訓練されたオタクの動きで叫んだ。

 (オ・レ・の! アイドルー!)

 それに続き、レオやデューク、そしてオークたちまでもが野太い声で叫ぶ。

 「オ! レ! ノ! ア! イ! ド! ル!!」

 【サビ】

 リーザの歌声が爆発する。今まで溜め込んでいた鬱憤と欲望を、全てエネルギーに変えて!

 ♪ 今日も私の為に世界が動く (まわって!まわって!)

 リーザがクルクルと回ると、スカートが花のように広がる。

 ♪ 全て上手くいくわ (絶対!)

 ♪ 愛も欲も一つの物 (どっちもちょーだい!)

 その瞬間、リベラが客席に向かって「集金箱」を掲げた。

 歌詞の魔力か、リベラの圧力か。

 観客たちが次々と財布の紐を緩め始めた。

 ♪ あれも欲しい♪ これも欲しい♪ (Want You! Want You!)

 ♪ 貴方の愛で生きていける (Fuuu~!)

 カランカランカラン!!

 ステージに、銅貨が、銀貨が、そして金貨が雨のように降り注ぐ!

 これぞ、リアル・スーパーチャット(物理)。

 【Outro】

 キラキラした音と共に、リーザは天を指差した。

 ♪ だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ

 ♪ だから、何処までもついて来てね♡

 会場全体が、一つになった。

 人間も、亜人も、魔物も関係ない。

 全員が、この「欲望に忠実な天使」に魂を抜かれていた。

 (一生ついていくよー!!)

 地響きのようなコール。

 そして、リーザはカメラ目線(ポポロの記録映像用)で、最高に可愛いウィンクを飛ばした。

 ♪ ダーリン!

 (チュッ♡)

 ズキューーーン!!

 最前列のタロウ王が鼻血を出して倒れ、レオが「尊い……」と膝をつき、デュークが「悪くない……」と葉巻を落とした。

 ◇

 ライブ終了後。

 控室(102号室)のテーブルには、山のような硬貨と魔石が積まれていた。

「す、すごい……! こんな大金、初めて見ました……!」

 リーザは震える手で金貨を掴んだ。

 パンの耳生活からの脱却。鯖缶を箱買いできる未来。

「大成功ですわね。さあ、こちらが経費とマネジメント料を引いた、貴女の取り分ですわ」

 リベラが電卓を叩き、きっちりと山を分ける。

 それでも、リーザの手元には十分すぎる額が残った。

「ありがとうございます! これで……これで優也さんに家賃が払えます!」

 リーザは金貨3枚を握りしめ、優也の元へ駆け寄った。

「オーナー! 今月の家賃です! もう換気扇掃除は卒業ですよね!?」

「ああ。……見事なステージだったぞ、リーザ」

 優也が金貨を受け取ると、リーザは安堵と達成感で、その場にへなへなと座り込んだ。

 そして、ぐぅぅぅ~と腹の虫が鳴った。

「……お腹、空きました」

「そうだろうな。今日は鯖缶じゃないぞ」

 優也はキッチンの蓋を開けた。

 そこには、艶々に炊きあがった銀シャリと、肉汁たっぷりの『手ごねハンバーグ』、そして彩り豊かなサラダが用意されていた。

「アイドルは体が資本だ。しっかり食え」

「は、はいっ! いただきますぅぅぅ!」

 リーザは涙を流しながらハンバーグを頬張った。

 愛も、お金も大事だ。

 けれど、温かいご飯こそが、最強の幸せなのかもしれない。

 こうして、貧乏アイドル・リーザは「マンションの歌姫」へとクラスチェンジを果たした。

 ……ただし、翌朝にはタロウ王から「次は『演歌』でいこう!」と提案され、再び迷走しそうになるのは、また別のお話。

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