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【三つ星シェフの異世界マンション経営】  作者: 月神世一


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17/18

EP 17

筋肉マッスルシェアハウスとジム建設

 獣王レオが入居してから三日が過ぎた。

 青田マンションの朝は、今までにない種類の「破壊音」で始まった。

 バキィッ!!

 最上階で優也がモーニングコーヒーを飲んでいると、下の階から悲鳴のような金属音が響いた。

 セキュリティ警報ではない。もっと物理的な、建材が破壊される音だ。

「……またか」

 優也は珈琲キャンディを噛み砕き、ため息交じりにエレベーターへ向かった。

 ◇

 レオに割り当てられた305号室(リュウ一家の隣)。

 そのドアの前で、身長2メートルのライオン男が、うなだれていた。

 その手には、ひしゃげたドアノブが握られている。

「……すまん、ユウヤ。トイレに行こうとして、ちょっとひねったら千切れた」

「……」

 優也は視線を落とした。

 ドアノブだけではない。レオの足元のフローリングが、彼の体重と歩行の衝撃に耐えきれず、蜘蛛の巣状にひび割れている。

「あと、昨日の夜、寝返りを打ったらベッドが粉砕した」

「……そうか」

 獣王レオ。

 その身体能力は、規格外という言葉では生温い。

 彼の「普通」の動作は、マンションの建材にとっては「重機による破壊活動」と同義だった。

 魔王の結界は外部からの攻撃には無敵だが、内部からの純粋な物理圧力には対応していないのだ。

「このままでは、家賃(魔獣の肉)をもらう前に修繕費で赤字になるな」

 優也が頭を抱えていると、隣の部屋からリュウが出てきた。

 彼は壊れたドアノブを見て、ニヤリと笑った。

「よう優也。こいつは重症だな。この猫の旦那、出力調整ができてねえんだよ」

「出力調整?」

「ああ。有り余るパワーを発散できてねえから、日常動作に力が漏れちまうんだ。車で言えば、常にレッドゾーンでアイドリングしてる状態だ」

 リュウはメビウスを吹かしながら、レオの筋肉をポンと叩いた。

「解決策は一つだ。こいつのエネルギーを、建材じゃなくて『別の場所』で発散させてやるしかねえ」

 その言葉に、優也の脳内で閃きがあった。

 そうだ。食と住だけでは足りない。

 健康的な生活には、「運動」が必要不可欠だ。

「……やるか。増築だ」

 ◇

 優也はマンションの管理パネル(スマホ型)を操作した。

 **【オート・マンション】**の拡張機能を発動。

 魔力を大量に消費し、マンションの4階部分を丸ごと改装する。

 ズゴゴゴゴ……!!

 壁が移動し、床が補強され、空間が広がる。

 そして、ポポロに発注していた特注機材が次々と生成・配置されていく。

 「完成だ。名付けて『青田マッスル・フィットネスジム』」

 そこは、男たちの楽園(と地獄)だった。

 床は超高密度の衝撃吸収マット。

 ダンベルは鉄ではなく、重力魔法が付与されたアダマンタイト製。

 ランニングマシンは、時速300キロまで対応するキャタピラ式だ。

「おおお……! これは……!!」

 レオの金色の瞳が輝いた。

 彼は吸い寄せられるようにベンチプレス台へと向かった。

 セットされた重量は、とりあえず500キロ。

「フンッ!!」

 レオがバーベルを持ち上げる。

 軽い。羽のようだ。

「素晴らしい! これなら全力が出せる! 筋肉が喜んでいるぞ!」

 レオが高速でバーベルを上下させると、その熱気に釣られて、もう一人の男が現れた。

「……なんだ、騒がしいと思えば」

 1階から上がってきたのは、仕込みを終えた竜王デュークだ。

 彼は汗を流すレオを見て、鼻で笑った。

「おい猫。そんな軽い棒きれを持ち上げて何が楽しい? リハビリか?」

「あ? ……トカゲか。貴様にはこの『鉄の味』は分からんだろうな。ラーメンばかり作って腕がなまっているんじゃないか?」

 ピキッ。

 デュークの額に青筋が浮かんだ。

「……ほう。言ってくれるな。湯切りの動作は、剣の素振り以上に筋肉を使うのだぞ?」

「なら証明してみろ。このバーベル、貴様に上がるかな?」

 ゴゴゴゴゴゴ……!!

 再び、ジムに怪獣大決戦の空気が流れる。

 デュークは無言で上着を脱ぎ捨てた。スーツの下から現れたのは、レオに劣らぬ鋼の肉体だ。

「ポポロ! 重りを追加しろ! ありったけだ!」

「了解でありんす! 重力制御リミッター解除! 最大負荷、2トンでありんす!」

 ジムの隅でマシンの調整をしていたポポロが、楽しそうにダイヤルを回す。

 「ぬんっ!!」

 デュークが2トンのバーベルを持ち上げた。

 「フン、軽いな。次、4トンだ!」

 「ならば我は6トンだ! 見ていろ!」

 「10トンだ! オラオラオラァ!」

 「12トン! ヌオオオオオッ!!」

 ジムは瞬く間に、男たちの咆哮と金属音が響き渡る地獄と化した。

 優也は部屋の隅で耳を塞いだ。

「……マンションは守られたが、騒音問題が発生したな」

 ◇

 そこへ、新たな影が乱入した。

「優也さーん! 私もトレーニングしますっ!」

 スポーツウェアに着替えたキャルルだ。

 彼女は男たちのベンチプレス合戦には目もくれず、サンドバッグコーナーへ向かった。

「目指せ、音速の向こう側! 行きます!」

 彼女は右足の安全靴【雷竜石付き】を構えた。

 シュパパパパパパンッ!!

 目にも止まらぬ高速連打。

 サンドバッグ(トロールの革製・高耐久)が、くの字に曲がり、最後には「パンッ!」と破裂して中身が飛び散った。

「あ……やっちゃいました」

「……」

 優也は無言で在庫リストに「サンドバッグ補充」と書き加えた。

 ◇

 一時間後。

 汗だくになった男たち(とウサギ)は、ジムの隣に併設されたラウンジカフェで涼んでいた。

 「ふぅ……中々いい運動だったな、猫」

 「フン、貴様もな、トカゲ。背筋の仕上がりだけは認めてやる」

 全力を出し切ったレオとデュークの間には、奇妙な友情――マッスル・フレンドシップが芽生えていた。

 リュウもまた、ランニングマシンで一汗かき、爽やかな顔をしている。

「お疲れ様です。水分補給と栄養補給をどうぞ」

 優也がトレイを持って現れた。

 彼らが期待したのは、プロテインか、あるいはステーキか。

 だが、テーブルに置かれたのは――

 『特製・春のイチゴパフェ ~練乳ソースがけ~』

 可愛いグラスに盛られたバニラアイス。

 その周りを彩る真っ赤な完熟イチゴ。

 頂上にはホイップクリームが高くそびえ立ち、ミントの葉が飾られている。

 汗臭いジムには似つかわしくない、乙女チック全開のスイーツだ。

「……ユウヤ。これは?」

 レオが目を白黒させる。

「筋肉の回復には糖分が必要だ。それに、イチゴのビタミンCは疲労回復に効く」

 優也は真顔で言い切った。

「……ま、嫌いではないが」

 デュークが小さなスプーンを、丸太のような指で摘む。

 そして、パクリ。

「……ん。悪くない。冷たさが火照った体に染みる」

「うむ! この甘酸っぱさ、初恋の味だ!」

 レオも豪快に頬張る。

「キャー! 可愛い! 映えますね!」

 キャルルも大喜びだ。

 筋骨隆々の獣王と、ダンディな竜王と、元勇者が、並んでイチゴパフェを食べる光景。

 そのギャップ(Gap Moe)は凄まじかったが、彼らの表情は仏のように穏やかだった。

「……これで、ドアノブも壊さずに済むだろう」

 優也は満足げに頷いた。

 こうして、青田マンションに「ジム」という新たな施設が加わった。

 これにより、住人たちの戦闘力はさらに向上し、筋肉の結束も固まった。

 ただ一つ問題があるとすれば、ジム帰りのレオたちが発する熱気で、4階の室温が常にサウナ状態になってしまったことくらいだろうか。

 ……サウナ?

 優也の脳裏に、次の増築計画がふわりと浮かんだ。

 その時、地下から「ご安全に!」という元気な声が聞こえてきた気がしたが、それはまた次のお話。

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