表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【三つ星シェフの異世界マンション経営】  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/18

EP 10

そしてマンションは伝説へ

 翌朝。

 青田マンションの最上階、オーナーズルーム。

 目覚めの珈琲を淹れていた優也は、窓の外を見て眉をひそめた。

「……鳥が、避けて飛んでいくな」

 普段ならバルコニーの手すりに止まる小鳥たちが、マンションから半径100メートル付近に近づいた瞬間、見えない壁に弾かれるように――いや、恐れをなしてUターンしていく。

 魔王ラスティアが付与した『絶対不可侵領域アヴァロン・ゲート』の効果だ。

 物理的な防御だけでなく、「本能的な畏怖」を植え付ける結界らしい。

「セキュリティ万全なのはいいが、これじゃ郵便屋も来れないんじゃないか?」

 優也は苦笑しつつ、珈琲キャンディを口に放り込んだ。

 まあ、住人が住人だ。これくらいの防犯対策は必要経費だろう。

 彼は着替えを済ませ、日課の食材仕入れに向かうためにエレベーターで1階へ降りた。

 ◇

 エントランスホールは、朝からカオスな活気に満ちていた。

「五円~! 五円~! 廊下はピカピカ、私の未来もキラキラ~!」

 エプロン姿のリーザ(貧乏アイドル)が、謎の自作ソングを歌いながらモップがけをしている。彼女の丁寧な掃除のおかげで、床は大理石のように輝いている。

「おはようリーザ。精が出るな」

「あ、オーナー! おはようございます! 見てください、今日ゴミ捨て場に行ったら、まだ賞味期限内の牛乳が捨ててあったんです! 今日はラッキーデーです!」

「……そうか。腹壊すなよ」

 優也は彼女の逞しさに感心(呆れ)しつつ、自動ドアの方へ目を向けた。

 そこには、朝一番の出勤をしてきたリベラがいた。

「ごきげんよう、優也様。今日も良い『無罪日和』ですわね」

「おはようリベラ。……その後ろの行列は?」

 リベラの背後――マンションの敷地外には、黒いローブを被った怪しげな男たちや、どう見ても元山賊風の男たちが長蛇の列を作っていた。

 リベラのクライアントたちだ。彼らは結界の圧力に震えながらも、救いを求めて並んでいる。

「ふふ、噂が広まっているようですわ。『あのマンションに入れば、どんな追手からも守られる』と。私の事務所サンクチュアリとしては最高の宣伝効果です」

「……トラブルだけは持ち込まないでくれよ」

 さらに、ガレージの方からは重低音が響いてくる。

「おいタロウ! 今日の麺上げは何秒だと言った! コンマ1秒遅いぞ!」

「うるせえなトカゲ親父! こっちだって客足が途絶えなくて忙しいんだよ!」

 テナントの『麺屋・極竜』は、開店前から大行列だ。

 冒険者、近隣の農民、果てはお忍びの貴族までが、「一杯食べれば寿命が延びる」という噂を聞きつけて並んでいる。

 その行列整理をしているのは、元勇者のリュウだ。

「はいはい、押さないでくれよー。割り込みしたら、俺のレンチで配管みたいに曲げるぞ」

「パパかっこいいー! ママのお弁当まだー?」

「あらあら、リリスちゃん。結界の強度チェックが終わってからね」

 リュウ一家もすっかり馴染んでいる。

 セーラ(聖女)に至っては、魔王の結界にさらに自身の聖属性結界を重ねがけしており、マンションは今や「神魔融合要塞」と化していた。

 ◇

 優也はガレージから愛車【スレイプニル】を引き出した。

 ヘルメットを被り、グローブをはめる。

 その背中に、ウサギ耳の影が飛びついた。

「優也さーん! いってらっしゃーい!」

「うわっ、キャルルか」

 2階のベランダから飛び降りてきたキャルルが、ニコニコと笑っている。

 その隣には、優雅に紅茶を飲むルナの姿も。

「優也様、お土産はフルーツでお願いしますわね。できれば爆発しないやつで」

「お前が爆発させるんだろ、ルナ」

 優也はバイザーを上げ、住人たちを見回した。

 1階:世界最強のラーメン屋。

 2階:聖域無き法律事務所と、規格外の女子たち。

 3階:元勇者一家のメンテナンス部隊。

 最上階:女神と魔王の溜まり場。

 数日前まで何もない平原だった場所が、今や大陸で最も危険で、最も安全で、そして最も美味いものが食える場所になってしまった。

 その中心にいるのが、ただの料理人である自分だという事実に、優也は肩をすくめた。

「……まあ、退屈はしないな」

 彼はスロットルを回した。

 魔導エンジンが唸りを上げ、タイヤが大地を掴む。

「晩飯までには戻る。今日のメニューは『ハンバーグ』だ」

「「「やったぁぁぁ!!」」」

 住人たちの歓声を背に、優也はアクセルを開けた。

 風を切って走る。

 目指すは市場。そして、まだ見ぬ食材と、新たなトラブルの予感がする地平線の彼方へ。

 ――その頃。

 遠く離れた西方、「地下帝国ドンガン」。

 薄暗い研究室で、ピンク髪の幼女(100歳超え)が、怪しげなモニターを見つめていた。

「……反応ありんす。とてつもない『技術テクノロジー』の波動を感じるでありんす……!」

 マッドサイエンティスト・ポポロ博士のメガネがギラリと光る。

 さらに東方では、筋肉隆々の獣王が「美味い肉の匂い」を嗅ぎつけて鼻を鳴らしていた。

 三つ星シェフのマンション経営は、まだ始まったばかり。

 伝説は、ここからさらに加速していく――。

「行ってきます(ご安全に!)」

 青田優也は愛車と共に、異世界の大地を疾走していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ