43 衝突
宇宙港から宇宙を眺める豪奢な服装の女性がいた。
その背後にいる配下が頭を下げる。
「枢機卿、申し訳ありません。
今回の紛争が思いのほか長引いたせいで
代理戦にまで発展してしまい申し訳ございません」
「仕方ないわ、何事も思い通りにはならないもの。
それに現地の司祭たちが、勝手をしたんでしょ」
「そうなります。評議会でも不穏な動きがあります。
今回の代理戦次第では、つるし上げられる可能性があります」
「それも仕方ないわね。
権力欲にかられた連中を抑え込めなかった、こちらに責任がありますからね」
豪奢な服装の女性はそう言って嘆息する。
「いえ、そんなことはありません。
枢機卿の奉仕活動を勝手な解釈をして権力を求める奴らが悪いんです」
「評議会に連絡を。
こちらの意向を伝えて協力を願いましょう」
豪奢な服装の女性は振り返り、指示を出す。
「ですが、それでは我々の発言力が少なくなります」
「良いのよ、それで。
なまじ発言力が強いから権力欲に走る者たちが出るのだから。
このタイミングでバカたちの排除をしましょう。
それから、最新機の情報を西側にリークしなさい」
「それは、さすがにまずいのでは…」
部下の一人が困りはてる。
「そうです、まずいです。枢機卿の責任問題に発展します」
もう一人の部下も異議を唱えた。
「構わないわ、アレは非人道的な兵器だもの。
【神の名の元に】と言えば何でも許されると思っている連中に対する楔になるから。
他の宗派や団体のけん制にもなるでしょう」
「わかりました」
「さすがです」
と頭を改めて下げる部下を見て満足げの女性。
「【神の名の元に】なんて都合のいい言葉でやりたい放題するから。
宗教は変な目で見られるのよ。いい迷惑だわ」
と小さくつぶやく。
ミーティングルームの打ち合わせは続いていた。
ソプラ・バリトンは手に入れた機体情報を開示した。
それをタブレット端末で見た三人は絶句する。
「ねぇ、これホントなの?」
ジャスタ・ホワイトは渋い顔でつぶやく。
それは、タブレット端末に記載されている一文、
機体制御とAI搭載型自動砲台のコントロールの為、
感応インプラント端末を埋め込んだ人間を生体端末と使用している。
を見たためである。
男性二人も渋い顔をしていた。
「そうです。
輝聖教の使徒と呼ばれる人たちが生体端末です。
輝聖教の強硬派と呼ばれる人たちが、自分たちの権力の為に
人間を兵器として扱っているそうです」
ソプラ・バリトンは嫌そうな顔で答えた。
「つまり、今回の代理戦は、生体端末を壊さないと終わらないわけだ」
ノブテル・ミズマは静かに言う。
彼の言葉、生体端末を壊すこと。
つまりはパイロットを殺さないといけないという事である。
代理戦以外でも彼らは人を殺している。
前回の北側との対戦で嫌というほど経験している。
だからこそ、覚悟はある。
だが、今回は話が違う。
兵器としての扱われた人間だ。
ためらいなど持たない者たちだ。
そんな者たちと向き合い戦わねばならない。
殺さなければ殺される戦い。
どちらかが死ぬまで終わらない戦い。
本当の意味での殺し合いになるという事だ。
相手に情けをかければ、自分が死ぬことになる。
「そうです、これは代理戦という名の殺し合いです。
その為、西側東側ともに勝ち星を挙げたチームは、
みんな次の南側との対戦を嫌います。
相手がリタイヤすることがないのですから」
「なるほど、じゃあやるしかないね」
ノムイッカ・ラシタが言うと
「そうだな」
ノブテル・ミズマも同意する。
「何、簡単に割り切ってんのよ」
「今更だろ」
「そうだな」
「だけど…」
ジャスタ・ホワイトは、悩む。
確かに今まで何にかを殺してきた。
仕方ない事って考えて。
今度はそうじゃない、完全な殺し合いだ。
そうなるとどうしてもしり込みしてしまう。
「悩む必要性はないと思うぞ」
ノブテル・ミズマが言うと、
「何でそんな言い方出来るのよ」
ジャスタ・ホワイトが噛みつく。
「今更善人面しても仕方ないだろう、と言っている。
北側との対戦でさんざん殺してきただろう。
仕方なかった、と言ってもな。
それにな、相手は生体端末にされている人形だ。
情けをけてやる必要はない」
「それでも、人間よ。
確かにたくさんの人を殺したわ。
今更きれいごと言うつもりもないけど…
それでも人として大事なモノを失いたくないのよ」
泣き出しそうな顔でジャスタ・ホワイトが叫ぶ。
彼女を見て、ノブテル・ミズマは目を伏せて
「…そうか、なら今回は降りろ。
邪魔だ。ソプラ、チュクを呼べ。
あいつならキチンと割り切ってくれる。
そこの責任から逃げる甘ったれとは違うからな」
「何が甘ったれよ!」
「戦うってことは、きれいごとじゃない。
自分の選択に覚悟を持つことだ。
人は生きる上で命を奪っている。
自分が常に加害者であることを理解することが必要だ。
その上で戦うんだ。
命をうばった分だけ生きなきゃならない。
苦しみ悲しみを背負ってな」
「そんなこと言われたって…」
「やめな、仲間ウチで言い合いしても仕方ない。
いいかい、ジャスタちゃん。
撃つ、斬る、叩く。行動には責任と覚悟が生まれる。
それは向こうも同じだ。自分だけ安全な所にいる事なんてできない。
それは挑んでくる人をバカにしていることになるんだよ。
口だけの人間になりたくはないだろ」
ノムイッカ・ラシタが間に割って入る。
「どちらにしても、まだ日数はあります。
辞退しても構いません。次のミーティングで返答していただければ良いですよ」
ソプラ・バリトンが締めくくるように言うと
ジャスタ・ホワイトは悔しそうな表情を浮かべ、拳を強く握りこんでいた。
話のつじつまが合いません。
まとめようとしているんですけどね。
手ごわい事この上ない。
参りました。




