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第5話 誘い(いざない)

龍訊りゅうじん?」

俺は無意識に、自分の耳に指で触れる。


「はい、龍訊とは物や事象の声を訊き、その正しい使い方や理想的な行動を知ることが出来る能力です。時にはその場を守護する存在の声も訊くことができると言われています」


「場を守護する存在か。確かに戦いの最中、不思議な声が聞こえたな。年齢も性別も感じさせない、何か威厳のようなものがあった」


「景次さんが訊いた声は恐らく、土地神もしくは精霊だと思います。ですが……」

コトヒラはまた顎に手をあて、虚空を見つめている。


「どうした」


「なぜ景次さんが龍訊を使えるのかが疑問なのです。この能力は龍族の中でも限られた人物にしか扱えないとされている特別な能力なのです」


「龍族?」


「はい、龍族はこの世界を統べる存在…、いえ、かつてこの世界を『統べていた』存在です。そして龍族とその眷属は、魔物から敵とみなされ、執念深く命を狙われます」

冷たい風が吹いた。木々の葉や枝が擦れ、ざわざわと騒ぎ立てる。

なにか、よくない風だ――


「では、その龍訊とかいう能力を持つ俺も、魔物に狙われるということか」


「はい」

コトヒラは断言し、鞄を大事そうに抱えた。


「その話、気にはなるが、とりあえずここを離れようか。さっき倒した魔物の仲間が追ってくるかもしれん」


「仰る通りです。行きましょう」


◇◇◇


森を抜けるため、移動を始める。裸足での移動は辛いかと思っていたが、そうでもなかった。龍素を吸収したことで皮膚も強くなっているみたいだ。砂利や岩の上を踏みしめても足裏があまり痛くない。


途中、移動しながら何気なくコトヒラが持っている鞄に目をやると、微かに動いているように見えた。気のせいか?いや、確かに動いている。何か動物でも入っているのだろうか。


「なぁ、コトヒラ。鞄の中に何かいるのか?」

俺はカバンを指して聞いてみた。


「いえ、これは……なんでもありません。お気になさらず」

コトヒラは慌てて鞄を抱え直した。


「そうか……」

少しの動揺と、俺に対する警戒心がまた強くなっている。明らかに鞄の中に何かありそうだが、本人が言いたくないならそっとしておこう。


俺たちは森を抜け、川のそばへとたどり着いた。地面が一部抉れている。俺がここに来て最初に目を覚ました場所だ。


「ここで俺は目を覚ましたんだ。鉄の塊もここにあった」


コトヒラはしゃがみ込み、抉れた地面を観察したあと、神妙な顔で俺に問いかけてきた。

「景次さんはどこから、どうやってここに来たのですか?」


「分からない。俺は自分の部屋でだし巻き……いや、料理をしていたんだ。そうしたら窓の外に不思議な光を見て、気がついたらここで倒れていた」


「不思議な光、ですか」

コトヒラは腕を組んで首を傾げている。


「ところで、これからどうする。どこか当てはあるのか?」


「以前の町で補給していた食料などをリザードマンに襲われたときにほとんど無くしてしまったので、どこかで調達しなければなりません。この川を上流に遡ると、小さな町があります。そこに向かいましょう」


そして、コトヒラが次の目的地として予定していた小さい町に、補給ついでに共に向かうことになった。


川沿いを上流に向かって移動する。川の対岸は近いが、飛び越えて渡れるほどではない。水が綺麗で流れも穏やかだ。水を手で掬って少し飲んでみる。冷たくて美味しい。この世界に来て、初めて少し心が安らいだ。


「クルルゥ……」

コトヒラの鞄から、くぐもった鳴き声が聞こえてくる。小動物が何かを訴えているような声だ。


コトヒラは鞄を押さえ、少し声を張って俺に問いかける。

「景次さん。履物がないようですが、足が痛くありませんか」


「大丈夫だ。足裏の負担を少なくする歩法しているからな。それに、龍素とやらを吸収したことで皮膚も強くなっている。心配ない」


「そうですか……」


「それより、あとどれくらいで目的の町に着くかわかるか?」

川沿いにしばらく歩いたが、町らしきものはまだ見えてこない。


「そうですね。このペースで歩き続ければ、あと一日ぐらいでしょうか」

遠くを見つめながらコトヒラが言う。


「そうか、結構かかるな。そうすると陽が落ちる前に食料をなんとかしないとな」

太陽は中天を過ぎて、やや傾いている。

川に目を向けると魚が泳いでいるのが見えた。鮎に似ている魚で、結構な数が泳いでいる。

しかし吊り上げるにしても竿も糸も餌もない。どうやって捕まえるか。


そうだ。この剣太刀つるぎたちを使えば捕れるかもしれない。

思いついた俺は川にざぶざぶと入っていき、魚がいそうなところで待つ。


「どうされましたか?」


「ああ、魚を捕ってみようと思ってな」

言いながら俺は剣太刀を鞘から引き抜く。シャラッと涼しい音が鳴る。

しかしまだ抜刀がぎこちない。練習が必要だな。


俺が川に入ったことで驚いて逃げていた魚たちの警戒を解くために、呼吸を鎮め、頭頂部から背骨、尾骨、膝、踵のへと脱力させていき、気配を薄くする。


次に、体の正面にある気配。それをゆっくりと背中の一点に移動させ、こちらの気配を魚たちに気づかれない位置に置く。


そのまま数分待つと、魚たちが俺の存在を意に介さなくなり、ゆっくりとすぐそばを泳ぎ始めた。


腰を深く落とし、剣太刀の両刃と片刃の交わる一点を川底に当てる。

左手のみで柄を握り、右の拳を軽く握る。そして小指の付け根辺りを、片刃の峰の部分に向かって、振り下ろす。

とん――

衝撃が川底に伝わり、周囲の水中が揺れた。


数秒して、魚が五匹ほど浮かんできた。石打漁の要領でやってみたが、上手くいったようだ。

しかしこのままでは魚が流されてしまう。


「コトヒラ、ちょっと手伝ってくれ」

納刀しながら声をかける。


「はい、お任せください」


コトヒラが返事をし、川に向かって跳躍した。小さい岩を足場にして爪先でトントンと軽やかに移動しながら浮いていた魚を全て回収し、陸に戻る。足は全く濡れていない。


「おお、見事な足運びだ。大したもんだな」


「あ、いえ……恐れ入ります」

コトヒラは暴れる魚を持ったまま恐縮している。大蜥蜴にぶつけた氷の術といい、今の体術といい、この青年は素晴らしい能力をもっている。なのに謙虚だ。若いのに偉いな。 


「それにしてもその武器。不思議な強さを秘めていますね」

コトヒラが俺の腰にある剣太刀を見つめながらつぶやいた。


「そうだな、形も変わるし、なんだかいろいろと不思議だ。この、両刃と片刃の交わる一点を当てると強い威力を出すことができるようなんだ」


「なるほど、その武器の能力でリザードマンの槍を破壊したのですね。凄い……」


「それよりこの魚どうしようか、生でも大丈夫そうだが、出来れば火を通したいな」


「火を点ける道具は持ってます。焚火の用意をしますので少々お待ちください」

コトヒラが魚を岩の上に置き、手頃な石を拾って円形に積み始めた。


「じゃあ俺は薪になりそうな木を探してくる」

言って俺は木々の生えている方に向かった。先ほどの森より規模は小さいが、薪になりそうな枝はたくさんあった。


小枝を拾いながら、周囲の木を見つめる。俺がいた世界の木とほとんど同じように見えるが、何かが決定的に違うように思える。なんというか、内側から発する気配が違う。だが、やけに静かだ。虫の声も聞こえないほどに。


しかし、これだけ立派な木々があるのなら果物か何かあるかもしれん。コトヒラが言うには、俺の能力は土地を守護する土地神や精霊の声も訊くことが出来るものだそうだ。なら、試しに訊いてみるか。


「どこかに果物はあるか?」

生い茂る木々、穏やかな風がそよぐ空間に訊いてみる。


『はい……、こちらにどうぞ……』

静かな、穏やかな声が微かに耳に触れ、森の奥へ遠ざかっていく。

先の土地神とは違う声だ。信用していいものだろうか。魔物ではないとも限らない。

俺は剣太刀に左手を添えながら、こちらへと促された方向へ歩き出した。


少し進むと大木が現れた。周囲の木々よりも一際大きい。

『その木に触れ……、そこから右へと進んでください……』


木に触れろ、か。何かの儀式か、それとも罠か。

しかしこの声。敵意は感じない。


「わかった」

返事をしながら木に触れて右へ向かう。さらに進むと今度はやけに細い木があった。

しかし背は先ほどの大木と同じぐらい高い。


『細い木に触れ……、もう一度大きな木のあった場所に引き返してくださいませ……』


「…わかった」

また返事をしながら、細い木に触れ、大木のあったところへと戻る。


大木のそばに戻った瞬間、空気が変わった。


冷たい風が吹く。

妙な場所に出た。数歩も歩けば端に届く円形の空間。しかし、ここだけ木や草が全く生えていない。

振り返ると、来た道が消えている。


空間の端の方に、何かの死体のような物が横たわっている。

あれは、動物か。

そのとき、左手に持っていたはずの剣太刀が消えていることに気がついた。


辺りが暗くなる。風のざわめきが強まった。


倒れていた死体がのぞりと起き上がる。

狐、白く大きい狐。

それがこっちを向いた。目があるはずの場所が真っ黒に溶けてどろどろ流れ落ち、地面に闇を増やしている。

その狐らしきものの口に、剣太刀が咥えられていた。


「やられたか……」

腰を落として構えを取り、襲撃に備えた。


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