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第4話 宿命

私は一人、旅をしていた。いや、旅ではなく逃避行というべきか。

一族にとって大切なものを守りきるため、奴らに奪われることを避けるため、私は走り続けていた。

しかし、とある町で補給をして、そこから立ち去るときに奴らの一団に見つかってしまった。


木々が乱立する森の中を駆ける。

持てる力を全て使って奴らを振り切ったはずだったが、二体のリザードマンに追いつかれ、槍の毒を受けてしまった。


もう駄目かと諦めたとき、遠くから声が聞こえた。こちらに近づいてくる気配。金属がぶつかる音。

そこで、短く気を失った。


次に気が付いたとき、一人の男がリザードマンと向かい合っていた。

男は不思議な衣服を着ていた。見たことがない服だった。


白い上着に、細身の黒い脚衣。動きやすそうな服だが、足は何も履いていなかった。

手には不思議な形状をした武器を持っている。

この武器、昔どこかで見た気がする。


体に鋭い痛みが走った。腿を見ると血が出ている。リザードマンの槍を受けた箇所だ。傷口周辺が紫色に変色し、脚の感覚がない。


濃い血の匂い。

少し離れた場所にリザードマンが一体。仰向けに倒れ、喉に突き刺さった槍を握りしめたまま緑色の血を吐き絶命している。その向こうで、武器を構えている白い上着の男。


私はあの男に助けられたのか。

しかし、今はもう一体のリザードマンと向かい合い、うかつに動けない状態のようで、お互い膠着している。


リザードマンは仲間を倒されたことで警戒心を強め、槍の長さを活かした戦い方をしている。


白い上着の男が一瞬リザードマンの死骸を見た。何か策があるのだろうか。しかし、向かい合っているもう一体のリザードマンが隙を見せないことで動けないようだ。


リザードマンは極度の低温に晒されると動けなくなる。私にできる最善の行動は〈術〉を使って氷の礫を飛ばし、リザードマンにぶつけることぐらいだが、今は毒を受けて瀕死の状態だ。ここで〈術〉を使えば助からないかもしれない。


でもやるしかない。彼が負けてしまえば私も、一族の〈希望〉も尽きてしまうのだから。


私は荒い呼吸をできるだけ整え、両手を結び、印を作る。空気中の水分が凍結し、パキパキッと音を鳴らしながら手の周りに氷の粒が形成され始める。少しでも大きく強いものを作ろうとするが、小さな氷の粒の集合体にしかならない。


これが今の私の限界だ。

白い上着の男と対峙しているリザードマンを睨みつけ、氷の礫を飛ばす。


飛ッ(ヒュッ)――


リザードマンはこちらに注意を払っていない。礫が直撃した。

思った通り、ほとんどダメージはないようだが、奴の動きは止まった。

体の力が抜ける。私は身体を支えることが出来ず、地面に倒れた。


意識がなくなる寸前、甲高い金属音が響いた。


視界が、暗くなった。


◇◇


背中が温かい。それから、ゆっくりと全身が温かくなっていく。

呼吸が楽になって、苦しさが消えていく。

助かったのか?それとも、死んだのか?


顔に触れる土の感触、匂い。

自分がうつ伏せで倒れていることに気づいた。誰かが、私の背中に優しく触れている。

この手が助けてくれたのか?

そう思ったとき、優しく体の向きが変えられた。


木々の間から覗く青い空が見えた。


白い上着の男が私に向かって何か喋っているが、言葉が分からない。

彼が喋った言語はこの国の言葉では…、いや、この世界の言葉ではないように聞こえた。


「あの、あなたは…、あっ、リザードマンはどうなったのですか?」


やはり彼にも、私の言葉が分からないみたいだ。


すると男は目を瞑り、静かになった。自分の内に、何かを探しているように見えた。

少しして目を開き、今度はゆっくりと語りかけてきた。その声は、心に沁み込んでくるような音だった。


「あなたが、助けてくれたのですね」

私の返事を聞いた男の表情が変わった。意味が伝わったようだ。


男が、助けてもらったのはお互い様だと、私に対してありがとうと言っている。

男の話す言葉の意味が、私にも少しずつ分かりはじめた。


お互いの言葉が分かるようになったのではなく、声の音に含まれるこころそのものが伝わってくる。

この男の能力ちからはもしかしたら。


私は男を正面から見た。その顔には、力強さと優しさを感じる。

男が手にしている武器を間近で見る。

思い出した、これは〈刀〉と呼ばれている武器に似ている。


そうか、そうだったのか。

私が一族から命じられた使命。そして私に与えられた名前。

やっとわかった…


その時私は、宿命を信じた。


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